昔読んだときはそれはまるで昔話のようでした。
話の筋としては理解できるけど、あまりに自分と遠いところにある架空の物語でしかないから今ひとつピンと来ませんでした。
久しぶりに読み返してみて、主人公のクズっぷりに衝撃を受けました。え、こんなひどい話だったっけ‥。同時に昔はそう感じなかった自分の感性にも驚きました。
国境の南、太陽の西。
ひとことで言えばどうしようもない不倫小説です。おまけにミステリーというかSF要素まで加わってどう読んだらいいかも分からず混乱するラストシーン。なんだこれ‥
村上春樹の主人公像が気持ち悪いという意見をしばしば耳にしますが、そんな人はこの小説は絶対受け付けないでしょう。
そしてなにより悲しいのはそんな主人公に自分を投影できるようになってしまったこと。
僕はこの最低な主人公とどれだけ違うんだろう‥むしろ共通項を探すほうが簡単じゃないかとさえ思います。
星新一のショートショートに、大人の不正を憎む地球の子供が数十年先に宇宙人と再会する話があります。大人になった子供たちはすっかり汚い大人に変わってしまっていたというアイロニカルなプロットです。
でも、そうじゃない人がどれだけいるんだろうかとあえて問いたい。
今思えばあんなことをするべきじゃなかった。そう思うことはたくさんあるし、そもそもその当時だって自分に非があることを十分自覚していた。今となってはどうしようもないことだけど、小説を読んでいて苦い記憶が呼び覚まされました。
この小説の内容についてドイツの文壇で大論争が起こったことがあるそうです。フィクションなんだからそんな目くじらを立てる必要はないじゃないかとは思いますが、それだけ読者の心をざわつかせる要素がもりこまれているということなんでしょう。
仕事のことでいつも以上にストレスを抱えているときに限って読後感の悪い本を選んでしまいました。それでも最後まで読み切ってしまう僕は認めたくはないけどハルキストなんでしょうね。
好みにあう本なら読んだことのない本も読んでみたいんだけど、探すだけの熱量がありません。面倒くさがりな性格が年とともにひどくなっている気がします。