4月29日武漢の黄鶴楼が98日ぶりに部分的オープン。李白の『黄鶴楼にて孟浩然の広陵にゆくを送る』はここだったんですね。(写真AFP)
さて、3月下旬ですから一か月半前の話です。
私のクサクサした気持ちが膨れ上がるきっかけとなった
あるニュースがあり、ネット授業の合間に中国の学生たちに
それについて質問をしました。
趙立堅報道官
「中国外交部の報道官が
『ウイルスは米軍が中国に持ち込んだ』と述べた、
と日本のニュースで言ってたけど、
本当にそう言ったのですか。もし、言ったのであれば
中国の人々はそれをどう受け止めているのですか」
というものです。
ほとんどの学生が「知らない」と答えました。
本当に知らないのか、知っていても政治関係なので
避けたのか、どうも後者のような雰囲気でした。
しかし、翌日一人の学生が
それについてメールを送ってきました。
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昨日先生が私たちに聞いた中国外務省の発言「コロナウイルスは昨年米軍が武漢に来た時に持ち込んだ可能性がある」についてはこの頃常にインターネットで見ています。全国民も驚いています。でも、外務省は国家を代表して全世界に発表しますから、冗談のはずがないです。外務省は証拠を言わないけど、中国民衆は以前日本の専門家が言ったことを思い出して、アメリカが持ち込んだことを疑いません。
発表した人は新任の趙立堅さんです。外務省の報道官を担当する前、ツイッターで尖った発言をして有名になり、人気者です。実は私は趙立堅さんが好きではありません。言い方が直接すぎると思います。でも、人によって好みが違います(私は外務省の同僚の耿さんが大好き、言葉と声がとても優しくて、色々重要なことを発言します)。趙さんの「アメリカがウイルスを持ち込んだ」という発言の後で、その耿さんは「趙立堅さんの発言は外務省全員が話し合ったことです。外務省は中国の態度を発表する存在です」と応援しました。私が知っているのは以上です。
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メール文中、
「民衆は以前日本の専門家が言ったことを思い出して、
アメリカがウイルスを持ち込んだことを疑いません。」
という部分に驚き、日本の誰が何を言ったのか聞くと、
2月に日本のテレビニュースで
「アメリカで昨年冬から大流行しているインフルエンザの中に
コロナウイルス感染が含まれている可能性があると
専門家が言っている」と報道されたことでした。
(関連記事「死者1万人超『米国インフル猛威』は新型コロナかもしれない」 https://president.jp/articles/-/33051)
しかし、「アメリカで猛威を振るったインフルエンザの中に
コロナウイルスが含まれていた(可能性がある)」からと言って、
それが即、米軍が中国に持ち込んだことにはなりません。
酒場のおっちゃんたちの与太話ならともかく、
一国の外交部報道官が発言し、
同僚が「私たちも賛成だ」と言ったとなると公式発言です。
外国ではいざ知らず、
国内的にはほとんどの民が信じてしまうでしょう。
「こういうふうに民意はコントロールされる」
というあまりにも分かり易く、かつ卑怯な例だなあと
一気に気持ちが重くなりました。
日本政府のアベ首相も、
外国での発言と国内向け発言が相当に違うことは
以前から知っている人の間では常識ですが、
NHKテレビしか見ない人は首相を信じ切っています。
こうした扇動こそが、
自国政府批判を封じ込める常套手段なんですね。
その後、趙報道官は4月7日に会見をして、
「米国の一部の政治屋が中国に汚名をかぶせたことへの
反発だった」と釈明しました。
中国国民の多くが(そうだ、そうだ!頑張れ趙さん)と
思ったことでしょう。
その後、アメリカ大統領も同レベルの発言
「武漢ウイルス研究所からコロナウイルスが漏れた」説を
これまた証拠も示さず主張し、
それを信じるアメリカ国民も40%近くいると伝えられています。
お互いに自国政府の批判をどこかよその国のせいにして
国内統治を円滑にしようとしていると思われますが、
一介の民であっても、そういうのに乗せられるのだけは
避けたいですよね。
ものごとは事実をもとに客観的、多面的に観察して分析し、
判断する習慣を身に着けたいものです。
でないと、愚かに踊ってばかりいなくちゃならなくなります。
2,3度のメール交換の後、
前記の学生はこんなことを書いて送ってきました。
基本的に中国では圧倒的多数が「愛国者」に育つのです。
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はい、今回のやり方は以前に比べて確かにせっかちに見えます。中国はこれまでずっと慎重で、充分な準備ができてから行動してきました。
今、中国は全世界の信頼を獲得したい時です。皆さんと友好的に付き合うための肝心なこの時期に、中国は何の根拠もなく、いかなる国をも汚すことはできないんです。証拠もないのに、勝手に他の国を汚すやり方は、利益もなく損をするばかりで、本当にバカみたいです。中国がそんなことを絶対にしないと私は信じています。いつか中国は世界を満足させる答えを出します。
武漢の黄鶴楼4月29日
中国の学生たちもほぼほぼ自国政府を信じ切っていますが、しかし、様々な情報を提供すれば考え直す子もいますから、やはり、知ることが最も大切なことですね。