今回は、本格的な検討などを行いません。ただの雑感という程度です。しかし、日本では明確な公共交通政策があるのかないのかわからないような状態が続いており、新幹線、高速道路など、それぞれの分野が独立しており、しかも何ら調整がなされないので「あれもこれも」という形になっています。
3月14日、北陸新幹線の長野~金沢が開業しました。地元では歓迎ムードなども漂いますが、地域交通という観点からすると、在来線網が「ズタズタにされた」と評価してよいでしょう。今までも自動車社会の進展などで地域の公共交通機関は衰退している訳ですが、新幹線の開業でさらに加速し、大きな禍根を残すのではないかという懸念もあります。少なくとも、地元の通勤・通学客にとってはマイナス面ばかりが多くなっているでしょう。
既に、北陸新幹線では最初の高崎~長野の開業(そのために当初は長野新幹線と呼ばれました)で在来線の細切れ状態が生じています。具体的には、新幹線開業前には高崎から長野、直江津を経由して新潟までの路線であった信越本線です。高崎~横川はJR東日本の信越本線、横川~軽井沢は完全に廃線(バス化)、軽井沢~篠ノ井はしなの鉄道(しなの鉄道線)、篠ノ井~長野~直江津~新潟はJR東日本の信越本線となりました。高崎~横川が信越本線を名乗り続ける意味が失われている訳です。
今年3月14日、北陸新幹線が延長開業したことにより、信越本線はさらに分断状態に、ややこしくなりました。長野~妙高高原がしなの鉄道北しなの線、妙高高原~直江津がえちごトキメキ鉄道妙高はねうまラインに移管されたので、信越本線は高崎~横川、篠ノ井~長野、直江津~新潟の三つとなりました。一本の路線が七つに切られ、そのうちの一切れは完全に廃棄され、三切れが他人の手に渡ったのです。篠ノ井~長野は、事実上、篠ノ井線の延長のような存在となっていますから信越本線を名乗り続ける意味もなく、篠ノ井線に統合すればよいのではないかとも思えますし、直江津~新潟についても、信濃国を通っていないのですから信越本線を名乗り続ける必然性がありません。
新幹線の開業により、並行在来線をJRから切り離すという政策は、1990年12月24日付の「整備新幹線着工等についての政府・与党申合わせ」、1996年12月25日の「整備新幹線の取扱いについて 政府与党合意」に基づくものです。その適用第一号が北陸新幹線の高崎~長野であり、信越本線が以上のような姿になった訳です。
ややこしくなったのは、信越本線の分断状態だけではありません。北陸本線も細切れ状態に入りつつありますが、JRの路線網がよくわからないものになり、所々で孤立線というべき存在の路線(名鉄瀬戸線などを思い浮かべていただければよいでしょう)が生まれました。
これは東北新幹線の延伸により、青森県で既に生じていました。まず、八戸~久慈の八戸線です。起点の八戸で東北新幹線に接続するとは言え、規格が全く異なりますから、車両の融通はできません。八戸で接続していた東北本線は青い森鉄道の路線になりましたし、終点の久慈で接続するのは三陸鉄道北リアス線ですから、JR東日本の在来線のみの路線図では孤立します。
青森県にはもう一つの孤立線があります。野辺地から大湊までの大湊線です。こちらは東北新幹線とも接続していません。野辺地で接続するのは青い森鉄道ですから、JR東日本の路線網では完全な孤立線となります。
また、厳密には孤立線と言えないのですが、JR東日本盛岡支社が管轄する路線で孤立状態となったのが、好摩~大館の花輪線です。ほとんどの列車が盛岡まで運転されるのですが、盛岡~好摩はIGRいわて銀河鉄道(いわて銀河線)ですので、運賃は合算されることになり、非常に高くなります。いっそうの鉄道離れを引き起こしたのではないでしょうか。
今回の北陸新幹線延伸でも同じような事例が生まれました。県別に見ましょう。
まずは長野県です。ここでは八戸線や大湊線のような孤立線は存在しませんが、花輪線と似たような状況になっているのが、豊野~越後川口の飯山線です。豊野~森宮野原が長野支社の管轄で、その途中に北陸新幹線と接続する飯山駅があります。飯山線の長野県側ではしなの鉄道北しなの線となった長野~豊野に乗り入れていますので、飯山線の途中駅から長野へ向かうには、これまでのようにJR東日本の運賃だけを払えばよいことにはならず、JR東日本としなの鉄道の運賃を合算するということになるのでしょう。とくに通学客には大きな痛手となりえます。
新潟県では、八戸線型と花輪線型の混合のような孤立線があります。大糸線です。この在来線は、松本~南小谷(電化区間)がJR東日本、南小谷~糸魚川(非電化区間)がJR西日本で、JR全体の在来線網から完全に孤立してはいないものの、JR西日本の在来線網においては孤立します。糸魚川駅で北陸新幹線およびえちごトキメキ鉄道日本海ひすいラインに接続しますが、これは八戸線と同様の形です。
ここで北陸本線について記しておかなければなりません。北陸新幹線の延伸開業までは米原~直江津の路線でした。延伸開業後、米原~金沢はJR西日本に残りましたが、金沢~倶利伽羅はIRいしかわ鉄道(IRいしかわ鉄道線)、倶利伽羅~市振があいの風とやま鉄道(あいの風とやま鉄道線)、市振~直江津がえちごトキメキ鉄道(日本海ひすいライン)に分割されました。
さて、北陸新幹線の延伸により、富山県および石川県の鉄道事情が大きく変わりました。どちらの県にも、JRの在来線網で寸断、細切れ、孤立が発生しています。
富山県では、まず、富山駅で北陸新幹線に接続する高山本線をあげることができます。この路線は大糸線と類似しており、岐阜~猪谷がJR東海、猪谷~富山がJR西日本です。このため、猪谷~富山がJR西日本の在来線としては孤立することとなります。いっそうのこと、岐阜~富山の全体をJR東海とするほうがわかりやすいくらいです。また、高山本線は地方交通線であり、一部があいの風とやま鉄道線となった北陸本線は幹線ですから、幹線がJR西日本から離れ、地方交通線がJR西日本に残るということになります。先にあげた大糸線も同様です。
富山駅から少しばかり西へ移動します。高岡駅から、JR西日本の地方交通線が2本分岐します。能登半島の東側へ伸びる氷見線(高岡~氷見)と、北陸新幹線と接続する新高岡駅、さらに南の城端(じょうはな)まで伸びる城端線です。どちらも地方交通線で非電化線ですが、並行在来線ではないためにJR西日本に残りました。氷見線と城端線が高岡で接続しているために孤立しているとは言い難いのですが、JRの在来線網からは完全に寸断されています。
石川県では、津幡~和倉温泉の七尾線が大湊線と同様に完全な孤立路線となりました。七尾線の列車は北陸本線に乗り入れていましたが、これはIRいしかわ鉄道への乗り入れとして残されています。とは言え、津幡駅には北陸新幹線のホームも何もありませんから、JR西日本の路線網としては完全に孤立することに変わりはありません。
また、七尾線は、北陸新幹線の延伸云々に(少なくとも直接的には)関係なく、かなり面倒な路線です。津幡~和倉温泉はJR西日本の路線ですが、七尾~和倉温泉はJR西日本が第一種鉄道事業者、のと鉄道が第二種鉄道事業者です。また、一般的にはのと鉄道線と扱われる和倉温泉~穴水は、実はJR西日本が第三種鉄道事業者、のと鉄道が第二種鉄道事業者です。つまり、同区間の線路などの施設はJR西日本によって保有されており、のと鉄道は施設を借りて列車を運行している訳です。2001年まで七尾線は津幡~輪島の路線でしたが、穴水~輪島が廃止されています。この廃止区間についても、JR西日本が第三種鉄道事業者、のと鉄道が第二種鉄道事業者でした。他方、2005年に廃止された能登線(穴水~蛸島)は、のと鉄道が第一種鉄道事業者として運営していました。七尾線が重荷になり、のと鉄道の経営が悪化したとも伝えられています。
今後、北陸新幹線は福井県にも延伸する予定となっています。さらに近畿地方にも伸びるのでしょう。ただ、敦賀から先のルートがまだ決まっていないという話を聞きます。東海道新幹線と接続するのが米原なのか、京都なのか、新大阪なのか。途中、どの市町村を通過するのか。並行在来線としてJR西日本から他社線に転換されるのはどこなのか。決まっていない以上、工事着手のしようがない訳ですが、敦賀で止まってしまうのでは新幹線として中途半端に過ぎます。
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