我々がコーヒー・ハウスに戻ったのは三時少し前だった。
レイコさんは本を読みながらFM放送でブラームスの二番のピアノ協奏曲を聴いていた。
見渡す限り人影のない草原の端っこでブラームスがかかっているというのもなかなか素敵なものだった。
三楽章のチェロの出だしのメロディーを彼女は口笛でなぞっていた。
「バックハウスとベーム」とレイコさんは言った。
「昔はこのレコードをすりきれるくらい聴いたわ。本当にすりきれちゃったのよ。
隅から隅まで聴いたの。なめつくすようにね」
(『ノルウェイの森』より)
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念願の1977年ポリーニ、アバド、ウィーンフィルのブラームスピアノコンチェルト2番のCDを入手しました。
それほどこだわらなければyoutubeで聴けるのにあえてCDの媒体で欲しくなるのはなぜでしょう。
1番でなくて2番から入ったのは無意識のうちに村上春樹に毒されていたからだと今頃になって気がつきました。
思い返してみればノルウェイだけじゃなくて他のエッセイでも何度かこの曲がいいと書いていたかな。
CDは2枚組で一緒に1番も入っていたのでピアノコンチェルト1番もよく聴いています。
こちらはベームとウィーンフィルの組み合わせ。
1番の重々しい耳に残るメロディも素敵なんですが原点回帰するように2番に戻ってきてしまいます。
刷り込みって恐ろしいですね。
CDは例のお店で買いました.
店長があまりに熱くブラームスを語るもので
話の最中にかかってきた病院からの院外コールにすぐに出られませんでした(苦笑
「ブラームスは後期の作品がとてもいいんですよ
特にクララに贈り、グレイ・パールと評された小品109番が素晴らしい
ショパンピアノコンクールで4位を取った日本人ピアニストが
CDのデビュー曲としてこの曲を選んでいるんですがこれがまた名盤なんです
数年前にこの人の演奏を生で聴く機会があったんですが涙が止まりませんでした―
ちょっと今からかけますからよかったら聴いて下さい」
・・今度はそのグレイ・パール、買いに行こうかなと思います。
ちなみに病院からの電話は大した用事じゃありませんでした。