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宇宙のどこの果てからとも知れず、肉眼はおろか顕微鏡にも見えない素粒子のようなものが飛んできて、それが地球上のあらゆるものを射撃し貫通しているのに、我々愚かなる人間はその存在を知らないでいる。
ビルディングの中の金庫の中に大事にしまっている品物でもこの天外から飛来する弾丸の射撃を免れない。
我々の大事なこの五体も不断にこの弾丸のために縦横無尽に射通されつつあるのは事実で、しかも一平方センチメートルごとに大約毎分一個ぐらいの割合であるから、例えば頭蓋骨だけでも毎分二三百発、一昼夜にすれば数十万発の微小な弾丸で射通されている。
なのにおかしいことには、我々はそんなこと全く夢にも知らずに平気で済ましていられる。
針一本でも突き刺されば助からぬ脳髄を、これだけの弾丸が貫通して平気でいられるのは、その弾丸が微小であるためというよりもむしろあまりに貫通力が絶大であるためであるとも考えられる。
しかし、ともかく我々が頼みにしている頭蓋骨を日常不断に貫通している弾丸があって、しかも誰一人夢にもそれを知らずにいるというだけは確かな事実なのである。
しかもその本性はまだ誰にもわからないのである。
-切抜/寺田寅彦「中央公論 昭和八年六月」より
Abel Korzeniowski - Tango
宇宙のどこの果てからとも知れず、肉眼はおろか顕微鏡にも見えない素粒子のようなものが飛んできて、それが地球上のあらゆるものを射撃し貫通しているのに、我々愚かなる人間はその存在を知らないでいる。
ビルディングの中の金庫の中に大事にしまっている品物でもこの天外から飛来する弾丸の射撃を免れない。
我々の大事なこの五体も不断にこの弾丸のために縦横無尽に射通されつつあるのは事実で、しかも一平方センチメートルごとに大約毎分一個ぐらいの割合であるから、例えば頭蓋骨だけでも毎分二三百発、一昼夜にすれば数十万発の微小な弾丸で射通されている。
なのにおかしいことには、我々はそんなこと全く夢にも知らずに平気で済ましていられる。
針一本でも突き刺されば助からぬ脳髄を、これだけの弾丸が貫通して平気でいられるのは、その弾丸が微小であるためというよりもむしろあまりに貫通力が絶大であるためであるとも考えられる。
しかし、ともかく我々が頼みにしている頭蓋骨を日常不断に貫通している弾丸があって、しかも誰一人夢にもそれを知らずにいるというだけは確かな事実なのである。
しかもその本性はまだ誰にもわからないのである。
-切抜/寺田寅彦「中央公論 昭和八年六月」より
Abel Korzeniowski - Tango