相変わらず時機を逸した記事です。
この将棋は、佐藤九段のA級陥落が決まった翌々日、しかも、上海での対局。順位戦は深夜まで指しての敗局で、精神的にも体力的にも非常にきつかったはずだ。
本局はそんなことを微塵も感じさせない内容だった。

御覧のように、角を中段に打ち合う縁台将棋のような序盤。
勢いはとどまらず、1図より△4二玉▲3八銀△5四角▲7八飛△7六角▲同飛△2八角と2図に進む。

さらに、▲5五角△3三桂▲7四歩△同歩▲8二角成△同銀▲1八飛△3九角(第3図)。

途中の▲7四歩までは実戦例があり(平成21年12月1日・棋聖戦、戸辺五段(当時)×北浜七段)、▲7四歩に対し△6二銀▲7三歩成△同銀▲同飛成△同桂▲同角成△5二飛▲9一馬△1九角成▲5五馬と進み、後手が勝っているそうだ。
本譜は飛車を1八に打ちつけ後手の打ち込んだ角を強引に召し取る。それは困ると、角を金の利きがある3九に放り込む。
第3図の右下部は相当な珍形で、縁台将棋そのものだ。
もちろん、二人の精密な読みが均衡を保っている。この後もこの2枚の角を巡る華々しい折衝が続き、第4図で局面は一段落する。この間も、いろいろな変化が内包されていて、面白い。(書くと長くなるし、佐藤九段の自戦記の受け売りにしかならないので、割愛します)

さて、ここでの佐藤九段の先手陣の評価が面白い。
「久保棋王は、飛車は1八にいるだけで役に立っていると考えていたようだ。普通は▲1六歩と突いて飛車を使おうとすると思うので、その感想にびっくり。
だが局後に考えてみたのだが、第4図の先手の陣形は1八の飛車が4九の金に代わった形、いわゆる片美濃囲いよりも寄せにくい気がする。本局、終盤で寄せの形をいろいろ考えたのだが、4九の金よりも1八に飛車がいる方が玉が遠いのだ。3八の銀を4九に引くと、1手で2手分の価値があるような感覚があった。久保棋王の感性に感心するとともに、将棋の奥深さを知った」
とある。
「へえ、そうなのかなあ?」というのが、私の感想だが、この局面の検証は後述するとして、まず、久保棋王、佐藤九段の将棋の感性の柔軟さに感心する。先入観にとらわれず、局面を常に探究心を持って考える。だから、未知の局面やねじりあいに強いのだ。
それはともかく、まず単純に4図と1八の飛車が4九の金に代わった形(片美濃)を比較すると、陣形としては片美濃の方が断然良いはず。
4図で1八の飛車を駒台に乗せ、金も持ち駒に加えたとして、自陣の強化の一着として、▲4九金と打つ人はいても、▲1八飛と打つ人はいない。相居飛車戦ならともかく、(玉が右側に移動する)振り飛車系において、自陣の1八に飛車がいる形は、相当な悪形。
それにもかかわらず、本局において、4図はお互いに自信のある局面でバランスが取れている。
1八飛型の先手の利点は
①二段飛車の守備力
「3八の銀を4九に引くと、1手で2手分の価値があるような感覚があった」と佐藤九段も述べているように、飛車の守備力は馬鹿にならない。4九に銀を引くと、飛車の利きが二段目を制するほどの力を発揮することがある。「1八に居るだけで働く」という久保棋王の主張も、こういった飛車の潜在的守備力を指しているのだろう。
「いるだけで働いている」という意味にはもうひとつある。
②相手に飛車がない
4図の駒割は、飛車対金と歩2枚、「2枚換えなら歩ともせよ」という格言があるが、単純に駒の価値だけ考えると飛車の方が高い。飛車で攻められないというのは、やはり大きい。ただ、その飛車がへき地にいる。その他の要素として、先手は歩切れだが、▲7四飛で解消できる。
やはり、4図は均衡していると考えられる。
1八飛の長所として、潜在的な守備力があると述べたが、短所もある。
1八に飛車がいるため、玉の逃げ場所が狭くなっている。変化5図は終盤の1変化。(いきなり変化「5」図なのは、気にしないでください)

図の△5八金は、先手玉を5八に呼んで、△6八とを王手になるようにさせる捨て駒。△5八金に▲同玉△6八と▲同玉△7七角▲5八玉△4三銀で後手勝ち。7七の角が3三に利いている。△5八金に▲3九玉なら、△4八金▲2八玉△3九角で詰んでしまう。逆に、飛車がいなければ、先手の勝ち。
このように、1八飛・3八銀が裏目に出る変化も内包している。後手としては、▲4九銀を指させないような攻め方をすればいい。
よって、佐藤九段の「いわゆる片美濃囲いよりも寄せにくい気がする」という感覚は、ある意味正しいが、総合的に判断すると、その考えには同意できない。
恐れ多いことを書いてしまいました。まあ、これはいつもの「揚げ足取り」のようなものです。将棋の内容は、非常に面白いものです。
この将棋は、佐藤九段のA級陥落が決まった翌々日、しかも、上海での対局。順位戦は深夜まで指しての敗局で、精神的にも体力的にも非常にきつかったはずだ。
本局はそんなことを微塵も感じさせない内容だった。

御覧のように、角を中段に打ち合う縁台将棋のような序盤。
勢いはとどまらず、1図より△4二玉▲3八銀△5四角▲7八飛△7六角▲同飛△2八角と2図に進む。

さらに、▲5五角△3三桂▲7四歩△同歩▲8二角成△同銀▲1八飛△3九角(第3図)。

途中の▲7四歩までは実戦例があり(平成21年12月1日・棋聖戦、戸辺五段(当時)×北浜七段)、▲7四歩に対し△6二銀▲7三歩成△同銀▲同飛成△同桂▲同角成△5二飛▲9一馬△1九角成▲5五馬と進み、後手が勝っているそうだ。
本譜は飛車を1八に打ちつけ後手の打ち込んだ角を強引に召し取る。それは困ると、角を金の利きがある3九に放り込む。
第3図の右下部は相当な珍形で、縁台将棋そのものだ。
もちろん、二人の精密な読みが均衡を保っている。この後もこの2枚の角を巡る華々しい折衝が続き、第4図で局面は一段落する。この間も、いろいろな変化が内包されていて、面白い。(書くと長くなるし、佐藤九段の自戦記の受け売りにしかならないので、割愛します)

さて、ここでの佐藤九段の先手陣の評価が面白い。
「久保棋王は、飛車は1八にいるだけで役に立っていると考えていたようだ。普通は▲1六歩と突いて飛車を使おうとすると思うので、その感想にびっくり。
だが局後に考えてみたのだが、第4図の先手の陣形は1八の飛車が4九の金に代わった形、いわゆる片美濃囲いよりも寄せにくい気がする。本局、終盤で寄せの形をいろいろ考えたのだが、4九の金よりも1八に飛車がいる方が玉が遠いのだ。3八の銀を4九に引くと、1手で2手分の価値があるような感覚があった。久保棋王の感性に感心するとともに、将棋の奥深さを知った」
とある。
「へえ、そうなのかなあ?」というのが、私の感想だが、この局面の検証は後述するとして、まず、久保棋王、佐藤九段の将棋の感性の柔軟さに感心する。先入観にとらわれず、局面を常に探究心を持って考える。だから、未知の局面やねじりあいに強いのだ。
それはともかく、まず単純に4図と1八の飛車が4九の金に代わった形(片美濃)を比較すると、陣形としては片美濃の方が断然良いはず。
4図で1八の飛車を駒台に乗せ、金も持ち駒に加えたとして、自陣の強化の一着として、▲4九金と打つ人はいても、▲1八飛と打つ人はいない。相居飛車戦ならともかく、(玉が右側に移動する)振り飛車系において、自陣の1八に飛車がいる形は、相当な悪形。
それにもかかわらず、本局において、4図はお互いに自信のある局面でバランスが取れている。
1八飛型の先手の利点は
①二段飛車の守備力
「3八の銀を4九に引くと、1手で2手分の価値があるような感覚があった」と佐藤九段も述べているように、飛車の守備力は馬鹿にならない。4九に銀を引くと、飛車の利きが二段目を制するほどの力を発揮することがある。「1八に居るだけで働く」という久保棋王の主張も、こういった飛車の潜在的守備力を指しているのだろう。
「いるだけで働いている」という意味にはもうひとつある。
②相手に飛車がない
4図の駒割は、飛車対金と歩2枚、「2枚換えなら歩ともせよ」という格言があるが、単純に駒の価値だけ考えると飛車の方が高い。飛車で攻められないというのは、やはり大きい。ただ、その飛車がへき地にいる。その他の要素として、先手は歩切れだが、▲7四飛で解消できる。
やはり、4図は均衡していると考えられる。
1八飛の長所として、潜在的な守備力があると述べたが、短所もある。
1八に飛車がいるため、玉の逃げ場所が狭くなっている。変化5図は終盤の1変化。(いきなり変化「5」図なのは、気にしないでください)

図の△5八金は、先手玉を5八に呼んで、△6八とを王手になるようにさせる捨て駒。△5八金に▲同玉△6八と▲同玉△7七角▲5八玉△4三銀で後手勝ち。7七の角が3三に利いている。△5八金に▲3九玉なら、△4八金▲2八玉△3九角で詰んでしまう。逆に、飛車がいなければ、先手の勝ち。
このように、1八飛・3八銀が裏目に出る変化も内包している。後手としては、▲4九銀を指させないような攻め方をすればいい。
よって、佐藤九段の「いわゆる片美濃囲いよりも寄せにくい気がする」という感覚は、ある意味正しいが、総合的に判断すると、その考えには同意できない。
恐れ多いことを書いてしまいました。まあ、これはいつもの「揚げ足取り」のようなものです。将棋の内容は、非常に面白いものです。
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