夜遅くなって飛び乗った電車は 僕の家の駅の手前までの電車でした その電車の終点で降りて 乗り換えのために待っていると 酔っ払ってのことなのでしょう 誰かがこちらにも聞こえる声で 歌っていました 僕も聞き覚えのあるラブソング 一体誰のことを思いながら 歌っているのだろうとちょっと気になり 決して上手とはいえないその歌に 耳を傾けていました その歌が終らないうちに 最終電車は滑り込んできたのですが
以前、自転車に子供たちを乗せて
保育園に向かったときのこと
風が冷たく感じられるので
寒いねというのが
自転車の上での会話の始まりでした
朝なのでついつい急いで
ペダルを踏む足にも力が入るのですが
その分風が冷たく感じられ
前のシートに乗っている子供は
まともにその風を受けるので
思わずうつむいてしまいます
普段は饒舌な二人ですが
ついつい寒い風に
口を閉ざされがちの冬の朝です
保育園に向かったときのこと
風が冷たく感じられるので
寒いねというのが
自転車の上での会話の始まりでした
朝なのでついつい急いで
ペダルを踏む足にも力が入るのですが
その分風が冷たく感じられ
前のシートに乗っている子供は
まともにその風を受けるので
思わずうつむいてしまいます
普段は饒舌な二人ですが
ついつい寒い風に
口を閉ざされがちの冬の朝です
「冬の日」
気持ちを込めないうなずきの後には
一頻りの会話も途絶えて
僕はもうそれ以上には
言葉を交わす気持ちも起きなくて
さっき入ってきたラーメン屋の
明るい入り口の方を眺めていた
もう僕の心はあからさまに
そちらへと免れて行きたくて
小春日和だ
ラーメン屋の幟が
陽射しの中で淡い影をなびかせている
その端々からむしられていくことに
必死に抵抗をしているかのように
どうしようもなく苦しげだ
(きっと影がすっかりと消し飛んだのなら
その跡には青い涙の水溜り
できているのに違いがないと)
ラーメン屋の店主はさっきから
忙しそうに湯気の中で働いている
休み無く動かしている両手は
まるで意思を持つもののように
そのうちの一つの
僕の注文もこなしている
(僕は何故さっき醤油ラーメンなどと
注文をしていたんだっけ)
僕のまわりではまた皆が会話を始める
さも楽しいことを自分は
知っているのだとでも言うように
切り出された会話に皆が食らい付いている
(その浅ましさよ)
僕一人はその会話には馴染めずに
苦しそうな幟の影に視線を注いだままで
また頭痛のように止まないこれだ
心から一斉に血の気が引き
僕の目の前が青白い闇で覆われる
すべては色あせ意味の無い
関心の無い出来事へと沈んで行く
その日は朝から雨 家を出たのも遅れたので 近くの保育園までタクシーを使って 送り届けることにしました 僕はタクシー乗り場までいって 見送る方だったのですが 子供の一人が 鼻水を垂らしながら 僕に手を振っていました そうして笑いながら 頑張ってと口元を動かしました 手を振る僕も思わず笑顔になり 体の中が暖かくなるのを感じて 力がじわじわと湧いてきました