「冬の日」
気持ちを込めないうなずきの後には
一頻りの会話も途絶えて
僕はもうそれ以上には
言葉を交わす気持ちも起きなくて
さっき入ってきたラーメン屋の
明るい入り口の方を眺めていた
もう僕の心はあからさまに
そちらへと免れて行きたくて
小春日和だ
ラーメン屋の幟が
陽射しの中で淡い影をなびかせている
その端々からむしられていくことに
必死に抵抗をしているかのように
どうしようもなく苦しげだ
(きっと影がすっかりと消し飛んだのなら
その跡には青い涙の水溜り
できているのに違いがないと)
ラーメン屋の店主はさっきから
忙しそうに湯気の中で働いている
休み無く動かしている両手は
まるで意思を持つもののように
そのうちの一つの
僕の注文もこなしている
(僕は何故さっき醤油ラーメンなどと
注文をしていたんだっけ)
僕のまわりではまた皆が会話を始める
さも楽しいことを自分は
知っているのだとでも言うように
切り出された会話に皆が食らい付いている
(その浅ましさよ)
僕一人はその会話には馴染めずに
苦しそうな幟の影に視線を注いだままで
また頭痛のように止まないこれだ
心から一斉に血の気が引き
僕の目の前が青白い闇で覆われる
すべては色あせ意味の無い
関心の無い出来事へと沈んで行く