ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

存廃問題に揺れる近鉄内部線・八王子線に乗る(その1)

2013年01月07日 07時50分10秒 | 旅行記

   〔今回は、2012年11月11日付で、私のホームページの「待合室」に第501回として(11月25日まで)掲載したものを再掲載します。但し、文章の一部を変更しています。また、以前このブログに掲載した記事と重複する部分もあります。〕

 このブログに、2012年8月22日付で「近鉄内部線・八王子線が廃止される可能性」という記事を掲載しました。以前から問題があったことは知っていたのですが、近鉄(近畿日本鉄道)は内部線(近鉄四日市~内部)および八王子線(日永~西日野)を廃止し、バス路線に転換する方針を固めました。ブログにはこのことを取り上げて書きました。私のブログには珍しいことに、多くのコメントをいただきました。しかし、一度も利用したことがなく、かつ、三重県は近鉄特急で一回通過したことがあるだけです。これでは話にならないので、大学祭による休講期間を利用し、11月1日に内部線と八王子線に乗ってみることとしました。

 私は川崎市高津区、東急田園都市線の沿線に住んでいます。そこで、田園都市線の下り電車に乗り、あざみ野で横浜市営地下鉄ブルーラインに乗り換えます。新横浜で降り、9時9分発の「のぞみ」103号に乗ります。10時34分、名古屋駅に到着しました。半年前にも名古屋駅を利用したので、近鉄名古屋駅の場所はわかります。10時41分発の急行松阪行きに間に合い、近鉄四日市まで乗りました。特急に乗らなかったのは、特急券のための支出を抑えたかったからです(それに、近鉄四日市までならば、所要時間もそれほど変わりません)。

 近鉄名古屋線はJR関西本線と競合しており、名古屋から四日市までは並行していたり、交差したり、ということを繰り返しています。本数と速さの面において近鉄名古屋線のほうが利便性に勝りますが、運賃はJR関西本線のほうが安く、最近では快速「みえ」などによってシェアを増やしているようです。名鉄名古屋本線と異なり、JRが逆転勝利している訳ではないのですが、差は縮まっているようです。関西の大手私鉄は軒並みJR西日本との競争に敗れており、私鉄王国は見るも無残な姿となってしまいました。もっとも、近鉄については、競合するJRの路線が関西本線、奈良線、桜井線といったところであるため、まだ優位に立っているとは言えますが、JRの追い上げが激しくなっています。

 もう一つ、注意しなければならないのが、関西地方(特に京阪神地区)の経済力が衰退していることです。近鉄もこの影響をまともに受けているようです。ここ10年ほどの間、近鉄は合理化、ダウンサイジングに取り組んでいます。

 そもそも、近鉄は戦時中の交通統合の動きなどによって路線網を拡大した会社で、よく日本一の私鉄などと言われていますが、それは路線網の営業キロ数の面だけです。会社の規模を示す指標の一つである資本金で比較をするならば、近鉄は2012年3月末日の時点で927億4100万円であり、日本一ではありません。最大の会社は東急で、2011年3月末日の時点ではありますが1217億2400万円です。1000億円を超える資本金を有する鉄道会社は東急だけなのです。その東急の営業キロ数は100キロメートル前後に過ぎませんから、近鉄の5分の1弱に過ぎないのです。敢えて単純化して記すならば、近鉄は資本力の割に過大とも言える路線網を抱えていると評価できる訳です。

 そればかりではありません。年間輸送人員の面からしても、近鉄は日本一の私鉄ではありません。日本民営鉄道協会が発表している数字を参照してみましょう。次の通りです。

 (1)東京地下鉄(東京メトロ):23億219万7千人

 (2)東急:10億6259万人←帝都高速度交通営団が民営化されて東京地下鉄となるまでは、大手私鉄でも第一位を誇りました。輸送密度でも日本一で、これは世界一でもあるとも言われています。

 (3)東武:8億6308万7千人←営業キロ数では近鉄に次ぎます。

 (4)小田急:7億1040万5千人

 (5)阪急:6億323万3千人

 (6)京王:6億2543万9千人

 (7)西武:6億1777万1千人

 (8)近鉄:5億7352万2千人

 (9)京急:4億3735万1千人

 (10)名鉄:3億4038万6千人←かつては営業キロ数で近鉄の次でしたが、現在は東武の次です。

 (11)京阪:2億8059万9千人

 (12)京成:2億5880万8千人

 (13)相鉄:2億2757万7千人

 (14)南海:2億2606万5千人

 (15)阪神:2億520万2千人

 (16)西鉄:9909万7千人

 以上から、近鉄の年間輸送人員数は多くないということがわかります。そして、この数を大阪線、奈良線、名古屋線、京都線、南大阪線などの主要路線で稼いでいるとするならば、支線区は乗客が少なく、経費ばかりかかる路線となっていることも、想像に難くありません。現に、2011年の秋から、吉野線の無人駅が増えています。資本力を考え合わせると、とてもローカル線に手を回せるような状況ではないのかもしれません。とくに、大きな影響を受けているのが三重県内の路線です。

 まず、北勢線(西桑名~阿下喜)が、近鉄から三岐鉄道に譲渡されました。20世紀最後の年である2000年、近鉄は同線の廃止を打ち出します。当初はバス路線化する予定でしたが、鉄道路線としての存続が決まり、2003年に三岐鉄道の路線となりました。

 続いて、2005年、近鉄は伊賀線(伊賀上野~伊賀神戸)について見直しを表明しました。赤字路線であったためで、詳しいことはわかりませんが沿線自治体との協議の結果、いわゆる上下分離方式による存続が決定されました。近鉄は同線を完全に手放す訳ではなく、第三種鉄道事業者として線路などの施設を保有し、新たに設立された伊賀鉄道(近鉄も出資しています)が第二種鉄道事業者として伊賀線の運営や運行をすることとなりました。伊賀鉄道の路線として営業を開始したのは2007年10月のことです。

 同じ2007年10月には、養老線(桑名~大垣~揖斐)が近鉄から養老鉄道に移管されます。伊賀線と同じく赤字路線であったためで、近鉄は第三種鉄道事業者、養老鉄道は第二種鉄道事業者です。但し、養老鉄道は近鉄の100%子会社で、出資者の点で伊賀鉄道と異なります。

 そして、2012年、近鉄は内部線および八王子線の廃止を表明します。実は、近鉄が北勢線の廃止を表明する段階で、その次に内部線と八王子線が存廃問題の渦中に入ることは予想されていました。それだけではありません。1974年、水害のために八王子線の西日野~伊勢八王子が運休となり、2年後に廃止されていますが、この時にも近鉄は八王子線の廃止を打ち出していました。そのため、少なくとも八王子線に関しては二度またはそれ以上の危機に直面していることになります。

 近鉄四日市駅に到着し、名古屋線から内部線・八王子線に乗り換えます。名古屋線と湯の山線のホームは高架線にあるのですが、内部線・八王子線のホームは高架線の真下の地上にあります。同じ近鉄線の路線ですが、乗り換えるためには名古屋線および湯の山線の改札口を出なければなりません。2階にある南改札口を出て、近鉄百貨店四日市店とは逆の方向にある出口の奥にある通路に入り、一旦階段を上り、今度は下って行くと、また改札口があります。そこを抜ければ9番のりばと10番のりばで、9番が内部線、10番が八王子線となっているようです。

 時刻表を見ると、内部行き、西日野行きともに、原則として30分毎に発車していることがわかります。ローカル線としては本数が多いでしょう。JRのローカル線ですと、何時間も待たされるような本数しかないようなところも少なくありませんから〔今年の春に廃止の方針が表明された岩泉線(JR東日本)は、全区間走行する列車が一日で3往復しかありません〕、近鉄の内部線・八王子線が廃止されるというのであれば、JRのローカル線の大部分は廃止されざるをえないでしょう。四日市市内のみを走る路線であるということを考え合わせても、本数の点からすれば内部線・八王子線の利便性は決して低くありません。

 かつては首都圏でも見られた行灯式の行先案内表示機です。近鉄四日市駅の名古屋線のほうでは反転フラップ式(通称パタパタ式。回転式ともソラリー式とも言われています)が使用されており、これも首都圏では見かけなくなりましたので懐かしさを覚えました(かつて営団地下鉄の駅で使用されていましたが、半蔵門線の駅では見たことがありません)。行灯式は、JR武蔵溝ノ口駅で、駅舎が地上の北口のみにあった時代に見ましたが、他にどこの駅にあったのかは覚えていません。

 11時30分発の内部行きとなる電車が9番のりばに入ってきました。意外に降りる客が多くて驚きました。さらに驚いたのは、3両とも色が違うことです。パステルカラーというべき塗装となっており、おそらくはイメージアップを狙ったのでしょうが、これは逆効果ではないかと私には思われました。実際には違うのですが、あちらこちらから車両を寄せ集めてきたかのような印象を受けるのです。上の写真の編成では薄緑+青緑+青ですが、別の編成では紫+緑+黄などとなっていて、同系色でまとめられている訳でもなく、かつての国鉄末期のような印象すら受けます。私が生まれ育った川崎市を縦貫する南武線では、国鉄末期にカナリアイエロー(総武線の色。南武線もこの色)+オレンジ(中央線の色)という編成があり、さらにカナリアイエロー+オレンジ+スカイブルー(京浜東北線の色)という編成もありました。他の路線でも似たような例があり、他の路線の中古車ばかり寄せ集めた路線の宿命とも言えたのです。

 上の写真を御覧になって、「随分と小さな電車だな」と思われた方もおられるでしょう。妻も同じことを言いました。それもそのはず、内部線と八王子線の線路の幅は762ミリメートルしかありません。JRは新幹線および東北地方の一部の在来線を除いて1067ミリメートル、新幹線、近鉄名古屋線、同大阪線、阪神線、阪急線、京浜急行などは1435ミリメートルですから、内部線および八王子線の線路の幅がいかに狭いかおわかりでしょう。これでは小さな電車しか造れません。

 かつて、線路の幅がJR在来線より狭いという路線、いわゆる軽便鉄道は、日本全国で見られました。線路の幅は建設費を左右します。狭ければそれだけ安い訳です。そのため、資本力に乏しくとも比較的手軽に敷くことができたのでした。しかし、その分、輸送力は小さくなりますし、速度も劣ります。そのため、戦前からバスなどとの競争に負け、多くの軽便鉄道が姿を消しました。現在、特殊な鉄道路線を除くと、富山県の黒部峡谷鉄道を除き、通勤・通学路線としての軽便鉄道は三重県にしか残っていません。内部線と八王子線、そして現在は三岐鉄道が運営する北勢線です。この三線は、いずれも三重交通が運営してきた鉄道で、三重電気鉄道を経て1965年に近鉄の路線となりました。

 上の写真は中間に連結されているサ120形サ122で、元は戦前に製造されたモニ220形でした。その隣に少しばかり見えているのがク160形ク162で、モ260形とともに260系の車両で、1980年代に製造されました。なお、260系とサ120形では長さも異なります。

 内部線・八王子線の車両は、いずれも非冷房車です。これも線路の幅に由来します。また、モ260形からは、今では珍しくなった古風なつりかけ駆動のモーター音が鳴り響きますが、これも線路の幅のためです。現在、大手私鉄でつりかけ駆動の営業用車両はモ260形のみとなっています。

 モ262に乗り込んでみます。私は、これまで軽便鉄道というと小学生時代に、新交通システムとなる前でSL列車も走っていた西武山口線しか乗ったことがありません。電車は初めてです。狭い車内を想像していましたが、意外にも、それほど狭く感じません。もっとも、それは席の配置のためです。御覧のように、バスのような固定クロスシートが運転席に向かって左右に1列ずつ並んでいます。サ120形の車内はロングシートで、これであれば車内はかなり狭く感じます。何せ、足を少し伸ばせば向かい側のロングシートに届いてしまいます。

 内部線・八王子線ではワンマン運転が行われていますので、車掌は乗務しません。しかし、運転席の後に運賃箱が置かれているとはいえ、運賃表示機などはありませんし、整理券発行機もありません。駅員が配置されているのは近鉄四日市と内部だけですが、小古曽駅を除く各駅に自動券売機があり、運賃についても170円区間と220円区間しかありませんので、これだけ簡素であってもあまり問題はないのでしょう。

 モ262の運転台です。1980年代に製造された車両だけに、当時の技術が生かされた格好となっています。運転台は車両の中央にあり、機器もほぼそこにまとめられています。左側のマスコンハンドル、右側のブレーキ弁(ハンドルは差し込まれていません)が古めかしく見えますが、同時代の近鉄の車両と同じで、大阪線や名古屋線などを疾走する特急電車も、このようなハンドルです。

 首都圏では東急を初めとして京王、京成、京浜急行、都営地下鉄など、ワンハンドルマスコンが主流となりつつありますが、近鉄を初めとした関西の大手私鉄は、阪急を例外としてワンハンドルマスコンの採用に消極的であるという傾向がみられます。

 さて、11時30分になろうとしています。この電車に乗り、途中の車窓も楽しみながら、終点の内部に向かうこととします。

 〔2014年8月28日、動画を追加)


YouTube: 近鉄内部線側面展望(近鉄四日市→内部)


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