礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

向うの車は100km/hぐらいで行き交う(玉井勇)

2025-03-14 01:54:14 | コラムと名言
◎向うの車は100km/hぐらいで行き交う(玉井勇)

『オートバイ』1958年2月号から、「ヨーロッパ4500キロの旅――国産スクーターで走破した東京工業大学生7人組」という記事を紹介している。本日は、その三回目。
 文中、鈴鹿は、日大工学部機械教室の鈴鹿一男、玉井高木は東工大学生の玉井勇・高木英匡(ひでまさ)、松尾は富士重工宣伝課長の松尾清秀、金子は、ミツワ自動車宣伝課の金子秀夫である(敬称略)。

      便利なユースホステル
高木 とにかく4ヵ月向うへ行つている間は勉強のことなんか全然考えませんでした……。(笑)
鈴鹿 でも社会科や政治科,それに言語学をやつたことになりますね。(笑)まあ,いずれにしても貴重な体験を得たわけなんですが,上陸された所からひとつお話ねがいましようか。
玉井 上陸したのはマルセイユですが,そこの山の手のボアリュズイという所のユースホステルに泊つたんです。古いお城みたいな家で,今じやボロなんですが昔は立派だつたでしよう。
松尾 映画のロビンフッドの冒険に出てくるようなうちですね。
玉井 そうですね,お城というよりも館〈ヤカタ〉ですね。そういうユースホステルは自転車旅行とかオートバイ旅行をする人達が利用するところなんですが,そういう協会があつて,それに加入していくらかの会費を払つておけば1泊百円位で泊れるんです。これはちよつとした町にはどこにもあるもので向うの若い人逹や学生などはこれを利用してヨーロッパ中を旅行しているんですね。
鈴鹿 うらやましいな。桶谷先生とはどこで落ち合う予定だつたんですか。
玉井 先生はマルセイユまで迎えヒ来てくれました。それから先生と一緒にマルセイユを出てヴァランスへ向つたんです。これは河のほとりでいい所でした。それからリヨンは素通りして何も見学しなかつたんですが,非常に美しいトンネルのある街でした。そしてシャロン,シャロンから300粁〈キロメートル〉ぐらいでホンテンブローですがこの辺は道がよかつたですね。向うの車はみんな100キロぐらいのスピードでスイスイ行き交う〈ユキカウ〉んです。
松尾 平均時速はどのくらいで行つたんですか。
高木 平均時速はまあ60キロぐらいです。

      守られている交通道徳
鈴鹿 マフラーが落ちたというのはこの辺ですか。
玉井 この辺ですね。マフラーが少しずつこわれて行つたもので,音が次第に大きくなり,遂に完全に落ちた時は気がつかなかつたのです。(笑)
鈴鹿 音速以上で走つていたんじやないかな…… (笑) 。写真で見ると風防はつけてないようでしたね。
高木 ええ付けていません。向うの人も付けてないのが多いようですね。
松尾 埃〈ホコリ〉が少いから必要もないのでしようね。道は日本の様に混んでないでしようね。
玉井 大分すいています。ところが長い坂などでトレーラーが自分の車体と同じ位の荷を積んで走つていて坂でスピードが落ちるものですから後に車が続いちやうんです。そんなことがありましたね。
鈴鹿 道格の境界はやはり白線でしよう。
玉井 まあ大体白色が主ですが,面白いのは路面が色分けされていることです。3車線あるとそれぞれ違う色がついてるんです。それで真中の道路は追越し専用道路で普段は使 わず,前に遅い車がいる時中央へ出て追越すわけです。
松尾 フランスあたりではスクーターもずい分走つてるでしようね。
玉井 イタリーのランブレッタやベスパなどが多く見かけられました。それにドイツの変つたスクーターも見うけましたね。私達はそれからパリへのり込んだんですが大使館で盛大な観迎会をしてもらいました。それでパリには4日ばかり滞在しまして市内をぐるぐる廻りました。何しろ足があるのが強味〈ツヨミ〉でした。
金子 向うへ上陸してですね,まあヨーロッパと日本で一番違つた風俗とか,特に印象に残つたものは……。
玉井 そうですね,私が特に感じたのは風景ですね。白い壁や赤い屋根の家があつてその中に教会があつて,絵のような感じがする景色ですね。
鈴鹿 チョコレートの箱のふたにあるような風景でね。
高木 そう,あれですよ。
松尾 交通状態とかで日本と変つている点,またはあちらの交通道徳はどうですか。
玉井 これは日本とは比較にならないほどよく守られています。ですから道路に急に飛び出して来るようなこともありません。日本だと走つているとよく横から急に飛び出してくる人がいますが,そんなことはありませんから安心して走れるんです。そりやなかには交通信号など無視しているような人もいますが,それ程危険だと感じないんです。また,並んで走つていても右に左に急に進路を変えないんですよ,それが東京へ帰つたら急に右に左に曲る人が目立つんですね。向うでは全く安心して走れます。
金子 交通法規はどうですか,日本と変つている所も多いでしようね。
高木 僕らの通つた所はどこでも右側通行で……。
金子 まあそれはそうでしようが,そのほかに例えば日本の規則で通用しますか……。
玉井 そうですね,大体半分ぐらいは通用します。道路標識などは国が違つても殆んど変りません。フランスへ行つてもドイツへ行つても同じなんですね。それに踏切は一時停車しなくてもいいんです。
鈴鹿 ほほう……。
玉井 それから道路内には駐車出来ないんです。道路のわきに駐車するところがあつてそこへ駐車しなくてはいけないんです。また,道略の両わきにマイル・ストンという石の里程標があるんです。これにはこの道路の番号が記してあつて前の町から何粁,次の町まで何粁と書いてあります。例えばN6とあればナショナルロードの6番というわけなんです。
金子 マイル・ストンは1マイル毎〈ゴト〉にあるんですか。
玉井 あの名前はマイル・ストンというのですが実際は1粁〈キロメートル〉毎にあるようですね。ですから本当はキロ・ストンですね。(笑)こまかい所では100米〈メートル〉毎に石がある所もありました。それから案内標識ですが,これがとても完備されていてまた判りいいんですね。リオンのような大きな町に入つても迷わないです。パリへ行く街道も角〈カド〉毎にパリという標識があるんです。
金子 パリなんかはどうですか,東京のようにごみごみしてますか。
高木 ごみごみというか……,まあ人間はそんなに東京の新宿みたいに押しあいへし合いしていません。しかし道路なんかに商品とか自転車を置いたりはしていませんね。
鈴鹿 あれは確かに交通を乱すな。〈142~143ページ〉【以下、次回】

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