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バースデイ・ケーキ




今月上旬、ロンドンで迎えた誕生日前夜、ホテルのレストランで祝ってもらい、食事を終えて部屋に帰ろうとしたところであった。


ウィエイトレス嬢が、ろうそくの火がゆれるケーキを捧げてしずしずと向かって来たのである。

わたしは別段驚かなかった。
ホテルのサーヴィスの一環か、夫が頼んでいたのであろう、と思ったからだ。


ところが支配人嬢が言うことには「お嬢ちゃんが午前中にわたしどもの同僚に電話したのですよ。」

いかにも娘の仕業だったのである。


その日、夫が短時間出かけ、わたしがシャワーを浴びている間に、レストランへ内線電話をして

「ごきげんよう。わたしは○○○・○○○です。今日はママの誕生日で、晩ご飯はレストランで食べるのですけれど、サプライズにケーキを用意して頂けますでしょうか。3人ですからあまり大きなケーキでなくて結構です。」

と手配をしたそうである。
恥ずかしさと度胸が入り交じり、電話をすべきかすべきでないか、それともホテルのスタッフに直接話すべきか、長いこともじもじ考えていたらしい。


彼女はものすごくシャイで用心深く、初対面の大人と話すのがとても苦手な性格だ。相当の度胸がいったはずだ。
だからわたしの喜びもひとしおだった。

夫は...もちろん彼はカンドウしいなのでわたしよりも感動していた。そしてわたしはこの話を語るのは今日が初めてだが、彼は学校の先生にも美容師さんにも、会う人みんなに語って聞かせたそうだ。


チョコレートクリームとベリーのケーキだった。
一人前には大きすぎるピースをわたしも夫も完食した。



レストランには階段の陰に小型のピアノがあり、娘に「これで一曲弾いてくれたら最高のお誕生日なんですけどねえ」とニヤニヤしながら、からかうように言ったら、「他のお客さんに迷惑ですよ」と諭された。
ドビュッシーのアラベスク、弾いて欲しかった。
完全に舞い上がっていたわたしは、「どうです、うちの娘は!」と大きな顔がしたかったんです(笑)。

どんな小さな意味合いであっても、「親に大きな顔をさせてやれる」というのが子どもができる一番の親孝行なのだろう。たぶん。


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