その1「えぇ~!藤井システムぅ?」の続きです。
決戦の準備万端な先手に対し、後手は1手半ぐらい遅れているような第9図。
図より羽生王座は△1五歩と突く。▲同歩とさせておけば、後に△1五飛の捌きを見た手筋の突き捨てである。
こういう突き捨ては悩ましいが、プロ棋士の場合、形勢に自信があれば取ることが多い気がする。受けに自信がある棋士も取ることが多いようだ。
本局の場合、上記の両方に当てはまり、1分の考慮で▲1五同歩と応じた。
しかし、桂を取られるのにあと2手必要で、△1七歩成と桂を取られても、それまでに成果(飛車の成り込みや銀を捕獲)を上げれば、充分お釣りがもらえそうだ。
具体的には、▲3四歩△4二角▲7七角が後手の飛角銀の形の悪さを咎めている。次に▲6五歩と突く手が非常に厳しく、後手の1筋攻めが全く間に合わない。
本譜は▲1五同歩に△3五銀と出来て、▲3四歩に△4四角とかわす手が間に合った。
と言っても、棋勢が好転したわけではなく、やはり▲4六歩(第10図)が厳しい。
△4六同歩は▲4五歩で角が取られてしまうので、△4六同銀▲同銀△同歩▲4五歩△3五角▲4四銀に△3七歩成と勝負する手が有力と見られていたが、△5四歩▲4五歩△5三角。一手費やした上、歩を取られつつ先手の歩が伸び、角が撤退する……涙が出そうな辛抱だが、△4六同銀と決戦に出るより勝機があると考えたのだろう。
また、第10図では、△5四銀と全軍上げて防戦に努める手もあるが、これ以上、陣形が上ずるのは危険と判断したのかもしれない。
さらに、▲6五歩(第11図)と糸谷八段は追撃の手を緩めない(先に▲7七角と上がって次に▲6五歩を狙うのも有力)。
第11図では、△1五香や△4二飛と動くても考えられたが、羽生三冠は△6五同歩と応じ、▲7七角に△1二飛とかわす。先手の言いなりのようにも見えるが、彼我の玉型の差もあり、捌き合いは避けたい。6五の歩は拠点になるし、6四かに角を出る手も可能にしている。また、△1二飛も先に突き捨てた△1五歩の意を継いでおり、自然体の対応とも言える。
続く▲3三歩成(第12図)では▲2二歩の方が良かったらしい。
次に▲2一歩成と桂を取って初めて一人前の▲2二歩(と金の位置も良くない)よりも、後手の左陣を支配すると金を作る▲3三歩成の方が自然のように感じる。しかし、▲3三歩成だと、本譜のように△6四角とされた時に、▲5五歩とすると△3三桂でせっかくのと金が外されてしまう。
それで、△6四角に糸谷八段は▲3四とと、と金を活用。
しかし、この手も自然に見えたが、良くなかった。
「その3」に続く
決戦の準備万端な先手に対し、後手は1手半ぐらい遅れているような第9図。
図より羽生王座は△1五歩と突く。▲同歩とさせておけば、後に△1五飛の捌きを見た手筋の突き捨てである。
こういう突き捨ては悩ましいが、プロ棋士の場合、形勢に自信があれば取ることが多い気がする。受けに自信がある棋士も取ることが多いようだ。
本局の場合、上記の両方に当てはまり、1分の考慮で▲1五同歩と応じた。
しかし、桂を取られるのにあと2手必要で、△1七歩成と桂を取られても、それまでに成果(飛車の成り込みや銀を捕獲)を上げれば、充分お釣りがもらえそうだ。
具体的には、▲3四歩△4二角▲7七角が後手の飛角銀の形の悪さを咎めている。次に▲6五歩と突く手が非常に厳しく、後手の1筋攻めが全く間に合わない。
本譜は▲1五同歩に△3五銀と出来て、▲3四歩に△4四角とかわす手が間に合った。
と言っても、棋勢が好転したわけではなく、やはり▲4六歩(第10図)が厳しい。
△4六同歩は▲4五歩で角が取られてしまうので、△4六同銀▲同銀△同歩▲4五歩△3五角▲4四銀に△3七歩成と勝負する手が有力と見られていたが、△5四歩▲4五歩△5三角。一手費やした上、歩を取られつつ先手の歩が伸び、角が撤退する……涙が出そうな辛抱だが、△4六同銀と決戦に出るより勝機があると考えたのだろう。
また、第10図では、△5四銀と全軍上げて防戦に努める手もあるが、これ以上、陣形が上ずるのは危険と判断したのかもしれない。
さらに、▲6五歩(第11図)と糸谷八段は追撃の手を緩めない(先に▲7七角と上がって次に▲6五歩を狙うのも有力)。
第11図では、△1五香や△4二飛と動くても考えられたが、羽生三冠は△6五同歩と応じ、▲7七角に△1二飛とかわす。先手の言いなりのようにも見えるが、彼我の玉型の差もあり、捌き合いは避けたい。6五の歩は拠点になるし、6四かに角を出る手も可能にしている。また、△1二飛も先に突き捨てた△1五歩の意を継いでおり、自然体の対応とも言える。
続く▲3三歩成(第12図)では▲2二歩の方が良かったらしい。
次に▲2一歩成と桂を取って初めて一人前の▲2二歩(と金の位置も良くない)よりも、後手の左陣を支配すると金を作る▲3三歩成の方が自然のように感じる。しかし、▲3三歩成だと、本譜のように△6四角とされた時に、▲5五歩とすると△3三桂でせっかくのと金が外されてしまう。
それで、△6四角に糸谷八段は▲3四とと、と金を活用。
しかし、この手も自然に見えたが、良くなかった。
「その3」に続く
『将棋世界』の記事の中で、私が一番感心したのは、「角交換した居飛車穴熊は弱い」という定理です。
正直言うと、私はピンときませんでしたが、綿密な研究と積み重ねた実戦での藤井九段が導き出したものなのでしょう。
おそらく心理なのだと思います。
しかし、凡人の私には「(居飛車穴熊に対して)角交換は振り飛車が得」という利を活かせるだけの、感覚と読みを持ち得ていないということなのでしょう。
ふつうに指したら不利になるのであたりまえなんですが。
レスが遅れて申し訳ありません。
「普通の手」というのは、侮れないと考えます。
良い時には、「普通の手」を指して勝てるのが理想的です。
悪い時には、「普通の手」では逆転できないように思いますし、実際にも「普通の手」では勝てないことも多いです。
ただ、耐えて「普通の手」を指し、形勢悪化をとどめるのも、有効な指し方で、強い人ほど「普通の手」で頑張るような気がします。
もちろん、気がつかない妙手や、泥沼に引き込む勝負手もあり、一概には言えませんが。
本局の場合、自然な手に見えた「▲3三歩成」や「▲3四と」が疑問手だったというのは、不運でした。