鉄道ネタが続いて申し訳ないのですが、今回は北陸鉄道を取り上げます。
石川県の私鉄、北陸鉄道には、現在、野町駅から鶴来駅までの石川線と、北鉄金沢駅から内灘駅までの浅野川線の2路線があります。「御多分に漏れず」と言うべきか、多くの中小私鉄と同様に、北陸鉄道の鉄道路線は減少の一途をたどっており、これまで金沢市内線、松金線、金石線、能美線、金名線、小松線、山中線、動橋線、山代線、粟津線、片山津線、能登線が全廃されていますし、石川線の鶴来駅から加賀一の宮駅までの区間も2009年に廃止されています。第二次世界大戦中に尾小屋鉄道を除く県内全ての私鉄を統合して北陸鉄道が発足したという歴史のためか、路線網は金沢地区、小松地区、加南地区、能登地区というように分断されていました。現在残されている石川線と浅野川線もつながっていません。
1960年代後半に北陸鉄道は全鉄道路線の廃止の意向を示したという話があります。それだけ、石川県で私鉄路線を維持することが難しかったということでしょう。それからも石川線、浅野川線などいくつかの路線は残りましたが、廃止は続き、現在の2路線のみが残されたということです。とは言え、存続は厳しいようで、今年(2023年)の2月22日には北陸鉄道と沿線自治体との協議会が開かれ、石川線および浅野川線の上下分離方式への移行が議論されました。日本経済新聞社が同日19時45分付で「金沢市など、北陸鉄道の『上下分離』 結論は23年度」(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC213HF0R20C23A2000000/)として報じているところによれば、協議会は「2023年度から5年間の地域公共交通や行政の支援のあり方を示す計画案を了承した」、「北陸鉄道は経営状態が厳しい鉄道線の上下分離を沿線自治体に求めて」おり、「計画案では上下分離を含めた存続や、2路線のうち輸送人員の減少が目立つ石川線のバス転換などをそれぞれ検討するとした。今後、沿線自治体が中心となり、23年度中に結論を出す」とのことです。
今後どうなるのかが気になるところですが、簡単に鉄道路線の全廃とはいかない事情があるようで、存続するとなれば上下分離方式が最善、とまでは言えないまでも現実的に採りうる選択肢ということなのでしょう。この辺りについては、Merkmalというサイトに今日(2023年3月9日)付で掲載された「北陸鉄道『石川線』『浅野川線』上限分離検討へ 古都・金沢で起きた路線維持の大ピンチ、地元協議会はバス転換視野も そうは問屋が卸さない現実とは」(https://merkmal-biz.jp/post/35346)に書かれているので、そちらにお任せしたいと考えていますが、一つ、この記事を読んで驚いたのは「観光で人気の金沢市でさえ鉄路を維持できない事態は衝撃だ」と書かれていたことです。私には、衝撃を受けることの理由が全くわからないからで、むしろ「当たり前のことだろう」と思われたのです。路線図を一目見ただけでも明らかですし、歴史を考えても当然のことなのです。
まず、金沢市の中心部と言えば香林坊や片町といったところでしょう。金沢城址や兼六園の近くです。金沢市役所、金沢21世紀美術館などの施設も金沢城址や兼六園の近くにありますし、石川県政記念しいのき迎賓館も2002年12月までは石川県庁であった場所です(現在は金沢駅から北西に少し離れた場所にあります)。日本の鉄道にはよくあることですが(何せ、京都駅ですらそうなのです)、金沢駅は市の中心部から外れた場所に建設されました。
そこで改めて金沢市の地図を見ますと、石川線、浅野川線のどちらも、香林坊や片町を通っていません。武蔵町や尾張町も通っていません。つまり、両線とも金沢市の中心部を避けるような形で路線が設けられているのです。
1967年までは北陸鉄道金沢市内線という路面電車が運行されており、香林坊、片町、武蔵町、尾張町も通っていました。しかし、道路渋滞の激化、兼六坂暴走事故といった要因によって廃止され、現在まで金沢市の中心部はバスと自家用車に頼らざるをえない状態となっています。何処かで読んだ記事で、浅野川線の北鉄金沢駅から石川線の野町駅まで、香林坊地区を経由する形で地下鉄路線を造るという構想があったという話を知ったのですが、現在に至るまで実現していません。2001年3月に北鉄金沢駅が地下駅となったのは、単に北陸新幹線延伸のための都市計画のためだけでなく、地下鉄路線建設構想があったことも理由の一つなのかもしれません(仮定なり推測なりの領域を超えませんが)。
これでは、北陸新幹線が金沢駅まで開業して同駅周辺が賑わったところで、石川線および浅野川線の衰退を食い止めることができないことが一目瞭然です。
有名な西茶屋街は石川線野町駅の近くにありますが、観光客が石川線を利用するのは非現実的です。金沢駅から北陸本線の普通列車に乗って西金沢駅で降り、すぐそばにある新西金沢駅から野町駅まで石川線に乗るという手もありますが、本数が少ないでしょうし、そのような手段を紹介する観光ガイドなど、おそらく皆無でしょう。浅野川線に至っては、金沢市内にこれと言った観光地がありません。
もとより、どの鉄道路線であれ、最初から観光客の輸送に特化するのでなければ、通勤通学客の利用があってこそというところなのですが、バスや自家用車の利用が当然という地域では、鉄道路線の出番は多くないとしか言いようがありません。上記Merkmal掲載記事によれば、浅野川線の2019年度の輸送密度は3749人、石川線は1882人で、これまでこのブログで取り上げてきたJRグループのローカル線と比べて低いとは言えませんが、2020年度以降はCOVID-19の影響をまともに受けているはずです。そして、北陸鉄道もバス部門、とくに高速バスや貸し切りバスでの収益によって鉄道部門の赤字を穴埋めするという仕組みを採用していたでしょうから、高速バスや貸し切りバスの運休や利用低迷に見舞われたのでは、鉄道路線の全廃どころか会社の存続すら黄色信号が灯ることになります。2020年度以降の輸送密度などのデータが手元にないのでよくわかりませんが、石川線および浅野川線の存続可能性はかなり低くなっていると思われます。浅野川線は通勤通学路線としてまだ活用の可能性はあるかもしれませんが、石川線はかなり厳しい状況の下にあると言えるかもしれません。
ただ、上下分離方式を採用するとなれば、石川県や沿線市町村(金沢市など)の負担が増えます。沿線市町村にとっては固定資産税の収入がなくなることにもなるでしょうし、支出が増えることは確実です。そこまでして鉄道路線を維持すべきかどうかという話になるでしょう。石川線についてはBRT化などの意見もあるようで、議論の展開を見守る必要があります。
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北陸新幹線金沢延伸前に2度訪れたことのある私は、1989年の夏に浅野川線を、2014年の夏に石川線を利用しました。
浅野川線に乗った時には、北鉄金沢駅がまだ地上駅で、1両の古い吊り掛け駆動の車両が運行されていました。短い路線なのに急行が走っており、私はこの急行に乗って終点の内灘駅まで乗ったです。途中、制限速度10km/hという橋梁があり、脱線しないように恐る恐る走るような感じでした。沿線には住宅が多かったのですが、時間帯のせいか、1両の小さな車両にも乗客はあまり乗っていなかったと記憶しています。北鉄金沢駅に戻ってから金沢駅周辺や兼六園などを歩き回りましたが、都会としては不便さが目立つという印象を受けました。
石川線に乗った時には、宿泊していたホテルからバスで野町駅に向かいました。「北陸鉄道石川線野町駅」という記事でも書きましたが、この駅は香林坊や片町から南へ進み、犀川を渡って野町広小路交差点をさらに進んで脇に入った住宅街の中にあります。表通りから離れている所にある訳で、わかりにくいという印象を受けます。乗車時には、土曜日の午前中にしては予想より乗客が多かったという気もします。但し、2両編成では持て余していると思わざるをえません。また、沿線から金沢市の各所に行くにはバスのほうが便利であろうと思われました。石川線で野町駅まで乗っても、結局はバスに乗り換えるしかありません。また、新西金沢駅で降りて西金沢駅から北陸本線に乗るとしても、金沢駅へ向かうのであればともあれ、他所に行くには不便です。石川線の利便性は低いと感じました。
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