南無煩悩大菩薩

今日是好日也

その存在を忘れているとき

2019-06-19 | 古今北東西南の切抜
(photo/source)

その人はジャガイモが大量に詰め込まれた袋を背負っていた。

あなたにとって幸せとはなんですか?そう聞くと、彼女は不思議そうな顔をした。

質問の意味が分からない、という感じだった。

通訳の方が一生懸命説明してくれて、彼女も長く考えて、やっと「家族がいること」とか、「ご飯を食べられること」などと答えてくれたのだけど、きっとそれはこちらのためになんとか考え出してくれた答えなんだと思う。

本当は彼女は、「幸せとは何か」なんて考えもしないのだ。

「幸福ってなんだろう?」って考えるときって、人はもう、少しだけ不幸なのではないだろうか。

「祈りとはなんだろう?」と考えているときに祈ることが出来ないのと同じように。

幸福を求める前に、生活を大切にしよう。そう思った。幸福はその存在を忘れているときに一番輝くのだと。

ブータンの村の、名前もしらないその女性が教えてくれた。

(切抜/西加奈子「幸せってなんだろう」より)

例えば胃痛がするときには胃になにか不具合が起きているのだとわかる。だが胃の存在を忘れているとき、胃は健全だと安心して喜ぶことはほとんどしない。
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