goo

the winter's tale




ロイヤル・バレエ2011年の新作「不思議な国のアリス」を大ヒットさせた製作陣が、シェイクスピアの「冬物語」をフルバージョン・バレエに翻訳したこれまた新作。

マリアネラ・ヌネツ (Marianela Nunez) の主役シチリア王妃ハーマイオニーで鑑賞した。

マリアネラ、母や妻や守護精霊といったような人を見守るタイプの役もはまる。
民族ステレオタイプ的な連想はあまり言いたくはないのだが、南米や南欧の女性の、こう、地に足の着いた、愛と自信にあふれる女の美しさ、いいなあ! と思う。


「冬物語」...あらすじの印象はギリシャ悲劇のような感じだ。重要な登場人物がやけに多く、ヘタに語ったら焦点がたちまちぼやけてしまいそうなストーリー。

しかしその点はロイヤル・バレエ持ち前の「すべての因果関係を説明し、すべてを語り尽くす」性質が上手く機能したように思う。
バレエに翻訳されるのは初めての試みなので、しっかりと役割や動機を説明されるのは観客としても有り難い。特にシチリア王の心に「嫉妬心」という黒い染みが落ち、それがみるみるうちに彼を征服し、周りを巻き込んで破壊し尽くす表現の仕方は圧巻だった。

ロイヤル・バレエ持ち前の「すべての因果関係を説明しすべてを語り尽くす」性質が、しつこく、わざとらしくならなかったのは、舞台装置のあっさりしていながら要所要所を抑えたデザインにもかなり功があったと思う。踊りと音楽、照明と舞台装置(特に薄地カーテンは海に帆に空にと姿を変え、その使い方は秀逸であった)で、「ハッピーエンドの悲劇」を表現...
毎年巡ってくる「冬」は、「春の訪れ」というハッピーエンドのある暗く苦い物語なのだろうか。
一方、両親の不仲によって傷つき、心労で少年として死んでしまったシチリア王子は、冬が終わり、春が来たとしても決して取り戻すことのできない「失われてしまったもの」の象徴なのだ。

ウィールドン、すばらしい振付家だ。
そしてヌネツはずばらしい詩人だ。


ヌネツの現実の夫にして、劇中夫のシチリア王を踊ることになっていたティアゴ・ソアレス (Thiago Soares) は未だ休養中だが、代役に立ったベネット・ガーサイド (Bennet Gartside) もかなりよかった。チャンスがあったら、現実の夫婦で踊るシチリア王とシチリア王妃も見てみたいと思う、って悪趣味だろうか(笑)。


最後に、この話のきっかけとなったシチリア王の、彼の妃と彼の親友ボヘミア王の仲に対する猜疑心について。
シチリア王妃ハーマイオニーは、夫であるシチリア王の幼なじみボヘミア王に惹かれていたか。

それはいかに彼女が完璧な妻という設定だとしてもきっと少しは惹かれていたと思う。シチリア王が疑ったほどの深い不倫関係では決してなかっただろうが。
不倫はなかった、なかった、絶対になかったと不倫を否定するのは可能だが、人間の微妙な二重の心理(不倫関係を強く否定しながらも、実はもしかしたらどこかで惹かれていたかもしれないというような)を否定するのは無理があるような気がする。どうだろう。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )