脚本を担当した真野氏は、『相棒』は2作目の登場。
前回は
「右京さんの友達」(尾美としのりさんが、いい味を出していた)。
★今回のテーマ(見所・ねらい)
Ⅰ享のピンチ
身柄を確保しようとした被疑者・田無に、ビルから飛び降りられ、命を落としてしまうという事態を引き起こしてしまった享。ショックを受けた享は辞職届を右京に出す……。
ほとんど“助手”状態の享だったが、今回は存在の意味を持った回であった。
しかし、
恋人の悦子は慟哭のきっかけを与えただけで、フェードアウト。
右京の言葉も弱い。
「田無は死の直前の“俺、あきらめる訳にはいかねえんだぁ”…その言葉は何を意味しているのでしょう?
知る必要はあると思いませんか?田無がなぜ死ななければならなかったのか?」
クールというか優しいというか……
「君は“田無がなぜ死ななければならなかったのか?”を明らかにする義務があるのですよ」
と、もう少し強く言う気がするが…
享自身も、自らが起き上がるわけでなく、被疑者の墓参りをしていたら関係者と出会いなんとなく捜査をするという状況。
さらに、田無がビルから飛び降りたのは、享に追い詰められた為ではなく、娘(実は血の繋がりはなかった)の病気の為で、保険金を得ようと自ら飛び降りたのだった。
まあ、この真相は一応認めるとしても、
飛び降りたのは享のせいではない事が判明したら、≪よかった、よかった≫で≪やっぱり刑事続けます!≫では、軽すぎる!
まず、被疑者と接触するのはどうだったのか?捜査を進める上でも支障をきたす恐れがあるし、捜査の主観が入ってしまう(より詳細な事情を把握するという利点はある)。
そもそも、接触するきっかけが、自分と関係を持った女性に金銭を工面して渡した後、バイクのミラーに映った自分の顔を見て、≪何をやっているんだ!≫とキレて、ミラーを殴りバイクを蹴っ飛ばして、見かねた享が手当てをしたことである。
女から金をせしめた後、その行為に自己嫌悪に陥りキレるというのなら理解できるが、『娘の命を救う』ための金銭援助の直後にキレるのは不自然。また、田無が、育ちが良く趣味も洗練されている享に憧れるというのも、無理を感じた。
さらに、被疑者確保の際、「屋上に逃がし、応援を待たずに不用意に被疑者に近づき追い込んでしまった」というのは、反省材料であろう。
で、「人が死んでんだよ」と辞職を決意というのも短絡的である。
Ⅱ健全農園の裏
『農園を営み、社会から外れかけた青年に手を差し伸べているビッグママは、保険金殺人の元締めであった』……一般的には“驚くべき真実”であるが、御見通しの“相棒ファン”ファンは多いであろう。
そこで、脚本家も更にその奥を用意していたが……(この点については後述)
保険金殺人の手口を細かく突っつくとすれば、少量の毒物を何回も盛るという行為は、疑いをもたれずに夫が妻に行うのは困難なのではないだろうか。
それに、本人も「情が移るんだよ」と漏らしていた通り、自分を愛してくれる人を毎日裏切り続け、徐々に衰弱していくというのは耐えられないだろう。病院で原因が特定される可能性もある。
1回、2回(ひとりやふたり)ならともかく、若者が皆、ビッグママに従うというのも考えにくい。
右京たちの捜査については、農園の資金源を調べなかったのが不満。
Ⅲ一番の嘘つきは?
結果的に田無に貢がせていた女。
他の男とできた娘を、田無との子どもと偽り続け(田無が勝手に思い込んだ)、さらに貢がせるため、「娘が病気で2千万掛かる」と騙した。
田無は自分の命を懸けて保険金を女に残したという事実を告げた際、右京のプルプル(激昂)が出るのかと思ったら、レシートの件を持ち出し、田無の享への感情≪すごくいい奴だった≫を明らかにした。
享への弁護だろうが、このエピソードは要らない。
事件とは無関係な顔をして、田無から金をむしり取り、命まで奪ってしまった。しかも罪には問われない。この凶悪な女を糾弾(プルプル)無しで済ませてしまった。
「嘘と誤解にまみれた今回の事件でしたが、田無が父親としての子どもを思う父親の気持ちだけは真実だったようですねえ」
と、いい話でまとめたが、
「享の中途半端な慟哭と言い、この凶悪女をスルーしてしまった。脚本家の罪は大きいですよ!」(by 英)
そう言えば
「右京さんの友達」も、尾美としのりさんが、いい味を出していたが,その他登場人物の心情や行動はグダグダだった。、
評価できる点としては
「“優秀なご子息をお持ちで”とも言われたよ。ま、そんなことはどうでもいいか」と照れ隠しをする峯秋に対し
「いえ、親子ですから。何か言われるのは当然です」と答えたシーン。
間違っていたが田無の我が子?に対する愛を目の当たりにして、多少、頑なな享の心も解けてきたようだ。
「お帰りなさい」と右京が紅茶で乾杯するシーンは良かった。
この他にも、いろいろ
疑問がある。
1.小山美波の謎の行動
享が「田無とは“バイク知り合い”」と言った時、享が田無を追い詰めた刑事だと認知していた。大事な人を死に追いやった男が、「友だち」と偽ったら、普通、感情むき出しに怒る。
享の真意を掴む為であろうが、そこまで冷静な女性だとは思えない。
その後、享に年の離れた婚約者がいることを知らせ、農園にも連れて行く。
となると、現在の境遇から享に救って欲しいと思っていたように解釈した方がすっきりする。
しかし、その後、享をコンテナに閉じ込める。(お約束通り閉じ込められる享って…)
こうなると、
彼女はストーリーを進めるための道具だったとしか思えない。
ビッグママが美波を叱る(脅す)状況を視聴者に見せる役も務めている。
ラストで、美波がまじめに働いていて、ふたりに給仕しているシーンより、心配かけた悦子を安心させるシーンを入れるべきであろう。
紅茶のセージの効能の件(くだり)を右京を前に彼女に語らせたかったのと、享に「刑事なんて合わない方がいいよ」という台詞を言わせたかったのかもしれないが。
2.預言者・右京
「これ、大きな事件に発展するかもしれませんし、助っ人をを頼んでみたらどうでしょう」
この言葉、農園の存在を知らず、まだ単なる保険金殺人と見ていた時の言葉である。
3.預金残高の謎
田無の死亡時、預金残高が1200万円残っていたが、この金をなぜ手術費に当てなかったのだろうか?
【ストーリー】番組サイトより
享(成宮寛貴)は、悦子(真飛聖)から情報を得て、保険金殺人の疑いがある案件を単独捜査していた。被疑者は田無(米村亮太朗)という30代の男。彼は、4年前に20歳も年上の女性と結婚したが、2年後にその女性が急死し、巨額の保険金を受け取っていた。
田無をマークしていた享は、右京(水谷豊)の助言で捜査一課に応援を要請。身柄の確保に動くが、追い詰められた田無は、享の目の前で自殺してしまう。捜査に落ち度はなかったものの、ショックを受けた享は辞職を考える。
そんな中、田無の墓参りに訪れた享は、そこで彼の友人だという若い女性・美波(清水くるみ)と知り合う。享は美波に誘われ、若者たちを支援する団体へと向かうが…
保険金殺人の疑惑がかけられた若者と、その友人を名乗る女性、
警察を辞める決意を固めた享。そのとき右京は…!?
事件の先には、現代社会に潜む巨大な“闇”が広がっていた!
ゲスト:米村亮太朗 清水くるみ 阿知波悟美 藤井美加子
脚本:真野勝成
監督:和泉聖治