ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

幹線、地方交通線の分類  再検討の必要があるのでは?

2019年07月09日 00時33分40秒 | 社会・経済

 私がこのブログで時々記していることの一つに、JR各社各線についての幹線、地方交通線の区別があります。最近では「JR北海道の路線で残るのは……」(2019年6月9日11時58分30秒付)において記しています。

 この、幹線と地方交通線との区別は「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」(昭和55年12月27日法律第111号)に第一の法的根拠をもつものです。この法律の第8条第1項は、次のように定めていました。

 「日本国有鉄道は、鉄道の営業線(幹線鉄道網を形成する営業線として政令で定める基準に該当するものを除く。)のうち、その運営の改善のための適切な措置を講じたとしてもなお収支の均衡を確保することが困難であるものとして政令で定める基準に該当する営業線を選定し、運輸大臣の承認を受けなければならない。」

 また、同条の第2項は、次のように定めていました。

 「日本国有鉄道は、前項の承認を受けた鉄道の営業線(以下「地方交通線」という。)のうち、その鉄道による輸送に代えて一般乗合旅客自動車運送事業(道路運送法(昭和26年法律第183号)第3条第2項第1号の一般乗合旅客自動車運送事業をいう。以下同じ。)による輸送を行うことが適当であるものとして政令で定める基準に該当する営業線を選定し、運輸大臣の承認を受けなければならない。」

 同条の第3項から第5項までは省略するとして、第6項をあげておきます。

 「日本国有鉄道は、運輸省令で定めるところにより、経営改善計画において、第2項の承認を受けた地方交通線(以下「特定地方交通線」という。)ごとに、その廃止の予定時期及び次条第1項に規定する競技を行うための会議の開始を希望する日(以下「会議開始希望日」という。)を定めなければならない。」

 幹線、地方交通線および特定地方交通線の区別は以上の通りなのですが、幹線と地方交通線の具体的な定義は「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法施行令」(昭和56年3月11日政令法律第25号)に委ねられました。幹線は、同施行令第1条において、次のように定義されています。

 「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法(以下「法」という。)第8条第1項の幹線鉄道網を形成する営業線として政令で定める基準に該当する営業線は、別表第1に掲げる営業線のうち、その区間が次の各号の一に該当するものとする。

 一 その区間のうちに、昭和55年3月31日(以下「基準日」という。)における人口が10万以上である市(特別区を含む。以下「主要都市」という。)を相互に連絡する区間で、次のイ及びロに該当するものがあること。

  イ 当該連絡する区間の基準日における旅客営業キロ(旅客営業に係る営業キロをいう。以下第4条までにおいて同じ。)が30キロメートルを超えること。

  ロ 当該連絡する区間における隣接する駅の区間のすべてにおいて旅客輸送密度(昭和52年度から昭和54年度までの間(以下「基準期間」という。)の旅客輸送量について算定した旅客営業キロ1キロメートル当たりの一日平均旅客輸送人員をいう。次号及び次条において同じ。)が4千人以上であること。

 二 その区間のうちに、前号に該当する幹線鉄道網を形成する営業線と主要都市とを連絡する区間で、次のイ及びロに該当するものがあること。

  イ 当該連絡する区間の基準日における旅客営業キロが30キロメートルを超えること。

  ロ 当該連絡する区間の基準日における隣接する駅の区間のすべてにおいて旅客輸送密度が4千人以上であること。

 三 その区間における貨物輸送密度(基準期間の貨物輸送量について算定した貨物営業に係る営業キロ1キロメートル当たりの一日平均貨物輸送トン数をいう。)が4千トン以上であること。」

 次に、地方交通線は、同施行令第2条において、次のように定義されています。

 「法第8条第1項のその運営の改善のための適切な措置を講じたとしてもなお収支の均衡を確保することが困難であるものとして政令で定める基準に該当する営業線は、別表第一に掲げる営業線のうち、その区間における旅客輸送密度が8千人未満であるものとする。」

 なお、このうちの特定地方交通線についての定義は同施行令第3条にあるのですが、ここでは省略します。

 以上の規定に従い、同施行令の別表第一ではアイウエオ順に番号が振られて並べられた245の路線(在来線のみ。第1号は相生線、第245号は和歌山線)のそれぞれが幹線、地方交通線、特定地方交通線と分類されたのでした。

 〔余談ですが、この別表第一では全て▲▲線(例、東海道線)と書かれており、▲▲本線(例、東海道本線)とは書かれていません。また、第40号としてあげられている大阪環状線は「天王寺から新今宮まで並びに野田から分岐して大阪市場まで、大正から分岐して大阪港まで及び浪速から分岐して大阪東港まで」と書かれており、新今宮から天王寺までの一駅だけの区間は第66号の関西線に入れられています。山手線の本来の区間は品川から新宿経由の田端までということは、第231号でもわかります。〕

 しかし、この分類は、程なく法的根拠を失います。「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」は「日本国有鉄道改革法等施行法」(昭和61年12月4日法律第93号)の第110条により廃止され、「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法施行令」は「日本国有鉄道改革法等の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令」(昭和62年3月20日政令第54号)の第72条により廃止されました。

 そのためであるのかどうかはわかりませんが、幹線と地方交通線との区別は現在もそのまま残されています。「JR北海道の路線で残るのは……」においても記したように、30年以上も、いや40年近くも続いているのです。幹線、地方交通線、特定地方交通線の分類が1980年代前半に済まされ、特定地方交通線も1990年4月1日に宮津線(北近畿タンゴ鉄道宮津線に転換)、鍛冶屋線および大社線を最後に全線が廃止されたこと、そして何よりも1987年4月1日に日本国有鉄道が解体されてJR各社に分割の上で転換したことによるのでしょう。

 しかし、国鉄時代の各路線で廃止されなかったものがJR各社の路線になったから見直されないという理屈は成り立ちません。

 幹線、地方交通線の区別で最も有意義であるのは運賃の設定であり、「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」の第13条は「日本国有鉄道は、地方交通線の運賃については、地方交通線の収支の改善を図るために必要な収入の確保に特に配慮して定めるものとする。」と定めていました〔この点について、大東法学第26巻第2号に掲載された私の論文「交通政策基本法の制定過程と『交通権』〜交通法研究序説〜」において取り上げた和歌山線格差運賃返還請求事件が参考になるでしょう)。JR各線が幹線、地方交通線の区別を維持しているのは、何よりも運賃の面によるということになりますが、以上にあげたもの以外の法律や政令に根拠があるのでなければ、JR各社が幹線と地方交通線との区別を維持し続けるだけの法的根拠はないということになります。

 現に、JR各社の設置根拠法となっている「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」(昭和61年12月4日法律第88号)には、運賃に関する規定が存在せず、幹線と地方交通線との区別の維持を要請する旨の規定もありません。基本は各社の定款に委ねられていますし、運賃の設定は鉄道事業法第16条の定めるところによるのであり、この規定はJR各社以外の鉄道会社(東急、東京メトロなどの私鉄、東京都交通局などの公営鉄道事業)にも適用されます。そして、現在、「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」の規律の対象となっているのはJR北海道、JR四国およびJR貨物のみです。この三社は現在も特殊会社であり、全株式を国が保有していることから、JR北海道およびJR四国に対しては、明示的か暗黙かは別として幹線と地方交通線との区別の維持が要請されているのかもしれませんが、それは行政指導(など)の範疇にすぎないのであり、法的には維持の必要もなく、むしろ各社が各路線につき独自に見直して運賃を設定することができるでしょう。

 まして、JR東日本、JR東海、JR西日本およびJR九州は、現在、「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」の規律対象から外されており、法律上は完全な私鉄と考えてよい訳です。この四社については幹線、地方交通線の区別をする理由が全く存在しないと考えてよいのではないでしょうか。

 勿論、JR各社が国鉄時代を引き継ぐ形で全国的な鉄道網を形成している以上、政策的に幹線と地方交通線との区別を維持する要請はあるでしょう。別に「時刻表」のためという訳ではなく、各会社にとっても、鉄道利用者にとっても、運賃計算の便宜にはなるからです。しかし、これも法的に求められているとは言い難いのではないでしょうか。大がかりで面倒なことにはなるかもしれませんが、各社で輸送密度などを見直した上で、各路線について幹線、地方交通線の位置づけの見直しは必要でしょう。実態が合っていないのでは意味がないからです。また、幹線、地方交通線の定義を見直した上で再定義を施すなり、全く別のカテゴリーを設定するなり、ということも必要になるものと思われます。その点では、例えば名古屋鉄道が各路線について行っている運賃区分が参考になるでしょう。

 いずれにしても、JR各社が硬直的に幹線、地方交通線の区別を維持する必要性はないのではないか、と考えられます。見直しは必要でしょう。

 ★★★★★★★★★★

 以上に記したことは、あくまでもブログのための記事としてのものです。もう少し本格的に論じたいと考えています。


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2 コメント

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Unknown (よみよみ)
2019-09-06 04:39:18
幹線・地方交通線制度を維持する理由もないけど、
放棄する理由もないよね?
完全私鉄の名鉄の運賃区分(a,b,c)だってあるし、私鉄だから地方交通線制度を廃止しろは暴論だと思う。
返信する
暴論でしょうか? (川崎高津公法研究室長)
2019-09-06 17:09:17
幹線・地方交通線制度を維持する必要はない、ということであれば、放棄する理由はある、とも言えるでしょう。
また、名鉄の場合は企業自らが運賃の設定を行うために運賃区分をしているのであり、幹線・地方交通線の区別とは別物です。いわゆるJR法の規定次第であるとはいえ、JR各社が、というのではまずいということであればJRグループが、複数運賃制度を採用すればよいのです。この場合、幹線・地方交通線の区別を参考にしてもよいし、別の基準を作成してもよいのであって、後者であれば実質的に幹線・地方交通線の区別に対する見直しとなります。
再検討、見直しという作業の結果には、当然、廃止も含まれます。暴論ではないでしょう。
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