ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

不等号の意味を理解していない? 2022年も

2022年05月11日 00時10分00秒 | 受験・学校

 2021年5月21日22時23分30秒付で、このブログに「不等号の意味を理解していない?」という記事を載せました。まだ私が大分大学教育福祉科学部(現在は教育学部)に勤めていた時に岡部恒治氏らの共編による『分数ができない大学生』という本が出版され、私も読んで驚愕したのですが、「いやいやそんなもんじゃないよ」と言われても仕方がないような話を目の当たりにするとは思ってもいなかったのでした。

 2022年度も2年生のクラスを担当しています(一体何年担当しているのか?)。昨年と同様に「採点していて、意味を理解していない、あるいは不等号そのものがわからない、と感じられる答案が多かったのでした」。

 意図的に、2021年度と同じ問題を出しました。ここで問題を再現しておきます。

 

 設問7 所得税法第28条第3項第2号に「収入金額が百八十万円を超え三百六十万円以下」という文言がある。この場合、180万円は含まれるか、含まれないか。

 設問8 設問7にあげた条文によると、360万円は含まれるか、含まれないか。

 設問9 設問7にあげた条文の「 」内の意味を等号や不等号を使った式で示しなさい。但し、収入金額をX(大文字、小文字を問わない)とすること。

 

 設問7の正答は「含まれない」です。「超え」と書かれているのであって「以上」とは書かれていないからです。

 設問8の正答は「含まれる」です。私は小学生時代に算数の授業で教わっていますが、「以下」と書かれていたら360万円を含むのであり、「未満」と書かれていたら360万円を含みません。

 ここまではよいのです。問題は設問9です。

 正答は次のとおりです。

 1,800,000<X≦3,600,000

 なお、算数または数学の表記としてはおかしいのですが、180万円<X≦360万円も正答としています。

 誤答で一番多かったのは、単純に180<X≦360と書いていたものです。これではXが180を超えて360以下の数字であるということになってしまいます。「万円」を省略したのであれば、そのことを断っておくべきです。

 この程度であればまだよいのですが、不等号の向きなどがおかしな答案が見受けられたのです。

 一番深刻であるのは、無回答、つまり空欄のままというものです。これも少なくなかったのでした。法学部の講義での小テストで算数または数学の問題が出されたので面食らったのか、それとも全くわからなかったのか。いずれにしても困ったものです。以上、以下、未満などという言葉は数字に関わるからです。それほど難しい話ではないので、理解していないということであれば、社会に出て仕事をすることができないかもしれません。

 以下、今回見られた誤答の例を示しておきます。

 ①1,800,000≦X<3,600,000(または180万円≦X<360万円)

 これは不等号の意味を理解していないか、「超え」、「以下」の意味を理解していないか、のいずれかです。

 ②180>X<360

 「万円」という言葉が抜けているという点も問題ですが、それ以上に不等号の向きが違うこと、「以下」の意味が表されていないことが問題です。この不等式ではXは180未満であって360未満であるということになり、あまり意味のないものになります。X<180で十分です。勿論、「収入金額が百八十万円を超え」という部分とは全く意味が異なり、180万円未満ということになります。

 ③X=180<360

 条文の意味を全く理解していないと思われても仕方がないでしょう。そもそも、Xは180であって360未満であるというのは当然のことです。条文は「百八十万円を超え」とあるのにX=180では意味が通じません。また、X<360ではXが360未満、つまり360を含まないということになります。「万円」が抜けている点も忘れてはなりません。

 ④180万<X≧360万

 よく見れば意味をなさない不等式であることは明白です。これを分解するとX>180万であり、かつX≧360万円ということですから、Xは180万円を超え、かつXは360万円以上であるということになります。それならX≧360万円だけで十分です。

 ⑤180<X=360

 これも無意味な式です。等号では「以下」の意味が出ません。この数式が意味するところは、Xは180より大きく360と等しいということですから、180<Xの意味がなくなります。

 ⑥360<X<180

 Xは360を超えて180未満であるということになります。このような数字があるのであれば御教示ください(私はこういう数字を知らないので)。

 ⑦180万円>X≦360万円

 これも条文の意味を理解していないものです。180万円>XはX<180万円ということですから、X≦360万円の意味が失われてしまいます。「収入金額が百八十万円を超え」という部分とは全く意味が異なることは言うまでもありません。

 ⑧X<360

 単純にXは360未満であるというだけのことです。180万円は何処へ行ったのでしょうか。この不等号では「以下」の意味がこめられないことは当然です。

 

 以前から、法律の条文に示されていることを図示する、一次方程式程度の簡単な数式で表現するという内容の問題を小テストで出しています。どちらも法律学に取り組む者に必要な事柄であると考えています。

 このブログにも何度か書きましたが、私の大学院時代の恩師、新井隆一先生は「法律学は言葉の学問である」とおっしゃっていました。大学院生時代以来、この言葉がいつも私の頭の中にあります。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« かつては田園都市線を走って... | トップ | 京王5000系5734F »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

受験・学校」カテゴリの最新記事