防衛局は4月21日、コロナ禍にもかかわらず、軟弱地盤の地盤改良工事等の設計概要変更申請を沖縄県に提出した。
この間、立石新潟大学名誉教授を中心とした地質学の専門家グループの指摘により、防衛局が実施した大浦湾の地質調査には大きな問題があることが判明した(『世界』5月号の拙稿「このままでは護岸は崩壊する---隠蔽される調査データ」)。専門家グループは、特に海面下90mまで軟弱地盤が続いているB27地点周辺の地質調査のやり直しを求めている。
防衛局はこうした問題が指摘されているにもかかわらず設計概要変更申請提出を強行したのであり、許されない。
防衛局は、海面下90mまで軟弱地盤が続いているB27地点では、「海面下70m以深は『非常に硬い』粘土層であるので地盤改良の必要はない」と主張している。しかしB27地点では、「ボーリング試験ではなくコーン貫入試験(注)を行ったので直接、地盤の強度試験はしていない。そのため、最大750m離れた3地点の強度試験のデータから、B27地点の海面下70m以深の強度を類推した」というのだ。
(注)ボーリング試験は、N値等を測定して直接、地盤の強度を判定できるが、コーン貫入試験は、コーンを押し込んで先端抵抗等を測定し、地盤の強度に関するデータを得るものである。
ところが、専門家グループが地質調査の報告書を詳しく分析したところ、B27地点でも直接、地盤の強度試験が行われており、その結果は、防衛局が離れた3地点から類推した強度の3分の1から7割程度しかないことが判明した。そのデータを使って護岸の安定計算をやり直したところ、ケーソン護岸が崩壊するという結果まで出たという。他にも、調査データの隠蔽や恣意的操作などの事実も分かった。
この点について防衛局は、「指摘された地盤の強度試験は、簡易的なものであり、その数値には意味がない。設計等には使用しない」と強弁している。しかし、「数値に意味がない」というのなら、遠く離れた地点の強度から類推するという不自然な方法によるのではなく、何故、B27地点でも直接、地盤の強度が判定できるボーリング試験を実施しなかったのか?
問題となっているケーソン護岸(C1護岸)の基礎部分では、ほとんどの個所でボーリング試験が実施された(下の図の青字個所)。水深20m以深の深場ではスパッド台船ではなく、傾動自在工法(注)でボーリング試験を行っている。ところがB27地点ではコーン貫入試験しか行われていない。
(注)傾動自在工法によるボーリング試験は、海上にガイドパイプを設置し、起重機船の側舷から器具を挿入してボーリングを行うもの。
防衛省は、「B27地点を掘るまではそれほど深いところまで粘土層があるとは分からなかった」と弁明している(2020.3.17 参院予算委)。これは全くの虚偽である。大浦湾に海面下90mまで沖積層が続いていることは、1997年当時から分かっていた(『世界』5月号の拙稿参照)。また、上の図を見ても分かるように、B28地点、B36地点ではコーン貫入試験と同時に、ほぼ同地点で傾動自在工法によるボーリング試験を行っている。B27地点でも、コーン貫入試験で海面下90mまでの粘土層の存在が分かったのだから、何故、それからでもボーリング試験を行わなかったのか?
傾動自在工法によるボーリング試験は、確かにスパッド台船による試験と比べても大規模な装置が必要である(末尾写真参照)。B27地点でコーン貫入試験を実施したのは、2017年3月13日から3月16日にかけてであった。大浦湾で傾動自在工法によるボーリング試験を実施したのは、2017年3月~2018年3月にかけてである(10個所)。すぐ近くで傾動自在工法によるボーリング試験を実施していたのであるから、B27地点でも試験をすることができたはずである。
防衛局は、敢えてB27地点で傾動自在工法によるボーリング試験を実施しなかったのである。都合の悪い結果が出ることが予想されたからとしか考えられない。
県は、設計概要変更申請の審査に入る前に、B27地点周辺での地質調査のやり直しを指示すべきである。
(傾動自在工法によるボーリング試験の起重機船。側舷にガイドパイプが見える。2017年4月)
(海上に設置された傾動自在工法のボーリング試験のためのガイドパイプ)