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風のささやき 俳句のblog

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秋の温泉宿で 【詩】

2019年10月10日 | 

「秋の温泉宿で」

 ○すすき

白いお湯の面では
首を伸ばし
青空に手を振るすすき

ほんとうは天に向って
伸びてゆきたいのだろうに
その意気地が秋にくじかれて
俯いたまま

お湯の中にだけ
すすきのほんとうの気持ちが
淀んだままだ

 ○川の瀬

流れが岩を乗り越えるとき きらりと光る
そうしてするりと乗り越えてゆく
流れは岩を乗り越えることを楽しんでいる

僕も苦しみを乗り越えるごと
明るく光りたいのに

 ○赤とんぼ

柵の上に止まり
向かい合う赤とんぼ
その複眼には
一体 どんな僕が映る

それも僕だとて
どれがほんとうの僕だろうか
お前が言葉を持つものならば
頭を下げて教えを請いたい

 ○ブナの林

ブナの葉の隙間から零れ落ちる
太陽の陽射しは柔らかい
まぶしいことは 嬉しいことだと知る

 ○黒い蝿

突然 空から落ちて
白い湯船に沈んだ黒い蝿

吊るされた裸電球に
目がくらんでしまったのだろうか
思いがけない失速 操舵ミス

救い出そうと
湯船をかき回して指先に
飛び上がろうとはしない黒い蠅