1.財政赤字の現状など
既に御存知の通り、日本は、国・地方とも巨額の財政赤字を抱えている。
ほとんどの先進国は、1990年代に財政赤字を縮小させているのであるが、日本だけは逆に拡大させた。2004年から縮小傾向に転じたものの、債務残高の対GDP比の数字が上昇している。
たとえば、Organization for Economic Cooperation and Development, Economic Outlook, No. 89, May 25, 2011, Annex Table 30およびTable 32を参照されたい。
そればかりでなく、ここには統計などを示すことはできないが、地方財政における赤字の幅が極端に大きいことも、他の先進国に例をみない状況となっている。地方財政の現況については第三部にて検討を加えることとするが、いずれにせよ、国債の発行残高も、そして予算のうちの歳入に占める国債への依存度も、年々上昇している。このままでは、財政赤字が深刻化するのみならず、日本政府の償還能力が低下することにより、長期金利の上昇、国際価格の急落などを招くことになりかねない。そればかりでなく、第一次世界大戦後のドイツ、そして第二次世界大戦後の日本が経験したようなハイパー・インフレイションが生じ、国民生活が壊滅する危険性もある。2003年8月に私が熊本県立大学総合管理学部で集中講義「財政法」を担当した頃(小泉内閣時代である)にはデフレ・スパイラルが懸念されていたが、デフレ・スパイラルの問題が深刻である理由は、止め処のないインフレイションに逆転する可能性が存在するという部分にある。
2.財政赤字、赤字国債に関する歴史的現実
財政赤字―とくに、国債の発行残高が上昇することによる―の結末がいかなるものであるのか。これについては、歴史的事実から知ることができる。
第一次世界大戦後のドイツでは、敗戦などの結果、実に1兆倍というハイパー・インフレイションに見舞われ、連邦財政は勿論、国民生活も破綻した。その原因として、当時の帝国政府が抱いていた「短期決戦思考」があげられる。元々、ドイツ帝国時代の末期に、帝国(連邦。Reich)の国家財政は悪化の傾向を示していた。しかも、ドイツの戦費調達における公債の依存度はアメリカやイギリスよりも高く、ドイツは戦勝による他国からの賠償金を頼りに戦争を進めた。戦費を調達するための増税が全くなされなかった訳ではなく、1915年に帝国銀行戦時税が創設され、1917年および1918年にも増税がなされているが、戦況の改善にはつながらず、むしろ、1916年以降に公債の未償還率が上昇していった。このことは、財政赤字、債務の拡大が、国に、そして国民全体に、いかに破壊的な、あるいは破滅的な影響を及ぼすのか、ということを教えてくれる。
この点については、さしあたり、拙稿「アルベルト・ヘンゼルの財政調整法理論―ドイツ財政法理論史研究序説―(一)」早稲田大学大学院法研論集81号(1997年)256頁から引用した。詳細は、この拙稿の注に示した文献を参照されたい。また、Albert Hensel, Der Finanzausgleich im Bundesstaat in seiner staatsrechtlichen Bedeutung, 1922, S. 171も参照。
日本の場合も、第二次世界大戦中に借入金が増大し、赤字国債や戦時国債が濫発された。増税政策も強行されたのであるが、それでも財源が不足する場合に赤字国債や戦時国債を発行し、これへの応募を「半ば強制した」※。しかも、これらの国債を公募せずに日本銀行に引き受けさせた。また、日本銀行からの資金借入を行った。このために、日本銀行の手持公債が増加し、日本銀行券の発行高を激増させることとなり、ひいては、敗戦後まもなくの日本経済を崩壊状況に追い込んだ原因となった。
※杉村章三郎『財政法』〔新版〕(1982年、有斐閣)47頁。
現在の財政法第4条は、こうした歴史的事実に鑑み、健全財政の原則、赤字公債発行禁止の原則を規定している。それは、何よりも「戦前のわが国において安易に公債の発行による財政運営を許したことが戦争の遂行・拡大を支える一因となったことを反省する」という趣旨に由来するのである※。
※杉村・前掲書47頁。
3.国債とは
財政法第4条は、公債の語を用いており、国債という語を用いない。しかし、旧会計法において用いられていたばかりでなく、現在も通常の用語としては国債という表現のほうがなじみ深いであろう。
それでは、財政法学において、国債とはいかに定義されるものであろうか。
端的に言うならば、国債とは国の公債をいう。これに対し、地方公共団体の公債を地方債という。そこで、公債とは何かが問題となる。
公債には広狭の意味が存在する。広義の公債とは、国や地方公共団体などの公権力の主体が歳出財源の調達のために負う金銭債務をいう。しかし、財政法第4条にいう公債は狭義のもので、広義の公債のうち、証券発行を伴うものを指す。
従って、国債は、国が歳出財源の調達のために負う金銭債務で、証券発行を伴うものである、ということになる。しかし、杉村章三郎博士によれば、これは最狭義の国債である。そこで、杉村博士による定義を参照すると、次のようになる※。
※杉村・前掲書46頁。
広義の国債:「財政上の必要による国の債務で償還期限一年以上の公債および借入金の他、資金繰りの必要による大蔵省証券等の短期証券および一時借入金をも包含する」※。この意味の国債は、国債整理基金特別会計法において用いられる。
※引用文中にある「大蔵省」は、現在の財務省のことである。
狭義の国債:広義の国債のうち「歳入目的で調達する原則として償還期限一年以上の公債および借入金」をいう。
最狭義の国債:上述。
財政法第4条には「公債又は借入金」と示されているので、同条にいう国債は最狭義の国債であると理解してよい。しかし、第4条および第5条において公債と借入金が併記されていること、いずれも金銭債務であって償還の必要性があることからすれば、実質的に両者を一体と考えてもよい。そのため、この講義においては、杉村博士による狭義の国債を中心に概説することとする。
なお、財政法第4条にいう公債に含まれないものとしては、財務省証券(同第7条)などの政府短期証券、交付国債、出資国債がある。
交付公債は記名証券であり、農地改革および漁業改革に伴う農地証券および漁業証券、軍人軍属の遺族援護のための遺族国債などがある。また、出資国債は交付国債の一種で、復興金融金庫に対する出資国債が例とされる。なお、実際には、国債および借入金については入札制度が存在し、財務大臣によって入札に参加しうる者が定められる。
4.財税法第4条
(1)何故、赤字国債発行禁止の原則なのか
既に記したように、大日本帝国憲法末期の日本においては、赤字国債や借入金の濫発が行われ、破滅的な結果に陥ることとなった。その反省として、財政法第4条において健全財政の原則、赤字国債発行禁止の原則が規定された。
その由来からして、この規定は憲法の平和主義と浅からぬ関係がある、ということが理解されるであろう。実際、槇重博博士は、この規定を「財政法中最も重要な規定」と評価し、同条に示される赤字国債禁止主義が憲法第9条に規定される平和主義を保障するための手段であると述べている※。
※槇重博『財政法原論』(1991年、弘文堂)72頁。
また、財政赤字、そしてその原因の一つである赤字国債は、世代間の不平等を将来すると指摘される。すなわち、現在の世代にとっては利益となるものであっても将来の世代にとっては不利益となるというのである。これについては議論もあり、財政赤字なり赤字国債なりの全てが将来の世代にとっての負担になる訳ではないという論調も存在し、建設国債などを正当化する理由として主張される。
しかし、例えば近年の公共事業について批判が寄せられるように、道路や橋梁などの「資産」を建設したとしても、それらの資産の全てが将来の世代に有益であるとは限らない。このことは、赤字国鉄ローカル線の廃止、第三セクターの破綻などで明らかである。不要な「資産」を押しつけられた上に莫大な借金を返さなければならないというのでは、将来の世代にとって過大な負担となる。そればかりか、現在の世代が赤字国債などで利益を得たとしても、償還するのは将来の世代である。簡単に言えば、親が自分の生活のために借金をして、ツケを子供が払うことになる。しかも、その借金なりツケなりが多少なりとも子のためになるのであれば救われる部分もあるが、そうでなく、親の享楽、贅沢のためであるならば、子にとってはただの無駄な支出、否、それに留まらずに有害な重荷にすぎない。
国家財政についても、基本的な状況は変わらない。そのために、赤字国債の発行を禁止し、世代間の平等を確保する必要がある。
槇博士は、この点に着目し、財政法第4条が憲法第14条による平等原則を財政の面から保障する規定であるという趣旨を述べている。博士によると、「歳出の財源が、その年度の租税収入によって賄われる場合には、税金はその年度の政府の支出となって、民間経済に還流する」が、「公債を発行するとその元利支払いのために、国債費という支出が必要にな」り、「民間経済には戻ってこないで、特定の階級のもとにとどまる」ことになる。しかも、国債費が増加すると財政赤字も増加するし、国債費は必ず計上されて支出されることになる。こうして、仮に国が豊かになっても国民は耐乏生活を余儀なくされるし、国債の購入層を考慮すると、貧富の格差を増大させる結果に終わることとなる※。
※槇・前掲書72頁。
(2)原則に対する例外
上述のように、財政法第4条は健全財政の原則、赤字国債発行禁止の原則を定める。これは、同条の由来からして、日本国憲法の三大原則の一つである平和主義を財政の面から担保し、もう一つである基本的人権の尊重、とくに平等権を財政の面から担保する規定であると表現しうる。また、この規定によると、国の歳出財源は基本的に租税により賄うべし、という原則が示されることになる。
但し、「例外のない原則はない」という格言があるように、これらの原則にも例外がある。財政法第4条第1項ただし書きは、公共事業費、出資金、そして貸付金の財源について、公債や借入金を認容する※。その理由としては、これらの支出が消費的支出ではなく、国の資産を形成するための支出であり、しかも、こうした資産から国民が得られる利益も長期にわたるから、将来の世代に相応の負担を求めてもよい、ということがあげられている※※。
※これにより、建設国債を発行することが可能となっている。なお、建設国債という名目での発行を認める例は、先進国においては他にドイツしか見当たらない。
※※杉村・前掲書46頁、兵藤広治『財政会計法』(1984年、ぎょうせい)24頁。
もっとも、この例外が無制約に許容される訳ではない。財政法第4条第1項ただし書きには「国会の議決を経た金額の範囲内で」という条件が示されている。これを受け、第22条第1号は、予算総則に掲げる事項として「公債又は借入金の限度額」をあげている。
第4条第1項ただし書きに規定されるもののうち、出資金および貸付金については、比較的に明瞭な概念である。元本や出資金による権利を確保できるし、利子などの収入も予定できる。これに対し、公共事業費の概念は不明瞭である。そのために、第4条第3項は、とくに公共事業費の「範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない」と規定し、金額および目的について国会を関与させている(第22条第2号も参照)。ただ、この場合、「建設公債発行額と建設公債発行対象経費支出額との関係については、公債発行収入金を区分経理して対象経費以外の使用は認めないというような個別的対応関係を設ける必要はなく、年度全体として公債発行額が対象経費支出額の範囲内であればよい」と解釈されている。現実にはそのように運用されているのであろうが、財政民主主義の貫徹という観点からすれば、若干の疑問が残る。
※兵藤・前掲書25頁。
また、建設国債については、第4条第2項により、償還計画が国会に提出されなければならない。この償還計画は国会の議決事項ではなく、建設公債発行額の範囲が国会にて議決される際の参考資料として扱われている。なお、議案と計画は同時に提出される。
以上は、主に一般会計に関する説明である。第4条の規定は特別会計についても妥当すべきものであるが、特別会計については、個別法に公債や借入金に関する規定が置かれている(ここでは詳細を略す)。
(3)公債市中消化の原則
既に記したように、大日本帝国憲法体制末期には、政府が赤字国債や戦時国債を濫発し、これらを日本銀行に引き受けさせた。その結果、激しいインフレイションが発生して敗戦後まもなくの日本経済を崩壊状況に追い込んだ。このため、財政法第5条は、公債を日本銀行に引き受けさせることを禁止した。また、借入金についても、日本銀行からの借り入れを禁止している。市中消化の原則を定めているのである。
最近も、時折ではあるが、政治家などから日本銀行の公債引き受けなどを強力に主張されることがある。しかし、これは同条に違反するばかりでなく、将来の国民経済、そして国民生活を破綻させることになるであろう。
但し、この原則にも例外が設けられている。同条ただし書きは「特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内において」日本銀行による公債引き受けなどを許容する(第22条第3号も参照)。この「特別の事由」の意味は判然としないが、金融市場の情勢などが考えられる。これまで、このただし書きが適用された例として、昭和23年度特別会計予算総則、および、昭和23年度以降、日本銀行が保有する公債の借換債を日本銀行が引き受ける形で発行する実例がある。この場合は、日本銀行による通貨供給量の増大が生じない。
(4)財務省証券の発行および一時借入金
財政法第7条に規定される。財務省証券も一時借入金も、年度を超える債務ではなく、歳出財源でもない。国庫の資金繰りを円滑に進めるための一時的な融通資金である。このために、第4条ほどの厳格な要件が適用されない。もとより、財政の安定性という点からすれば、この類のものも無制約に認容する訳にはいかない。そこで、財務省証券の発行限度額および一時借入金の最高限度額は、国会の審議事項であり、議決を経る必要がある(第7条第3項、第22条第3号)。
(5)国債の償還など
当然のことであるが、国債は、期限の到来とともに償還されなければならない。その方法として、日本では減債基金制度が基本となっている。これは、国債の償還のために、その財源を制度的に確保した上で、これを一般会計と区分した上で経理をし、国債の償還を行うというものである。法律として、国債整理基金特別会計法が存在する。
5.財政法第4条の特例法
ここまでの説明を読まれた方は、おそらく、財政法第4条が健全財政の原則、赤字国債発行禁止の原則をとっているにもかかわらず、何故に現在の莫大な財政赤字を抱えるまでに至ったのか、と思われるであろう。
実は、これらの原則は、昭和40年度に破られた。1964(昭和39)年から1965(昭和40)年にかけて、深刻な不況が日本を襲った。山一証券が破綻寸前に陥り、いくつかの大型企業が倒産するという状況の中、税収も落ち込み、景気対策も求められた。そこで「昭和四〇年度における財政処理の特別措置に関する法律」が制定され、赤字国債の発行が認められることとなった。なお、赤字国債は、こうした特例法によって発行されることから特例国債(公債)とも呼ばれる。
その後、景気が回復したことなどから、赤字国債は発行されなかったが、1973(昭和48)年の第一次オイルショックによって日本の高度経済成長期が終わり、税収不足に見舞われたため、1975(昭和50)年度以来、ほぼ毎年、財政法第4条の特例法が制定され、赤字国債の発行が続けられてきた。
財政法第4条そのものは生かされており、「財政節度の維持という見地」により国会の承認を得るという形をとるが※、本来は緊急措置としての要素を有する特例法が毎年のように議決され、施行されているということは、もはや「財政節度の維持という見地」からしても望ましくない※※。しかし、2011(平成23)年度の一般会計予算(当初予算)および一般会計補正予算についても「平成二十三年度における公債の発行の特例等に関する法律」※※※の第2条第1項により、特例公債の発行が認められることとなった。
※兵藤・前掲書27頁。
※※これに限らず、日本の法制度においては、特例法、特別措置法が多用される傾向にある。財政法第3条の特例に関する法律がそうであるし、租税特別措置法、市町村合併特例法なども代表例としてあげられる。また、地方税法については、附則に実質的な特例法というべき規定が多い。特例法、特別措置法を参照しなければ、実際の制度を理解することができないのである。これは、いたずらに法制度を複雑化し、場合によっては、租税特別措置法のように国民の間に不公平感を生むなど、悪弊を生み、さらには増大させる。必要性を全く認めない訳ではないが、少なくとも長期間にわたって特例法、特別措置法の類に頼ることは、原則を掘り崩し、自らの信頼を失うことになりかねない。
※※※2011(平成23)年1月24日、第177回国会に法律案が提出された際の名称は「平成二十三年度における財政運営のための公債の発行の特例に関する法律」であった。同年4月28日、衆議院で「平成二十三年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案中修正」により、本文に示した名称となっている。この法律が参議院本会議における可決により成立したのは同年8月26日であり、同月30日に法律第106号として公布された。
さらに、財政法第4条の趣旨が根底から崩されかねない動きが顕在化した。それまでは年度毎に特例法により公債を発行することにしていたのであるが、2012(平成24)年の第181回国会において成立し、同年11月26日に法律第101号として公布された「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律」※は、複数年度にわたって公債の発行を認める内容となっている。
※2012年10月29日、内閣から衆議院に提出された。衆議院において修正の上で可決されたのは同年11月15日であり、参議院において可決されたのは同年11月16日である。
まず、内閣提出法律案第1号である当初案の前文を掲載しておく。
財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律案
(趣旨)
第一条 この法律は、最近における国の財政収支が著しく不均衡な状況にあることに鑑み、平成二十四年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、同年度における公債の発行の特例に関する措置を定めるとともに、平成二十四年度及び平成二十五年度において、基礎年金の国庫負担の追加に伴いこれらの年度において見込まれる費用の財源を確保するため、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(平成二十四年法律第六十八号)の施行により増加する消費税の収入により償還される公債の発行に関する措置を定めるものとする。
(平成二十四年度における特例公債の発行等)
第二条 政府は、財政法(昭和二十二年法律第三十四号)第四条第一項ただし書の規定及び次条第一項の規定により発行する公債のほか、平成二十四年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行することができる。
2 前項の規定による公債の発行は、平成二十五年六月三十日までの間、行うことができる。この場合において、同年四月一日以後発行される同項の公債に係る収入は、平成二十四年度所属の歳入とする。
3 政府は、第一項の議決を経ようとするときは、同項の公債の償還の計画を国会に提出しなければならない。
4 政府は、第一項の規定により発行した公債については、その速やかな減債に努めるものとする。
(平成二十四年度及び平成二十五年度における年金特例公債の発行等)
第三条 政府は、財政法第四条第一項の規定にかかわらず、平成二十四年度及び平成二十五年度における基礎年金の国庫負担の追加に伴い見込まれる費用(この項の規定により発行する公債に係る平成二十四年度及び平成二十五年度における利子の支払に要する費用を含む。)の財源については、当該各年度の予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行することができる。
2 前項の規定により発行する公債及び当該公債に係る借換国債(特別会計に関する法律(平成十九年法律第二十三号)第四十六条第一項又は第四十七条の規定により起債される借換国債をいい、当該借換国債につきこれらの規定により順次起債される借換国債を含む。次項において同じ。)についての償還及び平成二十六年度以降の利子の支払に要する費用の財源は、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律の施行により増加する消費税の収入をもって充てるものとする。
3 第一項の規定により発行する公債及び当該公債に係る借換国債(次項において「年金特例公債」という。)については、平成四十五年度までの間に償還するものとする。
4 年金特例公債は、特別会計に関する法律第四十二条第二項の規定の適用については、国債とみなさない。
附則
この法律は、公布の日から施行する。
理由
最近における国の財政収支が著しく不均衡な状況にあることに鑑み、平成二十四年度の一般会計の歳出の財源に充てるため、同年度における公債の発行の特例に関する措置を定めるとともに、平成二十四年度及び平成二十五年度において、基礎年金の国庫負担の追加に伴いこれらの年度において見込まれる費用の財源を確保するため、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律の施行により増加する消費税の収入により償還される公債の発行に関する措置を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
注意しておくべき点は、当初案の段階において2012年度中の特例公債の発行、同年度中および2013(平成25)年度中の「年金特例公債」の発行を認める内容となっていたことである。すなわち、この段階において複数年度にわたり公債の発行を認めるものとされていた訳であり、国会の機能という面からすれば、極めて問題の多いものとなったのである。
以上の内容に対し、衆議院財務金融委員会の審査において修正案が提出された。参考までに掲載しておく。
財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律案に対する修正案
財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律案の一部を次のように修正する。
第一条中「鑑み、平成二十四年度」の下に「から平成二十七年度までの間の各年度」を加え、「同年度」を「これらの年度」に改める。
第二条の見出し中「平成二十四年度」の下に「から平成二十七年度までの間の各年度」を加え、同条第一項中「次条第一項」を「第四条第一項」に改め、「平成二十四年度」の下に「から平成二十七年度までの間の各年度」を、「充てるため、」の下に「当該各年度の」を加え、同条第二項中「平成二十五年六月三十日」を「当該各年度の翌年度の六月三十日」に、「同年四月一日」を「当該各年度の翌年度の四月一日」に、「平成二十四年度」を「当該各年度」に改める。
第三条を第四条とし、第二条の次に次の一条を加える。
(特例公債の発行額の抑制)
第三条 政府は、前条第一項の規定により公債を発行する場合においては、中長期的に持続可能な財政構造を確立することを旨として、各年度において同項の規定により発行する公債の発行額の抑制に努めるものとする。
附則を附則第一項とし、附則に次の一項を加える。
2 政府は、平成二十四年度の補正予算において、政策的経費を含む歳出の見直しを行い、同年度において第二条第一項の規定により発行する公債の発行額を抑制するものとする。
修正案には第3条として公債の発行額を抑制する旨の規定が追加されているものの、努力義務規定である。しかも、当初案においては2012年度における特例公債の発行を認めるに留まっていたのに対し、修正案においては2012年度から2015(平成27)年度までの4年度にわたって公債発行を認める趣旨となっている。他方、「年金特例公債」の発行については修正が加えられていない。
従来の特例法と同様に「予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内」という歯止めはかけられているものの、「04 国家予算」において述べたように、国会による予算案の審議に関し、修正の権限は理論的にもそれほど広いとは言えず、実際にもその権限が行使されることが少ないため、十分な歯止めと言いうるか否かについては疑問の余地がある。
しかし、財務省は、以上のような施策を継続する方針を打ち出している。報道※によれば、同省は「政治の混乱などで必要な法案が通らずに赤字国債を発行できなくなり、国民生活や地方行政に支障が出る事態を避ける狙い」のために、2015年度までとなっていた措置を2016(平成28)年度以降にも継続する旨の法律案を、2015年度中に開かれる国会に提出するという。
※日本経済新聞2015年7月3日付朝刊5面14版に掲載された「赤字国債 立法不要継続へ 財務省、3~5年軸に検討」による。
6.公債依存度の変遷
赤字国債の発行残高が増え、バブル崩壊とともに税収の落ち込みが激しくなった1990年代には、何度となく財政構造改革の必要性が叫ばれた。地方分権改革も、財政構造改革との関連において主張されたという部分が大きい。1997(平成9)年度には「財政構造改革の推進に関する特別措置法」が制定された。この法律は歳出面の見直しを中心とするが、第4条において赤字国債の発行残高を減少させるという趣旨を宣言した。これを受ける形で、第6条において国の財政運営に関する当面の方針を定めた。しかし、消費税率の上昇、緊縮財政などにより、回復基調にあったとされる景気が冷え込んだことで、早くも1998(平成10)年には「財政構造改革の推進に関する特別措置法の停止に関する法律」が制定され、「財政構造改革の推進に関する特別措置法」は効力停止状態となっている。
そして、その後も、予算の歳入全体に占める公債の割合は上昇を続け、平成15年度当初予算においては、公債依存度が44.6%に達した(建設国債と特例公債とを合わせた数字。以下も同じ)。公債依存度については改善の傾向が見られた時期もあったが、現在は再び悪化する傾向にある。
平成18年度当初予算における公債依存度:およそ38%(歳入合計はおよそ79兆6860億円、公債金は29兆9730億円)。
平成19年度当初予算における公債依存度:およそ31%(歳入合計はおよそ82兆9088億781万円、公債金は25兆4320億円)。
平成21年度当初予算における公債依存度:およそ38%(歳入合計はおよそ88兆5480億132万円、公債金は33兆2940億円)。
平成21年度第一次補正予算における公債依存度:およそ43%(歳入合計はおよそ102兆4735億5955万円、公債金は44兆1130億円)。
平成23年度当初予算における公債依存度:およそ49%(歳入合計は92兆4116億1271万5千円、公債金は45兆1080億円)。
平成23年度第一次補正予算における公債依存度:およそ48%(歳入合計は92兆7166億9416万5千円、公債金は45兆1080億円)。
平成25年度当初予算における公債依存度:およそ46%(歳入合計は92兆6115億3932万8千円、公債金は42兆8510億円)。
平成25年度第一次補正予算における公債依存度:およそ44%(歳入合計は98兆0769億6746万6千円、公債金は42兆8510億円)。
平成26年度当初予算における公債依存度:およそ43%(歳入合計は95兆8823億282万9千円、公債金は41兆2500億円)。
平成27年度当初予算における公債依存度:およそ38%(歳入合計は96兆3419億5097万円、公債金は36兆8630億円)。
(以上の%については小数点以下四捨五入。)
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