◎恋はなやまし、春雨降る夜(美空ひばり)
昨日の続きである。松竹映画『鞍馬天狗 角兵衛獅子』(一九五一)を見て、最も演技に注目した役者は、川田晴久(黒姫の吉兵衛)、ついで加藤嘉(隼の長七)であった。では三番目はというと、これまた、嵐寛寿郎でも美空ひばりでもなかった。八丁礫〈ハッチョウツブテ〉のお喜代を演じた山田いすずである。
映画の冒頭、壬生浪士隊を抜けようとした小河原進助〈オガワラ・シンスケ〉(原健作)が斬られる。お喜代は、小河原の愛人ということになっている。小河原を殺したのは鞍馬天狗だと思いこんだお喜代は、天狗をつけねらう。しかし、映画の後半では、自分が天狗を誤解していたことに気づき、一転して、天狗に好意を寄せ始める。
ある雨の日、廊下で物思いにふけるお喜代。顔がアップされる。ここで流れるのが、ひばりの「京の春雨」である。
恋はなやまし、春雨降る夜〈ヨ〉
ちらり見かわす、顔と顔
瀬音水音〈ミズオト〉、おもかげゆえに
桜吹雪に、ぬれて立つ
このシーンは、実によくできている。山田いすずの無言の演技がよい。美空ひばりの唄にも艶がある(ローティーンの少女が歌っているとは信じられない)。
ところで、上記の歌詞であるが、これは、「京の春雨」(作詞・西条八十、作曲・万城目正〈マンジョウメ・タダシ〉)の一番と二番を、脈絡なく、つなぎ合わせたものであって、読んでみると、まったく意味が通らない(下線部が二番)。作詞の西条八十〈サイジョウ・ヤソ〉が、よく、文句を言わなかったものである。とは言え、不思議なことに、このツギハギ的な歌詞が、この場面にピッタリなのである。
なお、余談であるが、加藤嘉と山田いすずとは、一九五〇年(昭和二五)から一九五四年(昭和二九)までの間、配偶関係にあった。つまり、ふたりは、この映画に夫婦そろって出演しているのである。当時の映画ファンは、当然そのことを知っていて、その上で、この映画を鑑賞しているわけである。