「老後親子破綻」シニアが急増しています。政府はサザエさんから目覚め、「バラ色の三世代同居」だけを喧伝して夢物語のような「幸せのかたち」を押しつけるのではなく、こうした厳しい現実に目を向けなければならない。お弁当を買う余裕がなくまともな食事が取れていないシニアが大勢いるなんてバブルを体験した筆者には、俄かに信じられませんが、現実です。生活保護を受けなければならない下流ど真ん中にいるにも係わらず、自身をいまだに中流だと思い込んでいる認識の甘いシニアが多すぎる。支える子供も安易に老親にしがみつくのではなく、負の連鎖を断ち切る世の中のシステムを知るべきでしょう。
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親のために介護離職は「年間10万人超」、親と同居する壮年失業者は「9.1%に急増中」、高くなるばかりの「生活保護受給のハードル」──これはもう自分だけで解決できる状況ではない。「認知症の親」「介護離職でローン地獄」「パラサイト息子&娘」、そして「孫リスク」。生活保護も受けられずに「四世代下流転落」は誰にでも起こり得る。
老後破産や下流老人に陥る危険性には、自分ではどうすることもできない要因がある。その最大のリスクが、「親と子」である。親の介護と子供の世話を同時にするダブルショックで“破綻”に追い込まれるシニア世代が続出している。
「サザエさん一家」は幻想
「親と子」の問題から「老後破産」に焦点を当てて話題を呼んでいるのがNHKスペシャル取材班の『老後親子破産』だ。
昨年8月に放送されたNHKスペシャル『親子共倒れを防げ』をベースに書籍化したものだ。
「放送直後から『明日をどう生きるか考えさせられた』『どうすれば防げるかさらに伝えてほしい』といった反応が多くの視聴者から寄せられた」(NHK広報局)
「発売1週間で重版がかかりました。子育て中の40代男性から、『この先、何が起こるかわからない怖さを感じた』とのハガキをいただきました」(出版元・講談社の担当編集者)
作中では高齢の親世代の介護や、収入が不安定な子供世代によるパラサイト同居により、シニア世代に危機が訪れると警鐘を鳴らしている。
同書ではそれぞれ別々のケースとして紹介される「親と子」の問題だが、「最も怖いのはそれが同時に襲ってくること」と指摘するのは、淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博氏だ。
「高齢の親の介護と困窮する子供世代のケアが重なる『ダブルケア』に直面する人が50~60代を中心に増えています。親と子の板挟みになって心身ともに疲弊することが多く、最悪の場合は三世代揃って“共倒れ”になる危機が迫っているのです」
安倍政権は「一億総活躍社会」の実現を目指し、三世代が同居する住宅の建設を支援する方針を打ち出している。同居に必要な住居の改修を行なえば所得税や相続税を減額し、子を育てる親がその親世代と一緒に暮らすことを積極的に推奨している。
まるでサザエさん一家のような「幸せな家族のかたち」だが、現実はそんなに甘くない。結城教授が指摘するように、三世代同居は「老後親子破綻」の大きなリスクを孕んでいる。
認知症の親のために離職したものの…
まずは親との同居リスクから見ていこう。
「親の介護」によって、離職を余儀なくされるケースが急増している。みずほ総合研究所のレポート(2012年)によると、毎年10万人以上が介護のために仕事を辞めている。中心は40~50代の働き盛りだが、介護離職した後の再就職は難しい。
大手メーカーに勤務していた千葉県在住のA氏(54)は、父親(82)が脳梗塞で倒れたことを機に離職を決意した。
「父と同居する母は体が弱く、自分の世話で精一杯です。介護サービスにも限度があり、年老いた両親のために何ができるか考えていたところ、会社が早期退職を募ったので応募しました。私は知的財産に関する専門知識があったので再就職は容易と考え、失業保険と退職金で当座をしのごうとしたんです」
だが、その計画はすぐに“下方修正”を迫られた。A氏は父の介護と両立できる仕事を探したが、年齢がネックになり大半は書類選考の段階で落とされた。ようやく面接にこぎつけても「父を介護している」と明かすと断わられてしまったという。
こうしたケースは枚挙に暇がない。NPO法人「パオッコ」理事長で介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子氏は「なかでも最悪のケースがある」という。
「介護について多くの相談を受けますが、最も深刻なのは、親が認知症になっているケースです。徘徊などの目を離すと危ない症状が出ている場合は、親の近くで生活しなければならないため、介護離職を迫られるケースが多い」
しかも、老親の介護のために離職する世代は、自らの住宅ローンを残しているケースが少なくないため、“ローン地獄”に陥る危険が隣り合わせだ。
「お見合い? 面倒くさい」
次に子供との同居リスクである。「子供と一緒に住めば、金銭的に助けてくれるのでは?」と思うかもしれないが、現実にはその逆で、いつまでたっても独り立ちできない息子や娘の世話に悩む親が増えているのだ。
総務省の調査では、「親と同居の壮年未婚者(35~44歳)」は12年に300万人を突破し、そのうち失業者の割合は10.4%を占める。同世代の既婚者や親と同居していない層に比べて、失業率は倍以上だ。
都内に住むB氏(58)は、定年直前のリストラで退職し、月額およそ18万円の失業給付と同居する両親が受給するわずかな年金で暮らしている。生活はカツカツ。そこに新たな心配が加わりそうだという。
「運送業をしている30代の息子もリストラに遭ったんです。息子は、『家賃が払えなくなるから実家に戻りたい』と話しているが、ただでさえ家計が苦しいところに食い扶持が増えることを考えるとお先真っ暗です。老後は息子が助けてくれると思っていたのですが……」
こうした親と子、それぞれとの同居リスクが同時に襲いかかるのが、「三世代同居」の危険性なのだ。親と子の板挟みで共倒れ寸前の状態になっている人たちの悲鳴が聞こえてくる。
都内在住のC氏(72)は、高齢の母親を施設に入居させ、夫婦で年金暮らしをしていた。
「ところが昨年、36歳の息子が非正規社員として働いた清掃業をクビになり、精神的ショックでうつ病を発症した。独身で身の寄せ場がなく実家で預かることになったが、息子は再就職先を探すこともできず、家でゴロゴロするだけ。夫婦合わせて月12万円の年金で親子3人が暮らすのは厳しく、高齢の母が病気にでもなって医療費がかさんだ時のことを考えると、不安で仕方がありません」
神奈川県在住のD氏(58)は地方に住む老親を家に呼んだ。「子供が就職して独立するから、空いた部屋に親を住まわせて面倒を見るという計画だったが、いつまでも結婚しない娘のパラサイト化によって、意図せず三世代同居してしまったという。
「石川県の実家に単身で暮らしていた85歳の母親が腰を悪くしたので、東京の家に呼んだんです。最期くらいは看取ってあげたいという思いがありました。
ところが、『就職したら1人暮らしをする』と言って出て行った娘が、『家賃がもったいないから』と実家に帰ってきてしまった。『女性は20代で結婚』という古い考えを持つ母は、孫娘の将来を心配しています…」
かねてから男性の未婚率上昇は社会問題として指摘されてきたが、最近はこうした「行き遅れ娘」も増えている。30~34歳女性の未婚率はこの20年間で13.9%(1990年)から34.5%(10年)まで上昇した。親側にも「未婚の娘は親元に置いておきたい」という心情もあるだろうが、そうなれば家計負担増は避けられない。
三世代同居の鹿児島県在住のE氏(72)に話を聞くと、寝たきりの義母の介護は「子供として当然のこと」と受け止めているが、同居する娘の話になると、途端に顔が曇る。
「34歳になる娘は、妻が見合いを勧めても『面倒くさい』の一点張り。娘は家にお金も入れず、私たちは老後貯金を切り崩して生活している。ほぼ寝たきり状態の義母も同居しているので負担は大きい。早く独立してほしいです」
高齢の親を抱えながら、パラサイト化する子供たちの面倒を見なければならないという「ダブルケア」に直面する人は少なくない。
生活保護を打ち切られて“最下流”に
親子同居には、最低限の生活が立ち行かなくなったときに受けられるはずの国の補助が受けられなくなるという「落とし穴」もある。
前掲書『老後親子破産』には、体の悪い父のために、息子が同居を始めたことによって生活保護が打ち切られてしまったケースが紹介されている。
北海道に住む50代男性は失職して収入がなくなった後、年金と生活保護で暮らす80代の父親を頼り、同居を開始した。
だが、親子同居を始めると「生活保護を廃止する」という自治体からの通知書が届いた。息子の日雇いアルバイトの仕事が多かった月に稼いだ収入が「世帯収入」として計上され、「生活保護支給の必要なし」と判断されたのだ。しかし安定しない日雇いバイト生活では、生活保護カット分の穴埋めはできない。親子の預金残高は312円になり、夕食はそれぞれ食パン1枚という生活まで“転落”した。
この親子が住む札幌市厚別区の担当課長が「一般論」とした上で説明する。
「一般的に世帯の収入が生活保護水準として国が定める最低生活費を上回ると、自立した暮らしが可能とみなされて生活保護の支給ができなくなります」
生活保護の廃止は単なる受給の停止にとどまらず、それまで免除されていた毎月2万円の市営住宅家賃や医療費を支払う義務も生じることになったという。