聞き耳を立てるのは聞こえない話を聞き出そうとすることですが、聞き耳を立てさせようと仕向ける話術もあります。
声を小さくして聞きにくくすると、皆が注意して聞くようになるという手法を、講演などで用いる人がいます。
亡くなった西部邁氏は、しっかり聞かせたいときに「小さい声で言いますが」という前置きがお好みのようでした。
聞きにくくするには、声を小さくするだけでなく、口語ではあまり使わない言葉を混ぜて使うという方法もあります。
議会や記者会見での発言にもその手がときどき使われます。
麻生副総理のお得意の手で、未曾有を「みぞゆう」と言ってみると、国語表記の基準どおりの言葉しか知らない記者はたちまち引っ掛かります。
それを鬼の首でも取ったように揶揄するような記事を書く人は、自分の知識の浅薄さの宣伝になっていることにも気付きません。
昔使われていた読み方を変えて、現外語風に3音めを「yu」とはっきり発音して聞かせれば、耳に刺激を与える効果が強まります。
石原元知事も同じ方法を使っていました。
安倍総理の「必ずや」という文語混入もその手だったのでしょう。
「必ず」では言葉の力が足りないとみてのことかもしれません。
それを、わざわざ「や」を抜いて記事にしていた世話焼き紙もあります。
耳という機関は、不思議な力を持っているものです。
耳の働きが弱まると、歩調まで怪しくなりますから。