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驚愕の▲5七玉である。しかし、「この局面では玉を上がるしかない。▲5八飛は△2七角、▲4五銀は△3三桂がある。また▲5五角は△同飛▲同歩△5六角。先手は3歩得なので局面を収めたいのだが、そうなると本譜の▲5七玉しかない。いかにも怖い形なので、ほかの棋士は▲3四銀と指さないだろう。ただ私はこれでどう悪くなるのかわからなかったのだ」(将棋世界)と佐藤九段は述べている。
佐藤九段にとって▲5七銀は当然の一手だった。数手前の▲3四銀と指せば必然の局面で、超速の▲4六銀と指す時には想定の局面、いや、事前の菅井流対策のテーマ図であったように思える。
▲5七玉に△6五角と打ち、▲4五角と打って5六の歩を守るのも予定。ここで後手がどう指すかが判らなかったそうだ。
ちなみに、▲4五角で▲5五角は△5六角▲同玉△5五飛▲同玉△6四角の王手飛車が掛かる。
また、控え室では▲4五角では▲6六玉があるのではないかと言われていた。以下△5六角ならば▲5三歩△同飛の後、▲5四歩△同飛▲5五歩の三連打や、▲3五角がありそうだと。
しかし、△5六角▲5三歩△同飛▲3五角△4四歩▲5四歩△同飛▲5五歩△同飛▲同玉△6七角成(参考1図)で、先手は飛車得だが、3つの駒が当たりになっていて収拾不能とのこと(将棋世界、佐藤九段自戦記)。
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実戦は▲4五角と▲5七玉の意を次いで5六の歩を守り、△7六角とこちらの歩を取らせ、▲3五歩(第3図)と角の動きを楽にする。
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第3図では後手からの手段が多く、流石の佐藤九段も不安に感じた局面だったらしい。中継サイトでは①△5五歩②△3三歩③△4二飛④△5四角と候補手が挙げられていた。
このうち②の△3三歩が、『週間将棋』で掘り下げられている。この△3三歩に対し、三者三様の手順が紹介されている。
佐藤九段は▲2三銀成△4二飛▲3六角△2三金▲2四歩(変化2図)の進行に不安を感じ、久保二冠は▲2三銀成△4二飛に▲3二銀成△4五飛▲3一成銀△6七角成▲同玉△4七飛成(変化3図)は駒損でよく判らないと述べている。
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さらに、副立会人の神谷七段が▲2三銀成に対し△4三金▲7八飛△5四金▲1八角△6五金の手順を提示。
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佐藤九段は「ちょっと自信がない」、久保二冠も「こうやるんだったか」とうなづいたとのこと。
確かに2三の成銀はそっぽの感が強く金を4三→5四→6五に働かす感覚は肯定できるが、対する先手の手段は他にありそうな気がする。それに変化4図自体、後手良しに疑問を感じる。
例えば、変化4図から▲7六飛△同金▲4三角(変化5図)と打つ手はないだろうか?
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△5三飛打が目につくが、▲2一角成△5六飛▲4八玉(変化6図)で
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先手が良さそう。後手は3一の銀や7六の金の始末と▲6四桂と打たれる傷もあり忙しい。
変化5図では△2六飛が手強い。▲4六歩と受けるのなら、そこで△2八飛成とする方が、単に△2八飛と打つより△1九龍の含みがあるだけ得であるし、変化6図路線で▲2一角成には△5六飛行と5二の飛車で行けるのが強みである。
それでも▲4六歩△2八飛成▲2一角成、あるいは、▲3八金(2八飛成の防ぎ)△5六飛行▲4八玉(▲6八玉)で指せると思う。
久保二冠は、第3図でじっと△6二金。久保二冠の将棋は捌きがクローズアップされるが、戦いの途中に自陣の手を入れる。緩むようであるが、こうすることによって強い華麗な捌きが可能になるのである。
捌いてくると構えていた佐藤九段も、ありがたいと思ったが、手を渡されてみると容易でない。長考後、▲7八金と整備する。ただ、△6二金と▲7八金の手の交換は先手が損をしたかもしれないと考えていた(後に△6九角が生じる)。
そういう心理状態、しかも難解な局面で久保二冠の封じ手になったので、その夜は眠れないのではと思ったが、自戦記では「緊張感がある戦いだったので疲れを感じていた。そのおかげか夜はぐっすり眠ることができた」そうだ。