礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

神道の戦争責任と神々の不在

2015-06-25 03:24:47 | コラムと名言

◎神道の戦争責任と神々の不在

 本日は、柏木隆法〈カシワギ・リュウホウ〉さんの「隆法窟日乗」から、六月二五日の分を紹介させていただきたい。読んでいただければおわかりと思うが、素材、発想、論理、文体のどの面においても、柏木さん以外には、絶対に書けない文章である。文中、「拙」は、柏木さんの一人称である。

 隆法窟日乗(6月25日) 通しナンバー438

 京都の下鴨〈シモガモ〉神社の敷地にマンションが建つとか建たぬとかで揉めている。建てないと25年に一度の式年遷宮〈シキネンセングウ〉ができない程、神社は窮乏してきたという。かつてこの神社の脇に松竹撮影所があり、火災の恐れがあることから現在の太秦雉子の辻〈ウズマサ・カタビラノツジ〉に移った。拙が学生のころにはまだ撮影所の残骸が残って居て材木置場のようになっていた。神社前の一の鳥居〈イチノトリイ〉から本殿前の鳥居までの雑木林を糺の森〈タダスノモリ〉といって馬を走らせるようなロケは大抵はここで行われていた。『暴れん坊将軍』などはここである。ここがよく使われたのは駐車場があり、ロケバスが止めやすいことがその理由である。城の表門は彦根城、江戸城の庭は神泉苑、ごく希〈マレ〉に姫路城に遠征することもあった。神田明神などの朱塗りの楼門は上京区今宮神社。茅葺〈カヤブキ〉の庄屋屋敷は亀岡。ロケで一番よく使われるのは嵯峨の大覚寺である。使用料は一回5万円。セットを組むと百万単位の費用が必要だからロケだと格段に安い。東京だと二子玉川〈フタコタマガワ〉の松並木が使われていたが再開発が進み『大江戸捜査網』を撮っていたころと違って、最近はつくば未来のようなテーマパークが使用されるケースが多い。昔と変わらないのは妙心寺境内で今でもよく使われている。ロケ地のことを書くつもりはないが、昔は京都の古い町並みは時代劇のロケにあるようなもので、青蓮院のような国宝でも貸してくれた。大原の三千院、寂光院なども使っていたが観光客が増えすぎて、それもできなくなった。映画の全盛のころは下鴨神社も参拝客も多くて、こんにちのような経済危機のようなことは起きなかったが、伊勢神宮の式年遷宮のようにどうしてもやらなければならない神道復興の運動が保守政党の呼びかけで行われるようになってから、やらなくてもいい神社までこれに倣うようになってきた。これが神社にとっても迷惑な話になってのしかかって来た。よくよく考えてみれば神道は自然信仰である。大和三山のように山そのものが御神体だから維持費用もかからなかった。それをいつの間にかド派手な神道行事を盛り込んだから観光協会の負託に応えられなくなってしまった。伊勢神宮を除けば日本中の神社は運営に四苦八苦している。その原因はいえば信仰する氏子〈ウジコ〉の組織が全国的に減少してきたことである。詰まる所、戦勝祈願のような儀式がなくなったことからくる文化の変化である。古き良き時代の農耕民族か豊穣を祈る信仰ならば、それなりに信仰体系は続いていくだろうが、やはり神道の戦争責任が現在も続いていると思う。白山信仰、熊野信仰などの山岳信仰や御霊〈ゴリョウ〉信仰などは地域性もあって一般的ではない。要は戦勝祈願のような侵略性の強い国家神道の時代ならば建物の維持管理も可能であったが、賽銭〈サイセン〉だけでは宮司〈グウジ〉が常駐できなくなってきたということだ。拙の住む土岐市〈トキシ〉でも11の神社があるが、宮司が常駐しているところは一カ所もない。そして人手不足から秋祭りでも神輿〈ミコシ〉を出すことができず、軽トラに載せた神輿に祭法被〈マツリハッピ〉を着た幼児がトボトボついて行くだけの祭りになった。地方にしてこうだから下鴨神社でも内情は苦しいであろう。更にそれに加えて氏子の高齢化が進み、祭りの幟〈ノボリ〉一本立てるのも困難になってきた。拙宅近くの南宮〈ナングウ〉神社ではかつて神楽殿〈カグラデン〉があったが、落雷による焼失で再建されず、田楽〈デンガク〉や神楽の伝承も絶えた。そもそもがこんな状況である。安倍晋三が安保法制をいくら強行しても核となる神道や天皇制の復興が不可能である以上、どうしてもアメリカ流の軍制の模倣に走らざるを得ないが、これとても各国のような国民皆兵制度まで理解が得られるか疑問である。神々の不在に国家は成り立つのだろうか。

 青蓮院の読みは、〈ショウレンイン〉が一般的だと思うが、かつて、在野史家の安田徳太郎(京都出身)は、これに【せいれんいん】というルビを振っていた(当ブログ、本年四月一九日のコラム参照)。はたして、どちらが正しいのだろうか。

*このブログの人気記事 2015・6・25

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする