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謎解き「白鳥の湖」
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白鳥のDVDは11本持っていて、それぞれの踊り手、演出、振り付け、舞台装置やデザインについてねちねち書いたものだ。
王子が銀行員にしか見えないだとか、衣装がスターウォーズみたいだとか、踊り手に全然華がないのに、場を盛り上げて最高潮に達する演出の仕方はものすごく上手いとか、さんざん書いた...
失ってしまった原稿はすごくおもしろい原稿だった、といつも思う。実際は駄文なんだろう。なくしてよかったかも(笑)。
先日、初めてブルーレイのバレエDVDを買ってみた(「白鳥の湖」チューリッヒバレエ団、セミオノヴァがゲスト)。今日はそれを鑑賞しながら話の筋の解釈について書いてみたい。
何を無粋なことをする、と思われる方はこれ以上スクロールしないように。
たぶんみなさま白鳥の湖の筋はご存知だろう。
オデットという美しい乙女がいた。
彼女はロットバルトの魔法によって白鳥に変えられてしまう。人間の姿に戻れるのは夜の間だけだ。
魔法がとけるのは他の誰も愛したことのない男が彼女に永遠の愛を誓ったとき。もし誓いが破られたら一生白鳥のまま過ごさねばならない。
そんなある日、ジークフリード王子は母親である女王から結婚をするようにすすめられる。
愛のない結婚に気が進まない王子は森へ出かけ、そこでオデットと出会い、永遠の愛を誓う。
ジークフリードが結婚相手を決める日、そこへやって来たのはロットバルトによって仕立て上げられたオデットそっくりのオディールだった。
王子はオディールに結婚を申し込む。
誓いが破られ悲しみにくれるオデットは投身自殺。ジークフリートも後追い(ロットバルトを倒してハッピーエンドという顛末もある)。
...子どもの頃からバレエの大大大ファンであるわたしの切ない疑問は
ロットバルトはなぜオデットを白鳥に変えるの?
オディールって何者?
だった。
みなさまはどう思われますか?
大人になってからは、謎解きなどをしたらこの作品の幻想的で曖昧な感じが消えてしまうので、下手な意味付けなどはしない方がいい、と思っている。ロットバルトはなぜオデットを白鳥にするのか...たぶんこの世でわれわれに降り掛かる災厄と同じように、そこに意味はない。
でもちょっとこんな解釈を思いついたので書き留めておきたい。
幕間のフォワイエでシャンパンを飲みながらの雑談、として読んで下さい。
美しく貧しい乙女がいた。
彼女は男爵だか領主だか、地位のある男性の情婦になる。たぶんこれしか生きる方法がなかった。
ドストエフスキーの「白痴」の中でもナスターシャが情婦であることを逆切れするほどに恥じているが、たぶんそんな感覚で生きていた。
で、夜の間だけ「人間」の姿に戻ることができる、と。ユーフォミズム。
彼女をその境遇から救うことができるのは、情婦としての過去をいとわないほど深く愛し、永遠の愛を誓う男だけである。
あるときそんな男が現れて結婚を誓う。
が、彼は別の女に走ってしまう。
男は乙女によく似た他の女に間違えて結婚を申し込んだわけではなく、単に移り気をしたのだと思う
(王子はオディールとオデット2人の女を間違えた、とよく言われるけれど、彼は間違えたのではない。彼はエスタブリッシュメントにちょっと反抗して見せたい中二病の男であり、親が決めた相手でなければ誰でも良かったのだ)。
オディールが登場するのは、オデットの情婦の顔としてであると思う
(ひとりのバレリーナがオデットとオディールを踊るようになったのは偶然の産物だと言われているが)。
悲しみのあまり美しい乙女は白鳥のいる湖に投身自殺。
男も後追い自殺したかもしれない。
そんな事件があったのではないか、と。
...やっぱりこういう解釈をしてはつまらないですね。
わたしの持っているDVDだけ見ても、19世紀が舞台であったり、中世領邦国家時代のようであったり、宇宙ステーション風であったり、ドイツであったりロシアであったり、ロットバルトが悪魔そのものである演出もあれば、王子に直接影響力のある宰相であったり、女王の愛人であったりというケースもあるので、オデットやオディール、ロットバルトの正体は曖昧ではっきりしない方がいい。
娘が「本に較べてマンガが時々つまらないのは、自分でいろいろな想像ができないから」と言ったことがあったが、その通りだと思う。
想像や意味を限定してしまう芸術作品は後世まで残らないのである。
でも次回は「眠れる森の美女」の謎解きをしようかと思っている(笑)。
「続・謎解き「白鳥の湖」 王子はなぜ心変わりするのか」はこちら。
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