魂魄の塔横の熊野鉱山開発計画は、遺骨混りの土砂が採掘されるということで大きな問題となってきた。しかしもう一つの大きな問題は、鉱山に隣接したシーガーアブが、鉱山開発により崩落するのではないかと危惧されている。
シーガーアブは、有川中将以下将兵自決の壕とも言われているが、戦争末期には避難していた地元の米須地区の住民ら7家族が米軍に油を投げ込まれ、焼き殺されたという証言も残っているなど、貴重な戦争遺跡である(『米須字誌』)。また、地元の人たちはシーガーアブに昔から畏敬の念をもっており、2021年3月には自治会として、鉱山開発にあたって糸満市に嘆願書を提出している。
戦後には70体の遺骨が見つかったという報道もあるが、シーガーアブは未だ本格的な内部の調査は行われていない(5月18日、19日に県教委と糸満市教委が初めてアブの中に入った)。
シーガーアブは2つの開口部があるが、市民グループや先日の県教委等の調査でも、地下で繋がっていることが確認されている。ところが開発業者は、2つの開口部の間に鉱山からの石材・土砂の搬送道路を造成しようとしている。石材・土砂を満載したダンプトラックが行き来すれば、アブの地下部分が崩落してしまうだろう。
さらに開発業者は、奥のアブの中央部に東西にフェンスを設置するという。工事の進入路造成やフェンスの基礎工造成等の工事がアブの中で行われる。フェンスを造るにしても、鉱山の境界に設置すればよく、わざわざアブの中に設置する必要はない。
私たちは、これらの問題点を指摘し、県教委、糸満市教委に、シーガーアブでの工事については文化財保護法第93条に基づく埋蔵文化財発掘の届出を提出させるよう求めてきた(今までの経過は5月15日のブログ等を参照されたい)。糸満市教委は、「その必要はない」としていたが、県教委の指導により、業者は5月24日、同届出書を糸満市教委経由で県教委に提出した。
今後、60日以内に県教委が審査し、必要な場合、発掘調査実施等が指示される。その場合は本格的な調査が終わるまで、工事には着手できない。
今、この土砂搬出道路の農地転用申請書が県に提出されているが、シーガーアブの文化財問題が終るまで知事は農地転用を許可しないはずである。いずれにしろ、熊野鉱山の事業開始はさらに大幅に遅れることは確実になった。
昨日(5月29日)、具志堅隆松さんや南部の島ぐるみ会議のメンバーたちで糸満市教委と意見交換した。今まで文化財保護法第93条の適用に消極的だった糸満市教委が県教委の指導を受け入れたことは評価するが、まだまだ多くの問題が残っている。特に、何故、わざわざ貴重な戦争遺跡で埋蔵文化財包蔵地として指定されているシーガーアブの上に土砂搬出道路を設置しなければならないのか、県教委・市教委は、土砂搬出道路のルート変更を指示すべきであろう。
(5月30日、糸満市教委教育部長らとの意見交換)
(2023.5.27 琉球新報)
5.27 琉球新報
上下は、糸満市教委が開示したシーガーアブ内部の写真。2つのアブが繋がっていることが確認された。
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5月28日の那覇・安里教会での講演会には70名以上の人たちが参加した。