衆議院の東京15区、島根1区、長崎3区の3つの補欠選挙が昨日行われました。東京15区・酒井菜摘氏、島根1区・亀井亜希子氏、長崎3区・山田勝彦氏で、立民候補が全員当選。東京15区 の選挙結果は立憲民主党酒井若菜氏の勝利。
この結果は岸田総理大臣の今後の政権運営や衆議院の解散戦略に影響を与えることが予想されます。
国政選挙では支持政党なしの無党派層が増えてきた。無党派層にとっては、どの政党が政権をとろうと、基本的に自分たちの利害には関係しない。そうなると、無党派層は、そのとき吹いている風に従って投票し、目新しい政党や勢力が台頭すれば、それに乗る。
ただ、次第に風も吹きにくくなっている。少なくとも東京15区では、新しい政党、新しい勢力が圧倒的な勢いで議席を占める状況にはなっていなかった。有権者は新たな政党が生まれ、一定程度の当選者が出ても、そこには有能な政治家が集まってくることはなく、すぐに失速することを誰もが知ってしまったからである。
しがらみの強い政党も、しがらみのないことを売り物にする政党も、ともに壁に突き当たっている。
政権の座にある自民党と公明党が、連立を組んで4半世紀が過ぎるあいだに、すっかりその力を失ってしまった。
1999年に両党が連立を組んだのは、当時自民党と連立を組んでいた自由党の小沢一郎の仲介によるものだった。なぜ連立を組んだのか。それは、自民党も公明党も生き残りをはかるためだった。
まず公明党の方だが、1994年の公職選挙法改正によって衆院選に小選挙区比例代表並立制が導入されたことが決定的だった。この制度の導入に熱心だったのが小沢だが、最初の選挙となった1996年の衆院選の時点では、公明党は新進党に加わっていた。ところが、新進党は1997年末に解党してしまい、公明党がふたたび結党された。
小選挙区において公明党が単独で当選者を出すのは至難の業である。そこで、公明党は自民党と連立することを選択した。連立によって、一部の小選挙区で、自民党が候補者を立てるのを遠慮してもらい、それで当選者を出してきたのである。
一方、自民党にとっては、連立を組まなければ、政権から滑り落ちる危機に直面していた。すでに1993年には非自民・非共産の細川護熙政権が誕生し、自民党は下野した経験があった。そのときもそうだが、新進党が躍進する際に、公明党の支持母体である創価学会が票田としていかに絶大な力を発揮するかが明らかになった。
戦後の日本政治は55年体制と呼ばれるが、自民党と社会党が拮抗してきたのは、自民党が農協や医師会、遺族会などを支持団体としてきたのに対して、社会党が総評に結集した労働組合に支えられてきたからである。両党の政策は支持母体の利害と深くかかわっていた。その分、支持団体は両党の選挙を熱心に支えたのである。
時代が変化することで、どちらの政党の支持団体も力を失っていった。遺族会に結集したのは戦没者の遺族で、そこには恩給の問題が関係しており、絶大な政治力を発揮した。靖国神社国家護持の運動が盛り上がりをみせたのも、遺族会の力が強かったからである。
支持母体が軒並み弱体化していく状況のなかで、自民党は、その代わりを創価学会に求めた。創価学会の会員数は、人口の2から3パーセント程度で、それでは国政選挙に多大な影響を与えることはないようにも思える。
しかし、創価学会の会員は、いざ選挙となると、会員以外の人間に対して熱心にアプローチし、票を増やしていく。実際、連立後になるが、2005年の衆院選比例区では898万票も稼ぎ出した。創価学会の集票能力が、連立政権を支えてきたのである。
創価学会の会員が急激に増えたのは1950年代半ばからの高度経済成長の時代で、70年代に入るまでのことだった。かなりの程度、子どもや孫に信仰を受け継がせることに成功したものの、高度経済成長の時代に会員になった人間たちは高齢化し、亡くなる会員も増えてきた。近年において公明党の勢力が衰えているのは、まさにそのためで、次の衆院選で600万票を下回っても不思議ではない。
自民党で金の問題が噴出するのも、支持母体が衰え、それぞれの議員が、これまで以上に自前で金を稼ぎ出さなければならなくなったからだろう。それは、公明党議員にも言える。公明党にとっては、自民党の裏金問題は厄介である。再三苦言を呈しているが、裏金をもらった自民党の議員を推薦することを、創価学会の会員たちは果たして許すだろうか。東京15区で、自民党が候補者を立てられなかったのも、それが関係している。
こうした背景があるがゆえに、最近の自民党と公明党の関係はかなりぎくしゃくしている。それでも、連立を解消できないのは、解消すれば、両党とも政権の座から滑り落ちる可能性が高いからである。
自民党には、公明党との連立を解消し、国民民主党や維新の会と連立を組むことができるともされ、その方向への動きも起きている。しかし、国民民主党では多くの票を見込めない。
維新の会は、大阪の財界が実質的な支持団体になっているが、全国的に見れば、特定の支持母体は存在しない。この党の支持者は、維新の会が特定の支持団体とのしがらみがないところに魅力を感じている。そうした政党が、未だに多くの支持団体とのしがらみを持つ自民党と連立を組んだとしたら、一挙に支持を失う可能性が高い。
すでに維新の会は、大阪万博やカジノ構想でつまずきを見せている。それも大阪の財界との利害関係が、支持者に受け入れられなくなってきたからではないだろうか。
東京15区に候補者を立てたNHKから国民を守る党、参政党、つばさの党、日本保守党は、いずれも特定の支持団体を持っていない。そこに無党派層が魅力を感じているわけだが、支持団体を持たない浮動票頼みでは、票を増やすことに限界がある。
立憲民主党は、連合などの労働組合が支持団体になっている。ただ、労働組合の組織力も落ちており、それが立憲民主党がかつての社会党や民主党に及ばない原因になっている。
支持団体が力を失ったことで、無党派層が増えてきた。無党派層にとっては、どの政党が政権をとろうと、基本的に自分たちの利害には関係しない。そうなると、無党派層は、そのとき吹いている風に従って投票し、目新しい政党や勢力が台頭すれば、それに乗る。
ただ、次第に風も吹きにくくなっている。少なくとも東京15区では、新しい政党、新しい勢力が圧倒的な勢いで議席を占める状況にはなっていない。新たな政党が生まれ、一定程度の当選者が出ても、そこには有能な政治家が集まってくることはなく、すぐに失速することを誰もが知ってしまったからである。
しがらみの強い政党も、しがらみのないことを売り物にする政党も、ともに壁に突き当たっている。こうした状況は、これからさらに進行していくことだろう。そうなれば、政治はますます流動化し、安定しなくなっていくだろう。