先月22日に92歳になる李登輝元総統が国会内で講演した。李登輝はその地位によって政治主張が目まぐるしく変化して、駆け引き上手な現実主義者というイメージが強い。今回の講演は超党派の国会議員の呼びかけで実現し、与野党の国会議員約290人が出席した。安保法案について「日本が主体的に安全保障について意識を持つことがアジア全体の平和につながる」と支持する考えを示した。馬英九政権については「中国との経済協定を密室協議で強引に結んでいる」と批判。そのうえで「総統の権力が大きくなり過ぎ、制限を受けるべきだ」と述べ、政治改革の必要性を強調した。
毎日新聞の先月26日の社説は「近隣の変化に目配りを」と題して台湾総統選を取り上げていた。与党の国民党は朱立倫・新北市長ら有力候補が立候補を見送り、女性の洪秀柱・立法院副院長(67)が公認候補に選ばれた。野党の民進党は4年前の総統選にも立候補した、女性の蔡英文・党主席(58)の出馬がすでに決まっていた。いずれにせよ台湾初の女性総統の誕生が確実になった。(高雄市の六合夜市にて・2015年4月)
台湾は中国と経済的な結びつきを強めてはいるが、安全保障では米国を頼っている。政権奪還が濃厚な民進党の課題は対中政策だ。現在の馬政権は「一つの中国」を認めるが、その内容は独自に解釈するという「1992年合意」を基に中国との交流を進めてきた。しかし、台湾独立綱領を持つ民進党はこの合意を認めていない。蔡氏は6月に訪米した際「現状維持」の立場で中台関係の安定化を目指す方針を表明している。
中国との統一を目指す国民党政権は、台湾人意識を無理やり消そうとしている。それらに反発した若者の行動が、去年春のヒマワリ学生運動だ。この夏は高校歴史の学習指導要領改訂により教科書の内容が中国寄りになるとして高校生らが撤回を要求して教育部に座り込んだ。改定の内容とは、17世紀に清朝と戦った鄭成功一族による台湾統治を「鄭氏統治時期」という表現を、明朝とのつながりを示す「明鄭統治時期」に変更とある。ほかにも「日治(日本の統治)」という用語を「日拠(日本の非合法な占拠)」へ変更などがあるという。