未来技術の光と影。
SIYOU’s Chronicle




不思議な微生物、藻食べて植物に大変身 名は「ハテナ」
http://www.asahi.com/science/news/TKY200510140192.html

緑藻の仲間を細胞内に取り込み、光合成能力を獲得する不思議な単細胞生物を、筑波大の岡本典子さんと井上勲教授が和歌山県と福岡県の砂浜で見つけた。「ハテナ」と名付けた。

ハテナは鞭毛(べんもう)虫の一種で、大きさは100分の3ミリ程度。無色のものは口のような捕食器官を持ち、特定の緑藻の仲間を細胞内に吸い込む。この藻は細胞内で共生、緑色になったハテナからは「口」が消え、光合成をするようになっているらしい。

緑色のハテナは、緑色と無色の二つの細胞に分裂して増え、共生する藻は緑色細胞にだけ受け継がれていた。もう一方の無色細胞にはやがて捕食器官ができて、藻を取り込むようになる、と考えられている。


小さなガラスの瓶に水草とエビを密閉し、その中での食物循環により、光を当てるだけで、エビを飼育できる商品が販売されている。まさしく小さな宇宙である。この「ハテナ」は、さらにそれを極限まで押し詰めたものと言えよう。

子供のころ「植物は光合成により、二酸化炭素を吸収して、酸素を吐き出している。」と教わった時、「人間にも葉緑素があったら、日光浴だけして生きていけるのに。」と考えたことがある。
私にとってそれは、そんなに突飛な考えには思えなかった。動物と植物が必要としているもの、そして不用としているものが相互に交接しており、双方が相手を補完し合って完結している様は、到底偶然などではなく、宇宙の必然であると感じられた。

ではなぜ、自然界には、そのような生物がいないのか。自己完結してしまった彼には、もはや他と係る必要がなくなってしまう。地球がそのような生物で満たされた時、もはや生態系は、無風状態の、完全に静止したものになってしまうだろう。そう考えると、生物同士が激しくぶつかり合う、ダイナミックな生態系の躍動こそが、地球の、そして宇宙の存在理由なのかもしれない。

現代においては、人間という一生物種が、工業化という進化の道を進みながら、周りの生物との相互依存関係を断ち切って来た。このまま進めば、地球は人間の支配化に置かれた、全くの無味乾燥な世界に収束してしまうのだろうか。いや、宇宙の力は、もっと偉大であろう。


「おめでとうございます。初の有人火星探査船の乗員の最終選考に残りました。これからお尋ねする内容は、今後の彼方の人生を大きく左右する問題です。良く考えて回答して下さい。ただし、拒否された場合には、どんな形であれ、探査船に乗船することは出来なくなります。」
「探査船に乗れなくなること以上に、私の人生を揺るがすようなことなどありません。たとえ戻ってこれなくとも、辿りつける可能性さえあるのでしたら、どんな危険ですら厭いません。」
「それでは、短刀直入に申し上げます。最終訓練の前半1ヶ月は、どんな料理でもリクエストできます。これ以上はないという、豪華な食生活が送れるでしょう。ただし、出発の1ヶ月前に、NASAが極秘に開発したこの『藻』を5kg食べて頂き、それ以降は帰還まで、何も食べることができなくなります。」
「まさか、たった5kgの藻で、2年間も食い溜めしろというわけじゃ、ないでしょうね?」
「ちょっと違いますが、だいたい同じです。」
「どれだけ栄養価が高かったとしても、すぐに体外に排泄されてしまうでしょう?」
「あなたは『ハテナ』と呼ばれる鞭毛虫をご存知ですか?」
「体内に藻を取り込んで、動物でありながら、光合成をするという微生物でしょう?『半草半獣』という呼び方をしている記事もありましたね。まさか、その藻を食べろと?」
「流石に広い分野への見識がおありですね。」
「ちょっと待って下さい。それは、その『ハテナ』の持つ特性であって、いくら人間がその藻を食べても、光合成はできないでしょう。」
「それが、その後の研究で、その特殊能力は寄生している藻の方にあることが解りましてね。その藻を食料としているのが、たまたま『ハテナ』だけであったらしいんですよ。」
「本当ですか。」
「ええ、哺乳類を含め、殆どの動物での実験結果は、極めて良好です。」
「人間でも安全性の確認は取れているんでしょうか?」
「ええ、既にボランティアの方による、臨床試験が完了しています。」
「ボランティア、ですか?」
「ええ。浜辺に行って『一日中、日光浴をしているだけで、食うに困らないような仕事がある。』と持ちかけた所、あっと言う間に、予定人員が確保できたんですよ。」
「それは、詐欺ではないんですか?」
「いえ、皆さん、ご満足頂いています。」
「ことろで、ドクター。帰還後に、普通の食事がしたくなったら、ちゃんと元に戻るんでしょうね。」
「実はその問題については、完全には解決しておりません。」
「と、言いますと?」
「被験者に分裂処置を施すことにより、一人は完全な『獣態』に戻ります。ですが、もう一人は『草態』のままになってしまいます。」
「では、私が帰還後にその分裂処置を受けたとすると、元に戻れる確立は、50%と言うことでしょうか?」
「その辺の説明は、少し難しいのですが、50%なのではなく、100%の確立で『獣態』の彼方と『草態』の彼方の両方が出現します。」
「でも、私は一人なんですから、今いる私がどちらになるかは、半々なのでしょう?」
「いえ、どちらも、等しく彼方なのです。今の彼方が分裂すると考えると解り難いのですが、分裂した彼方から見れば、どちらも等しく彼方であって、過去の記憶には、今私とこうして話している彼方がいるわけです。」
「良く解りませんが、万一『草態』になってしまっても、再度、分裂処置を受けることは、可能なんでしょうか?」
「ええ、技術的には何の問題もないのですが、それを許すかどうかは、現在審議中です。」
「なぜですか?」
「それは、もちろん、『草態』の彼方は、必ず分裂処置を望むからですよ。分裂処置の度に、新しい『獣態』の彼方が派生しますが、『草態』のあなたも必ず発生するため、永遠に彼方が増え続けることになるんです。ですが恐らくは、5年の期間を置いてからの再処置を認める方向で、決着が着くと思われます。」
「したかありませんね。同意致しましょう。ところで、『ハテナ』以外は、なぜその藻を食料にしないんでしょうか。」
「私は食べたことがありませんが、とても不味いそうですよ。」
「そうですか。ひょっとすると人生最後になるかもしれない食事が、とてつもなく不味い藻を5kg食べることになる訳ですね。」


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