「シリア、砲撃下の日本語授業 邦人教師は脱出…それでも」
12月8日の朝日デジタルの見出しが目に留まった。
「日本語授業」「邦人教師」に心が反応したのだ。
思えば中国での邦人教師の立場も、私が赴任して以来ずっと微妙だ。
日本国政府が国際外交などと到底言えないようななことをしたり、
それに対して中国政府が思い切り真正面から返したり、
何が面白いのか両国メディアが、互いの排外主義を煽りに煽って、
私たち名もなく、か弱い庶民を窮地に陥れているのだ。
それでも、現在のところ両国の庶民たちは大方冷静で、
自分たちにできる民間交流を淡々と実行している。
だって、これしか自分たちが平和のためにできることはないんですから。
そのおかげで今、私は中国に居ても爆弾で屋根が飛ばされたり、
嫌がらせされたり、逮捕されたりすることは一切ない。
両国のメディアが伝えていることとずれているかも知れないが、
平穏な日々を過ごしている。
シリアは違う。
現実に爆弾が飛び交い、子どもが既に1万1000人も死んでいる。
スクールバスに迫撃砲が当たり、簡単に子どもたちが死んでいく日々に、
いったい、庶民は何ができるだろう。
次は自分が死ぬかもしれない。
そんな中、ダマスカス大学で日本語を勉強している学生たちがいるという。
それだけで驚きだ。
以前5人いた日本人教師は、もはや誰もいないが、
日本語を教え続けているシリア人の先生たちが6人いる。
そのうち5人が1年から1か月、日本に留学した経験があるそうだ。
たった1か月の経験を知識に凝縮して、
全力で学生に教えている先生の姿を思い浮かべ、目頭が熱くなった。
―――――朝日デジタル2013年12月8日より転載
■「懸け橋に」尽きぬ情熱
困難な状況にもかかわらず、学生の日本語を学ぶ意欲は旺盛だ。内戦で増える一方の検問所をくぐって移動するため、ほとんどの学生の通学時間は倍以上になった。迫撃砲の着弾や狙撃手による銃撃が相次ぐダマスカス郊外から、2時間近くかけて通う学生もいる。
3年生の女性ドゥアー・ローンさん(20)は日本語と法律の二重専攻。「内戦が終わる日が来たら、弁護士としてシリア再建に貢献したい。日本語の勉強を続けるのは、日本が戦争で負けて多くを失いながら、世界の一流国に成長したから。学ぶことがたくさんあるはず」
アラー・ガンナムさん(20)も3年生の女性。ダマスカス南部の激戦地ヤルムーク地区の出身。1年前に住み慣れた家を離れ、ダマスカス中心部の親族宅に家族で身を寄せる。日本のアニメ「NARUTO―ナルト―」が好きで日本語を専攻した。ネットを通じて、シリアから日本語で情報発信したいと願う。「平和なんて想像できない私たちの真実を、日本の人たちに知ってほしい」
補助教員のもう一人、ハイサム・アルサッバーグさん(25)は、日本語教師6人の中でただ1人、訪日経験がない。いつか必ず日本に留学し、将来は日本文学の研究者になるのが夢だ。一番好きだという万葉集から、次の歌をそらんじた。
韓衣(からころも) 裾に取りつき 泣く子らを 置きてそ来のや 母なしにして
(訳)服のすそに取りすがって泣く子どもたちを、(防人(さきもり)として出征するため)置いてきてしまった。あの子たちに母親はいないのに
「私には、この歌はシリア人の心を詠んだように思えます。私の心と同じです」
■日本語を学ぶ学生の一言
ドハー・シャプアーニさん(20)女性、4年
夢は将来日本で暮らすこと。国費留学生に選ばれるように、これまで一生懸命日本語を勉強してきた。でも(内戦で)実現できないのが、本当に悲しい。
アンマール・オベイドさん(20)男性、4年
黒澤明監督や小津安二郎監督の映画が大好き。一番好きな映画は黒澤監督の「生きる」。一度でいいから、日本に行きたい。
ミリアム・アーザルさん(20)女性、4年
私は日本とシリアをつなげる橋になりたい。日本の方々が応援してくれたら、とてもうれしい。
マジド・アルサージさん(20)男性、2年
日本人の先生がいないから、日本語があまり上手になれない。日本人の先生に来てほしい。
ドゥアー・サアドさん(21)女性、4年
日本語の語感や響きが大好き。日本語の勉強を続けて、将来は日本語を使う仕事をしたい。
モアンマル・カリールさん(22)男性、2年
将来日本のテクノロジーを学ぶため、イラクから来て入学した。この学科は日本語教育が優れていると聞いた。もっと日本語を勉強したい。日本の人に助けてほしい。
◇
〈ダマスカス大学日本語学科〉 ダマスカス大は1923年創立。16学部あり、学生約8万人が学ぶシリア最大の国立総合大学。シリア政府要職者にも同大出身が多い。日本語学科は2002年、シリア初の日本語専攻学科として開設。将来的にシリアでの日本語教育を担う人材を育成することが期待されている。
【ダマスカス=春日芳晃】
http://digital.asahi.com/articles/TKY201312050218.html
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セレウコス朝だの、アッバース朝だの、昔、高校の世界史で暗記したが、
全く試験用紙の中の単語に過ぎなかった。
今、現実のシリアはとても近く感じる。
12月8日の朝日デジタルの見出しが目に留まった。
「日本語授業」「邦人教師」に心が反応したのだ。
思えば中国での邦人教師の立場も、私が赴任して以来ずっと微妙だ。
日本国政府が国際外交などと到底言えないようななことをしたり、
それに対して中国政府が思い切り真正面から返したり、
何が面白いのか両国メディアが、互いの排外主義を煽りに煽って、
私たち名もなく、か弱い庶民を窮地に陥れているのだ。
それでも、現在のところ両国の庶民たちは大方冷静で、
自分たちにできる民間交流を淡々と実行している。
だって、これしか自分たちが平和のためにできることはないんですから。
そのおかげで今、私は中国に居ても爆弾で屋根が飛ばされたり、
嫌がらせされたり、逮捕されたりすることは一切ない。
両国のメディアが伝えていることとずれているかも知れないが、
平穏な日々を過ごしている。
シリアは違う。
現実に爆弾が飛び交い、子どもが既に1万1000人も死んでいる。
スクールバスに迫撃砲が当たり、簡単に子どもたちが死んでいく日々に、
いったい、庶民は何ができるだろう。
次は自分が死ぬかもしれない。
そんな中、ダマスカス大学で日本語を勉強している学生たちがいるという。
それだけで驚きだ。
以前5人いた日本人教師は、もはや誰もいないが、
日本語を教え続けているシリア人の先生たちが6人いる。
そのうち5人が1年から1か月、日本に留学した経験があるそうだ。
たった1か月の経験を知識に凝縮して、
全力で学生に教えている先生の姿を思い浮かべ、目頭が熱くなった。
―――――朝日デジタル2013年12月8日より転載
■「懸け橋に」尽きぬ情熱
困難な状況にもかかわらず、学生の日本語を学ぶ意欲は旺盛だ。内戦で増える一方の検問所をくぐって移動するため、ほとんどの学生の通学時間は倍以上になった。迫撃砲の着弾や狙撃手による銃撃が相次ぐダマスカス郊外から、2時間近くかけて通う学生もいる。
3年生の女性ドゥアー・ローンさん(20)は日本語と法律の二重専攻。「内戦が終わる日が来たら、弁護士としてシリア再建に貢献したい。日本語の勉強を続けるのは、日本が戦争で負けて多くを失いながら、世界の一流国に成長したから。学ぶことがたくさんあるはず」
アラー・ガンナムさん(20)も3年生の女性。ダマスカス南部の激戦地ヤルムーク地区の出身。1年前に住み慣れた家を離れ、ダマスカス中心部の親族宅に家族で身を寄せる。日本のアニメ「NARUTO―ナルト―」が好きで日本語を専攻した。ネットを通じて、シリアから日本語で情報発信したいと願う。「平和なんて想像できない私たちの真実を、日本の人たちに知ってほしい」
補助教員のもう一人、ハイサム・アルサッバーグさん(25)は、日本語教師6人の中でただ1人、訪日経験がない。いつか必ず日本に留学し、将来は日本文学の研究者になるのが夢だ。一番好きだという万葉集から、次の歌をそらんじた。
韓衣(からころも) 裾に取りつき 泣く子らを 置きてそ来のや 母なしにして
(訳)服のすそに取りすがって泣く子どもたちを、(防人(さきもり)として出征するため)置いてきてしまった。あの子たちに母親はいないのに
「私には、この歌はシリア人の心を詠んだように思えます。私の心と同じです」
■日本語を学ぶ学生の一言
ドハー・シャプアーニさん(20)女性、4年
夢は将来日本で暮らすこと。国費留学生に選ばれるように、これまで一生懸命日本語を勉強してきた。でも(内戦で)実現できないのが、本当に悲しい。
アンマール・オベイドさん(20)男性、4年
黒澤明監督や小津安二郎監督の映画が大好き。一番好きな映画は黒澤監督の「生きる」。一度でいいから、日本に行きたい。
ミリアム・アーザルさん(20)女性、4年
私は日本とシリアをつなげる橋になりたい。日本の方々が応援してくれたら、とてもうれしい。
マジド・アルサージさん(20)男性、2年
日本人の先生がいないから、日本語があまり上手になれない。日本人の先生に来てほしい。
ドゥアー・サアドさん(21)女性、4年
日本語の語感や響きが大好き。日本語の勉強を続けて、将来は日本語を使う仕事をしたい。
モアンマル・カリールさん(22)男性、2年
将来日本のテクノロジーを学ぶため、イラクから来て入学した。この学科は日本語教育が優れていると聞いた。もっと日本語を勉強したい。日本の人に助けてほしい。
◇
〈ダマスカス大学日本語学科〉 ダマスカス大は1923年創立。16学部あり、学生約8万人が学ぶシリア最大の国立総合大学。シリア政府要職者にも同大出身が多い。日本語学科は2002年、シリア初の日本語専攻学科として開設。将来的にシリアでの日本語教育を担う人材を育成することが期待されている。
【ダマスカス=春日芳晃】
http://digital.asahi.com/articles/TKY201312050218.html
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セレウコス朝だの、アッバース朝だの、昔、高校の世界史で暗記したが、
全く試験用紙の中の単語に過ぎなかった。
今、現実のシリアはとても近く感じる。