ハーバードやイエール、プリンストンといった米有名大学の卒業生が、チャーリー・ギプル氏率いる金融助言会社に就職するのは難しい。
CGフィナンシャルグループ(アイオワ州ジョンストン)の最高経営責任者(CEO)であるギプル氏は、以前のように学歴に感心することはないと言う。同氏は米保険大手メットライフやオランダの金融機関INGグループで、バイスプレジデントとして多くの名門大出身者と働いたことがある。彼らは顧客の課題を現実世界の問題ではなく、教科書にあるケーススタディーのように扱うことが非常に多いと話す。
「今、私の右腕になる人間を雇うなら、アイビーリーグ(米北東部の名門8大学)出身者を採用する可能性はゼロだ」。こう話すギプル氏はノーザン・アイオワ大卒で、現在アドバイザー約500人のネットワークを運営している。
名門大学の学位はこれまで就職に有利に働いていたが、今はその価値が疑問視されたり、就職希望者の足を引っ張ったりすることがある。
極端な例では、就職の資格が奪われている。連邦判事13人は5月、コロンビア大のキャンパスで行われたガザ反戦デモへの大学の対応を理由に、同大法科大学院の今秋の入学者を法務助手として採用しないとする書簡に署名した。同大広報担当者は、書簡の公表時に大学が発表した声明を参照するよう語った。同大はその声明の中で、法科大学院の卒業生は「民間、公的部門の主要な雇用主に常に求められている。裁判所も例外ではない」と述べている。
アイビーリーグや、スタンフォード大やデューク大、シカゴ大などのエリート校出身者は、母校を「ウォーク(人種差別など社会的不公正の問題に高い意識を持つこと)」、エリート主義だと評する嫌味なコメントには慣れていると言うことが多くなった。
昨年に連邦最高裁判所で審議された訴訟で名門大の入学者選考の仕組みが明らかにされ、選考時に人種を考慮するアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)が違憲と判断されてから、名門大の卒業生への懐疑的な見方が強まった。訴訟で示された証拠によると、ハーバード大への入学を許可された白人志願者の43%が、スカウトされたスポーツ選手か、卒業生や寄付者、教授陣、スタッフの子どもだった。
リグ・ウェルス・マネジメント(テキサス州ダラス)のブライアン・マーク・リグ社長(53)は、自身のアイビーリーグの学位はかつて、顧客や同僚から尊敬されていたと話す。
「イエール大卒は至るところで門戸が開かれた」とリグ氏は話す。
現在、リグ氏の出身大学を知った人の反応はまちまちだという。キャンパスで行われている多様性や公平、インクルージョン(包摂)の取り組みは、リグ氏の目には行き過ぎのように見える。ユダヤ系のリグ氏は、学生時代に反ユダヤ主義を全く感じたことはなかったという。一方で、同氏はパレスチナ自治区ガザでのイスラエルの行いに反対するキャンパス内での抗議活を挙げ、反ユダヤ的偏見がトップレベルの大学の大きな問題だと考えている。
一流大学に対する見方が米国で変化していることは大統領選の遊説にはっきりと表れていた。アイビーリーグの一角を占めるペンシルベニア大の学位を持つドナルド・トランプ次期大統領が副大統領候補に選んだJD・バンス上院議員(オハイオ州)は、自身がイエール・ロースクールの卒業生であるにもかかわらず、難関校を激しく批判した。
名門大以外で才能を発掘
カレン・バーマン氏は労働者階級の家庭で育ち、高校時代に父親を亡くした。その後、ハーバード大で学士号を、ペンシルベニア大ウォートンスクールで経営学修士号(MBA)を取得した。バーマン氏にとってアイビーリーグの学歴は忍耐を意味するという。
非営利のコンサルタントであるバーマン氏は、母校の学生が言論の自由度ランキングでいつも最下位近くに位置するキャンパスで、批判的思考のスキルを磨いているか懸念を募らせている。先月のハーバード大の内部報告書によると、教授や学生の約半数が物議をかもすような問題について自分の見解を表明することを恐れている。
バーマン氏は、開かれた対話と礼儀正しい議論が失われたことで自身の学歴の輝きが多少損なわれているように感じていると話す。
「私はどうすればいい? 履歴書から(名門大学の学歴を)外す?」。卒業生でありながら大学を批判することについて感想を聞くと、バーマン氏は質問でこう返した。筆者は答えを求めて質問したわけではなかった。というのも率直に言えば、有名大学の卒業証書は一般的に利点が欠点を上回っているからだ。
その証拠に、急成長する入学支援市場を見てほしい。大学入学支援サービスは年間で数万ドルの費用がかかることもある。ヘッジファンドを率いる富豪のビル・アックマン氏のようにアイビーリーグを手厳しく批判する人でさえ、卒業生のネットワークの価値を認めており、一流の銀行やコンサルティング会社はターゲットとする大学の卒業生を引き続き高く評価している。
ベイン・アンド・カンパニーのコンサルタント採用責任者、キース・ベバンズ氏によると、同社はまだ「常連」の大学から人材を採用しているが、こうした大学出身の新規採用者の割合は縮小している。
理由の一つに、こうした数十の名門大学がベインの人員ニーズのペースに遅れずに質の高い卒業生を十分に生み出していないことがある。同社はまた、面接担当者が就職希望者の所属大学を知らない状態で行うズームでの面接を始めたという。
「就職希望者は純粋に、特定のキャンパスで何人採用するという私の先入観ではなく、面接の出来で判断される」とベバンズ氏は話した。
マッキンゼー・アンド・カンパニーは問題解決ゲームを使って、スキルが学歴に見合わない就職希望者をふるい落とし、過去に見落としていたかもしれない才能のある人物を見いだそうとしている。同社が最近採用したビジネスアナリストの中には、規模の小さいグリネル大や、志願者のほぼ半数が入学を許可されるサンタクララ大の卒業生が含まれている。
マッキンゼーの採用担当共同責任者を務めるパートナーのブレア・シエシル氏によると、採用の対象が広がったのは、一部のエリート校が成績や大学進学適性試験(SAT)の点数を重視しなくなったせいもある。成績が水増しされれば名門大学で成績評価の平均が高くても、これまでほどの意味はないと同氏は言う(例えばイエール大の報告書によると、近年、同大学部生に与えられた評価の約8割はAかAマイナスだった)。多くのトップレベルの大学が志願者に標準試験の点数の提出を義務付けなくなっており、マッキンゼーは採用を決定する際に考慮してきたデータが得られないことがある。
ニューヨークの不動産専門弁護士、アダム・ライトマン・ベイリー氏はゲームを使うまでもなく、最近のアイビーリーグ卒業生の採用を拒否している。彼らの多くが才能や根性ではなくコネでやってきていることが最大の理由だ。
ベイリー氏は、ハーバードやイエールなど一部のトップレベルのロースクールは学生に順位を付けたり、A、B、Cといった成績をつけたりしていないと指摘する。シラキュース大で法律の学位を取得したベイリー氏は、名門大学ほど名前が知られていない大学でトップに上り詰めた人をアソシエイトとして採用するほうがいいと言う。競争することで法的な争いへの備えができると考えているからだ。
「大統領やリーダー、偉大な思想家を生み出すハーバードやイエールのような極めて優れた学校があることは素晴らしいことだ」とベイリー氏。「しかし私はそれで生計を立てているわけではないし、私が必要としているタイプの弁護士ではない」一流大卒=成功者ではない。本来、あるべき世界が始まったのでしょう。