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60歳からの眼差し

人生の最終章へ、見る物聞くもの、今何を感じるのか綴って見ようと思う。

目的

2008年12月05日 08時18分32秒 | Weblog
1ヶ月ぶりでOさんに逢った。今回はJR鴬谷の駅前で飲むことにした。
離職してそろそろ半年になろうとしているが、相変わらず就職活動は全くやっていないそうだ。
失業保険も一応来年2月までは貰えるから、就職活動はその後に考えると言っている。
辞めた当初は今までの居場所、目的、自信など全てを失って自分がびっくりするほどにうろたえた。
しかしその後何ヶ月も経過すると、こういう状態に慣れてきてしまって、焦りもなくなってきたという。

とりたてて目的も義務的ものもない状態が続いているから、ほとんど外出する機会もなくなってきた。
さすがに家に閉じこもっているだけではまずいと思うから、1日1度は外に出るようにしていると言う。
毎週土曜日のパソコン教室。整体。土日の馬券場。何もない日も新宿の喫茶店へ行ってみる。
パソコン教室など、もう何ヶ月も通っているが、一向に覚えないし、覚えようとも思わないらしい。
行くたびに自分はこれを理解することは不可能だし、能力がないことを確認しているだけだという。
なぜ行くのか?、「今日はパソコン教室に行かなければ」と無理やり用事を作っているだけだと言う。

以前はどんなに会社に不満を持っていても「会社に行かねば」という義務感のようなものが働いた。
しかし今はやりたくなければ何にもやらないで済んでしまう。自堕落に過ごそうと思えば底がない。
何もしないと、どこまでも落ちていく恐怖感がある。だから金を使ってでも用事を作って置きたい。
「今日は買い物に行かなければ」「今日は整体に行かなければ」「今日はパソコン教室がある」
無理やり作った最低限の目的である。そうでもしないと自分が無くなってしまう気がすると言う。

Oさんが言う。
先日から世の中を騒がせている厚生次官宅連続襲撃事件の小泉容疑者、彼の人生は挫折の
連続で自分自身に生きる目的がなかったのだろう。だから子供時代の犬のことを持ち出し、
無理やり自分の目的を作り上げたのではないだろうかと思う。「犬の恨みを晴らす」という目的を。
そして彼はその目的のために周到な計画を立て実行に移した。だから彼には達成感はあっても
悔いはないのだろう。言ってみれば自分の目的が決まれば誰を殺してもよかったのではないのか。
人は生きていくための目的がなくなったら、生きている価値はないと思ってしまうものなのだろうか。
目的が見いだせない時、金を使ってでも、それが世間的に通用しなくっても、自分が生きていく
上で必須だと思い、強引にでも作り上げてしまうのかもしれない。

9時を過ぎ、飲み屋を出て2人で鴬谷の駅に向かった。
その時、何台もの消防車がサイレンを鳴らしながら鴬谷の坂を上がって駅の方へ向かって行った。
駅に着くと、小さなロータリーの周りに4、5台の消防車が停まり、赤いランプを点滅させていた。
周囲は大勢の消防員で騒然としている。続いて救急車が乗り入れてきた。
改札を入って通路の窓から下のプラットホームを眺めると、京浜東北線の列車の先頭部が右の
プラットホームの真ん中あたりで停まっていた。プラットホームを外れ止まっている電車の後続部の
お客さんが前の車両に移動しはじめ、プラットホームに接している車両の出口から降りはじめた。
「これは人身事故だね」と2人は顔を見合わせた。
何人もの隊員が線路に降りて、電車の下を点検している。「確認したぞ!」大きな声が聞こえる。
散らばっていた人が集り、反対側の車両のドアが開けられて、隊員が次々に線路に降り立った。

やがて、京浜東北のお客さんは大半が列車から降りて、反対のプラットホームに移って行った。
たぶん上野に戻り、東北線や高崎線に乗り換えるのだろう。我々は池袋新宿方面なので、
山手線に乗るために事故の列車が停まっているプラットホームへ降りて行った。
プラットホームでは前から6両目の列車の両方のドアはあけ放たれ、隊員が忙しく行き来している。
周りで10数人の乗客が心配げな表情で見守っている。その時警察官が見守る乗客に向かって
「どなたか、飛び込むところを目撃された人はいらっしゃいますか?」と言いながら周囲を見まわした。
「みられた人がいらっしゃいましたら、状況を話していただけませんか?」何度も声をかけて回った。
しかしだれも名乗り出る人はいない。
やがて山手線が動き出して列車がプラットホームに入ってきた。2人は列車に乗り込む。
山手線の乗客がぼそぼそと話している。「師走だから、飛び込みも多くなるのかもしれないね」
事故に巻き込まれた人がどんな人でどんな事情があったかはわからない。
しかし、その人もまた生きる「目的」を見失った人ではなかったのだろうかと思った。


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