森の写真はまだ撮れたことが一度もない。
森を撮ったつもりでも、林にしか写らなかったり、木立でしかなかったり、森は難しい。
森は、その中に入ってしまうと、一本一本の木しか見えなくなる。
せいぜい周りを見ても、木立しか見えない。
木を見て森を見ずというのは、近づきすぎるから、あるいは引きずり込まれているからか。
安い木造の家を森と訳した粋な人がいた。
「ノルウェーの森」という名邦名をつけた、当時東芝音楽工業でビートルズ担当のディレクターをしていた高嶋弘之氏である。
"Norwegian Wood"が「ノルウェーの家具」や「ノルウェーの木造小屋」などと呼ばれたのでは、あの曲の売れ行きも違ったであろう。
村上春樹氏の小説も生まれなかったかもしれないと、名訳者と同姓の高嶋ひでたけ氏本人だったか対談の相手だったか忘れたが、ラジオで放送していたのが、また因縁を感じて面白い。
森は遠く見るほど美しい。
近くに寄れば様相も、気配も変わる。
中に入れば入った者の心持も変えてしまう。