中国政府が5000億元(約10兆円)の国債を発行し、国有大手銀行に公的資金を注入する。住宅価格は下落基調でデフレ圧力が強い中、不動産バブルの後始末を本格化させる。ただし、公式統計では不良債権残高は約3兆元(約60兆円)だが、実態は統計以上と推計され、国際機関は、「中国の隠れ債務は60兆元(約1200兆円)に達する」と推計。今回の規模は十分とは言い難い。日本も「失われた30年」を経験したが、本格的な景気回復に欠かせない要素は何か。
中国の全国人民代表大会で、李強首相が「本年の実質GDP(国内総生産)成長率目標を5%前後」と明言した。また、政府は5000億元(約10兆円)の国債を発行し、国有大手銀行に公的資金(資本)を注入する。
中国政府はようやく、公的資金を使って不動産関係の不良債権処理に着手し始めるようだ。それに伴い、3月5日の発表後、香港株式市場では不動産株が上昇した。今後、注視すべきは、中国経済の本格的な回復が進むかである。不良債権処理が進めば、経済が成長軌道に回帰する可能性はあるだろう。ただ、中国の不動産価格は依然として下落基調が続いている。不良債権の処理には時間がかかるだろう。2月の中国の消費者物価指数は前年同月比0.7%下落し、デフレ圧力は高まっている。
また、米国との貿易摩擦や、地方政府の財政悪化、自動車や鉄鋼に代表される過剰供給問題は簡単に解決できるものではない。人口減少や少子高齢化も、経済の重荷になる。AI(人工知能)分野など、明るい材料もあり一部投資家が中国株式への投資を再開する動きはあるものの、中国経済が本格的な回復するかはまだ不透明だ。 全人代において李強首相は経済を振り返り、2024年の目標(5%前後の経済成長率)を達成した要因として、貿易(純輸出)が増加し世界市場で中国企業のシェアが伸びたからと強調した。
一方で、足元の課題にも言及。米トランプ政権の対中制裁や関税引き上げを念頭に、多国間の貿易体制が困難になりつつあること、中国国内で個人消費は落ち込んでおり、景気回復の足取りは不安定との見解を示した。国民が就職難や収入の減少に直面していることにも触れた。
今後は、輸出の増加による外需頼みから、個人消費を中心に内需拡大を重視する方針に転換する。李首相は内需拡大の実現のため、対GDP比の財政赤字を前年から1ポイント引き上げて4%前後にするとした。財政赤字は1兆6000億元増加の、5兆6600億元(113兆円)にする。
また、期間10年超の超長期特別国債の発行を3000億元増やし、1兆3000億元(約26兆円)発行する。さらに、特別国債を5000億元(約10兆円)発行して、国有大手銀行に公的資金を注入する。地方政府の債券発行枠も拡大し、主にマンション在庫の買い取り件数を増やす。
政治活動報告におけるキーワードの登場数を見ると、「改革」「市場」「消費」が昨年に比べて増加している。3月6日には、中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁が、適切な金融緩和を実施し内需の下支えに取り組む姿勢を示した。
また、期間10年超の超長期特別国債の発行を3000億元増やし、1兆3000億元(約26兆円)発行する。さらに、特別国債を5000億元(約10兆円)発行して、国有大手銀行に公的資金を注入する。地方政府の債券発行枠も拡大し、主にマンション在庫の買い取り件数を増やす。今後は、国有大手行への公的資金注入がどれほどの効果を発揮するか。実際に、民間企業向け融資が増えれば、労働市場は安定化するだろう。そうなれば、消費者の節約志向を和らげ、デフレ圧力を低下させることが期待できる。
全人代では、量子計算技術やAI、次世代の高速通信システム(6G)、半導体などの先端分野を対象に産業補助金を拡充し、人材教育を強化する方針を示した。公的資金注入で銀行のリスク許容度が回復し、成長期待の高い分野に資金が再配分されると景気回復への期は高まる。
問題は、政府がいわゆる「灰色のサイ」(高い確率で大問題を引き起こすにもかかわらず軽視されがちな問題)である、債務問題を解決できるか否かだ。公式統計では23年末の不良債権残高は約3兆元(約60兆円)だった。中国の銀行では、不良債権への認定を先延ばしするケースが増えているようだ。近年は政府の指導の下、不良債権を証券化し販売する金融機関も増えているという。
ただ、不良債権の実態は統計以上に大きいとみられる。不動産分野だけで、不良債権残高は1兆ドル(約150兆円)を超えるとの試算もある。24年に中国政府は10兆元(約200兆円)の「隠れ債務」を、地方政府の管理下に置いた。しかし、IMF(国際通貨基金)は、「中国の隠れ債務は60兆元(約1200兆円)に達する」と推計している。今回の公的資金注入は内需拡大に必要な方策の一つであることは間違いないが、その規模は十分とは言い難い。
これまでの教訓として、大規模なバブルが崩壊すると、不良債権処理に加えて構造改革の重要性が高まることが挙げられる。規制緩和を推進し、成長が期待できる産業を育成することが、本格的な景気回復に欠かせない。わが国経済は不良債権処理と構造改革の両方が遅れ、「失われた30年」と呼ばれる長期停滞に陥った。
全人代で政府は、先端分野への支援拡充方針は示したが、人々の自由を容認する姿勢は示さなかった。国有大手行への公的資金注入が効果を発揮し、中国の景気が持ち直しに向かうか否かは、構造改革に取り組む姿勢が重要なカギを握っている。