英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

女流棋士トップの棋力 【補足あり】

2011-12-14 22:47:57 | 将棋
 昨日、「将棋雑感 各棋戦状況」という記事で、シゲさんからコメントをいただき、女流棋士トップの棋力の言及において不十分な点があったことに気づきました。

 まず、その記事でのコメントをご紹介します。

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初めてコメントします。「女流のトップは奨励会1級程度という見られかたをされるかもしれない。」とありますが、今の女流棋士が全員10代に戻って1級編入試験を受験したとしても、合格するのは簡単ではないというのが今回の結論です。今の奨励会1級女性の加藤さん、伊藤さん、里見さんが相手では皆さん強すぎて、たとえ清水六段でも2勝するのは容易でないでしょう。持ち時間1時間なので、早見えする人でないと厳しいようですが、如何ですか?
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 なるほどと思いました。私の記事は不正確、不十分でした。
 そこで、次のようなレスをしました。

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確かに仰る通りで、清水女流六段が女流のトップと考えるのならば、「奨励会1級以下」いえ、「1級未満」といった方が妥当だと思います。
 で、「女流棋士のトップ」という表現ですが、①第一人者のみを指すのか、②トップグループを構成する数人を指すのかで、若干変わってきます。
 ①清水女流をトップと位置づけるのは、現在タイトルを保持していない点から言うと不適当ですが、女流名人位戦A級リーグで2年連続全勝という点を考慮すると、トップ(トップグループの意味ではなくランク1位)に準ずる位置と言えばいいのでしょうか?
 まあ、世間的には清水女流がトップと考えるでしょうから、「1級未満」と表現すべきですね。
 ②トップグループという見方をすると、里見女流三冠の捉え方が問題になります。
 彼女をトップと見ると、現在奨励会1級で勝率がほぼ5割なので、女流のトップは「1級程度」でいいような気がします。
 しかし、奨励会に在籍するので、純粋な女流棋士と言えないとするならば、彼女を除外して考えないといけません。
 女流棋士のトップグループは奨励会の何級かについては、このコメントを含めて、新たな記事で述べたいと思いますが、現状の返答としては「奨励会1級以下」とさせてください。本文も訂正しました。
 持ち時間1時間では、加藤さん、伊藤さん、里見さん相手では厳しいと思います。
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 世間では、短絡的に清水女流六段=女流トップで、「女流トップが奨励会1級に破れた」=「女流棋士は奨励会1級より弱い」というふうに捉えるだろうなあと思い、表現や内容の吟味がゆるくなってしまいました。
 今日の記事では、個人の話ではなく、女流のトップグループの棋力について考えたいと思います。

 さて、里見女流三冠の奨励会での現状、加藤奨励会1級、伊藤奨励会1級の女流王座戦での成績などを考慮すると、上述のように「女流棋士のトップは奨励会1級以下」が妥当のように思います。
 しかし、「奨励会1級」の実力がよく分からない。単純に考えると、プロ棋士と認められる四段の4階級下の棋力ということになり、かなりの実力差があると思われるが、実際は段級の額面ほどの差はない。
 奨励会の段級は(プロ棋士もそうだが)相対的なもので、絶対的なものではない。1級者全員が高レベルでしかも微差で切磋琢磨している場合、お互いが星をつぶしあい、なかなか1級から抜け出すことが出来ない状況になっている場合だって考えられる。
 さらに、時代によってもその棋力は上下している。最近は羽生効果やインターネットなどによる情報の質・量の高レベル化による棋界全体の棋力がアップしたと言われている。当然、アマチュア、小学生、奨励会も棋力アップしている。その中で切磋琢磨している奨励会員、一方、四段クラスのC級2組やフリークラスに在籍する中堅棋士とでは額面通りの差があるとは思えない。
 このように書くと、新四段は簡単に中堅、ベテラン棋士に勝って、順位戦で好成績を上げられるかというと、そう甘いものではない。今まで短時間の将棋しか指しておらず、順位戦の長時間の持ち時間と独特な雰囲気、そしてベテラン棋士の老獪な差し回しに翻弄される新四段も少なくない。
 それはともかく、奨励会1級は時代や奨励会全体の棋力の分布状況で変動的であり、また、世間一般が考えるより遥かにレベルが高いと言える。

 以上のことを頭において、女流棋士トップの棋力はどのくらいかを検証してみたい。
①元奨励会員の女流棋士での考察
 矢内女流四段は奨励会を2級で退会しているが(2001年1月)、当時は奨励会と女流棋士の両立が認められていて、女流棋戦でも活躍している。ウィキペディアによると1998年2級に昇級しているが、それ以前の1995年10月に女流王位戦で清水市代に挑戦するが、0-3で敗れている。また、1997年10月に女流王位戦で清水市代を相手にフルセットを制し、初タイトル獲得している。翌年、清水相手に防衛失敗。その後も退会するまで、2度倉敷藤花戦で清水に挑んだが、いずれも0-2で敗れている。
 矢内女流を物差しとすると、女流トップ(この場合は清水女流)は当時の奨励会2級以上となる。

 甲斐智美女流王位の場合、途中から奨励会と女流の両立が認められず、1998年女流名人位B級でA級昇格の成績を上げたものの女流棋士を休会し、奨励会に6級で入会。2003年8月 、奨励会を2級で退会(最高位は1級)し、2010年4月にマイナビ女子オープンで矢内を下して女王位についている。
 甲斐女流の場合は、奨励会退会直後にはそれなりの成績は上げたが、女流のトップに居たとは言えず、退会後に地道に実力を伸ばしてきた印象だ。となると、奨励会2級より女流トップは上となる(当時において)。

 その他の奨励会経験者は中井女流六段、千葉女流四段、竹部女流三段がいるが、中井さんはだいぶ前なので(ごめんなさい)、今回は省略。竹部女流は奨励会の級位が不詳なので、今回は省略。千葉さんの場合、2005年に中井さんを降して女流王将位についていて、奨励会退会後かなりの時間を経過したが、7回目の挑戦で悲願達成ということなので、退会後、女流のトップに近い成績を上げていたと言える。

 以上から、過去の奨励会に在籍した女流棋士の実績からは、女流のトップは少なくとも当時の奨励会2級以上はあったということになる。

 【補足】
 岩根忍女流二段を失念していました。岩根さん、申し訳ありませんでした。
 岩根女流は1995年、奨励会に6級で入会し、2004年、奨励会を1級で退会している。2004年に女流1級でで女流プロに編入している。え?奨励会1級なのに女流1級?
 その後、2006年にきしろ杯で優勝しているが、奨励会1級に見合う活躍はしていない。女流棋戦独特の雰囲気…があるかどうかは不明だが、女流棋戦に馴染まなかったのかもしれない。あるいは、約10年在籍した奨励会を退会した傷が深かったせいかもしれない(想像です)。
 2009年になると、1月、きしろ杯で2度目の優勝を果たし、3月、マイナビ女子オープンの挑戦者となる(矢内女王に0-3で敗れる。タイトル戦第1局後出産し、日程をずらして第2局、第3局を行った)。
 2010年、 倉敷藤花戦で、里見香奈倉敷藤花に挑戦、惜しくも1-2で敗れる。
 NHKアナウンサーの妻(夫がどんな職業でも大変です、はい)として、二児の母として、棋士として大変な面もあるが、その実力を発揮しつつある。
 



②男性棋士との対戦成績
 将棋連盟のホームページ(記録のページ)によると、今年度の女流棋士の対男性棋士の成績は、5勝24敗、勝率.172。ちなみにアマチュアと男性棋士との対戦成績は3勝14敗で勝率.176であるので、女流トップはアマチュアトップと同レベルではないかと思われるが、そうではない。
 アマ棋士が男性棋士と対局する場合、新四段や若手棋士がほとんどで、女流棋士はそうでない棋士も含まれている。
 アマトップの棋力を計るのに適任の人物がいる。それは瀬川晶司四段で、氏は奨励会の三段まで上ったが、三段リーグには4年(8期)在籍したが、中位以下の成績にとどまり年齢制限で退会している。
 その後、アマチュア棋界で活躍し、アマ名人にもなっている。銀河戦などのアマプロ戦の活躍が目覚ましく(17勝6敗、勝率0.739……早指し戦で対局相手も少し……)、プロ編入試験の機会が与えられ、見事クリアして念願の棋士になっている。

 三段リーグで苦労した氏が、アマトップになったということは、アマトップは三段よりやや下と推定されるが、1人についての考察なので、信憑性に欠けるかもしれない。
 そこで、レーティングを算出しているサイト「将棋連盟 棋士別成績一覧」
「2011年度 棋士ランキング」によると、奨励会員(三段)は1501点で92位勝又清和六段と同点、アマチュアトップは1382点で133位の富岡英作八段(1395点)の下、女流棋士は1212点で158位(最下位)の武者野勝巳七段(1227点)の下となっている。
 トップは渡辺竜王・王座1907点、2位は羽生王位・棋聖1891点、3位3 広瀬七段 1809点、4位郷田九段1806点、5位佐藤九段1792点、6位豊島六段1789点、、7位丸山九段1780点、8位久保棋王・王将1770点、9位佐藤(天)六段1765点、10位深浦九段1752点。
 1900点付近が時代を背負う超一流棋士、1800点付近が九段格(トップ棋士)と考え、100点が1段差と単純に考えると、1700点八段、1600点七段、1500点六段、1400点五段、1300点四段、1200点三段となり、奨励会三段は六段、アマトップは五段弱、女流トップは三段に相当することになる。
 これを奨励会三段を基準にすると1500点が三段で、アマトップは二段弱、女流トップは奨励会1級となる。

 ということで、今回の結論として女流トップは奨励会1~2級とさせていただきます。
コメント (7)
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