◎国語国字問題が重要国策となった「導火線」
昨日に続き、本日も、『科学評論』の一九四一年(昭和一六)一一月号に掲載されていた記事を紹介する。本日、紹介するのは、稲垣伊之助の論文「国語国字問題最近の動き」である。これは、かなり長い論文なので、何回かに分けて紹介する。稲垣伊之助は、カナモジカイの会員と思われるが、今のところ詳細は不明。
国語国字問題最近の動き 稲垣伊之助
複雑でむづかしいこと、世界第一である国語国字の、整理統一改善も、熱心な人々の主張運動がようやく世に認められ、その整理改善の動きが活潑になつたことは、喜ばしいことである。
国語国字の整理改良の理由や必要は、もう説く必要はあるまい。いかにこれが動きつつあるかの実状を検討して、これを報告することが、学究徒を多くの読者とする本誌の記事として適切と信じる。
重要国策となつた国語国字問題
昭和十六年〔一九四一〕二月二十五日、定例閣議において、この問題について橋田〔邦彦〕文相より発言、種々意見の交換を行つた。従来しばしばこの問題が取上げられながら実行されないのにかんがみ、今後政府として、文部省が中心となり、各省が協力して整理改良を断行することを申合せ、この問題を重要国策として取上げた。
(二月二十五日新聞報道)
文部省としては、昭和十五年(一九四〇)十一月国語課を設け、着々準備を進めているが、国語調査官を増員し、国語審議会の適切な運用と相まつて、ます常用漢字およびカナヅカイの整理に手を着けている。遅きにすぎたうらみはあるが、とにかく多年の懸案が国策として取上げられたことは、画期的事実で、国家永遠の発展のドダイを培う〈ツチカウ〉ための一大進歩として喜ばねばならない。
陸軍の兵器用語簡易化
昭和十五年二月二十九日、陸軍省は、陸普第一二九二号で、
兵器名称及用語ノ簡易化ニ関スル規程を発布、陸軍一般に通牒を発した。その第二条に、
《兵器名称等ニ使用スベキ漢字ハ兵器取扱ノ一般化ヲ徹底,セシムル趣旨ニ基キ平易ニシテ尋常小学校ヲ卒業シタル者ガ之ヲ読ミ且書キ得ルヲ目途トシテ選択シ前号名称及用語選定ノ要旨ト相俟ツテ其ノ使用ヲ制限ス止ムヲ得ズ制限外ノ漢字ヲ使用スル場合ニ於テハ之ニ振仮名ヲ附スルカ又ハ仮名書トス》
そして漢字は次のように定めた。
一級漢字=尋常小学四年修了程度をもととし、五六年程度の平易なものを加へたもの九五九字
一般の兵に取扱わせる兵器はこの範囲による。
二級漢字=尋常小学修了程度の漢字及び特に用途ひろき漢字二七六字を加え
相当の素養あるものの取扱う兵器に使用。
兵器用語の改定せらた実例、下に書いたのが、新〈アラタ〉にきめられた兵器用語の例。
(螺子) ねぢ
(駐螺、壓螺) 止ねぢ
(簪環) びじよう
(鞐) こはぜ
(廓剤鏡) 蟲めがね
(鑰) かぎ
この改定によつて、軍隊においては、兵の教育に非常に能率をあげたので、今、各種の操典等の漢字を平易化することに、調査を進めている。
国語国字問題が重要国策になつたその導火線は、このようなところから起つていることは見やすい事実である。