ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

条項を示す際の表記の仕方 なるべく「第」を付けよう

2022年10月30日 08時00分00秒 | 法学(法律学)ノート

 以前、このブログにも記したかもしれませんが、最近行った小テストで誤記あるいは誤解が目立ったので、ここに記しておきます。

 私は、論文などで法律の条項を記す際に、基本的に「第」を付けます。例えば、憲法第14条第1項、憲法第73条第6号という具合です。公刊物では「第」が付けられていないこともありますが、それは削除されているからとお考えください。

 また、私は講義などの場においても、条項を示す際には必ず「第」を付けますし、学生にも、なるべく「第」を付けるように指導します。そうしなければ、条項の正確な表記ができないからです。具体的に記せば、いわゆる枝番号が付いている法条、例えば国税通則法第74条の2第1項第1号イを正確に示すことができません。

 市販されている教科書などにおいては、この「第」を省略し、憲法14条1項というように記されていることが多いようです。判決などにおいても同様です。しかし、とくに法学部の1年生や2年生を対象とする教科書でこのような表記を採用することは、非常に有害であると考えています。出版社によっては基本的に「第」を付けない表記を推してきますが、やめていただきたいものです。

 もしかしたら、「第」を付けると字数の倹約にもならないし、しつこく見えるからかもしれません。しかし、それこそ見てくればかり重視して教育効果を軽んじる姿勢でしょう。

 そもそも、国会に提出される法律案においては、条文中において「第」は省略されていません。すなわち、条であれ項であれ号であれ「第」を付すのが正式なのです。

 もう一つ、教科書などにおいて「第」を付けないことの弊害は、学生への教育効果において如実に表れます。小テスト、期末試験、レポートのいずれかでわかります。

 先日出題した小テストで、民法第121条の2第1項を解答してもらうという問題を出しました。ここで「民法121条の2 1項」という表記の解答が多く見られました。書き方などによっては「民法第121条の21項」とも読めます。実際には民法第121条第21項などという規定はありません。つまり、実在しない規定が示されてしまうということになるのです。

 このような条項に対応するためか、民法121条の2第1項というように記す教科書が多いようです。つまり、枝番号が付いている場合にのみ、項や号を示す際に「第」を付けるのです。私に言わせれば、それこそ見てくれが悪いとしか思えませんし、統一感もありません。そして、法律学の初学者に悪影響を及ぼしていると言えます。

 どのような条項であっても「第」を付けるような習慣を付ければ、民法第121条の2第1項、国税通則法第74条の2第1項第1号イと正確に示すことができます。

 法律学に取り組んでいる学生、あるいは生徒の皆さん、「第」を必ず付けて表記する習慣を付けましょう!

 結論を先に記しておきましたが、さらに説明などを進めていきましょう。

 日本の法律において、枝番号が付されるものは決して少なくありません。私が専攻する行政法や租税法の世界では、枝番号が付されている条項など当たり前に存在します。行政手続法には第36条の2および第36条の3がありますし、国税通則法には第74条の2、第74条の3などがあります。そればかりか、地方税法には第72条の117という強者があります。そうです。第72条、第72条の2、第72条の3、……、第72条の117となっている訳です。

 また、昨今の民法の改正において、第3条の2、第121条の2というように枝番号が付されることが多くなっています。立法の原則ということで、条および号には枝番号が付くことがあるのに対し、項については枝番号が付きません。これは、元々、項が段落を意味するからです。例えば、憲法第14条は、本来、次のように記されるものです(漢字を現代風に改めているなど、正確な再現ではありません)。

 

 第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

 

 御覧の通り、市販の六法に付されている①、②、③というものはありません。最近の法律などにおいては第2項以下について「2」などという数字が付されますが、あくまでも便宜であり、本来はただの改行なのです。そのため、項を追加する場合には、例えば現行の第2項を第3項に移し、新たに第2項を加えるという方法も採られます。

 これに対し、条や号については、例えば第40条を第41条とする、第3号を第4号とすることもありますが、それは第▲条なり第■号なりの削除を行った上での第▼条や第◆号の追加を伴うためであり、通常は第29条の後に第29条の2を追加する、あるいは第3号の後に第3号の2を追加するという形を採ります。

 そればかりでなく、法律などの改正の内容によっては、例えば第72条の2と第72条の3との間に第72条の2の2および第72条の2の3という新たな条文を追加することもあります。日本の法令においてはここまでの枝番号が許容されています。その上で第72条の2の3第2項第4号という表記をしなければならない訳です。ここで「第」を付ける習慣がない人であれば「第72条の2の3 2項 4号」と書くかもしれませんが、これでは「第72条の2の32項4号」と読みとられる可能性もあります。「スペースをおけばよいだろう」とお考えの方もおられるでしょうが、文章が鉛筆、ボールペン、万年筆などによって書かれているような場合には、スペースを厳格に示せないこともあるでしょう。パソコンなどで作成した場合でも、スペースは単なる脱落としか思われないかもしれません。ただ、「第」を付けることによって第72条の2の3第2項第4号であるということを正確に示すことができます。要するに、妙なところで無精にならない、面倒くさがらないことが大事である訳です。中途半端に「72条の2の3第2項4号」と表記するように指導したところで、条項を正確に摘示することなどできるようになりません。


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