ドットコムバブル全盛であった1990年代後半、バフェットはドットコム企業などに一切投資をせずに、静観を決め込んだ。
バフェットがドットコム企業に投資しなかったのは、「バフェットの警鐘『ヘビの油売りに気をつけよ』の意味~投資で成功するためには『自分の範囲』を見極めることだ」で述べたように(当時は)「IT・インターネットビジネスは『自分の範囲』ではない」と考えたことが大きな原因である。
だが、その頃のメディアは「バフェットはITやインターネットが分からない時代遅れのポンコツだ」と散々揶揄した。
それに対してバフェットは、ドットコム企業の経営者・幹部も多数参加するある講演会で、一冊の分厚い資料を聴衆に見せながらこう語った。
「皆さん、私の手元にあるのは米国自動車産業黎明期に存在した自動車メーカーの一覧表です。この無数の『新興』自動車メーカーの数が現在いくつになっているかご存じですよね?そう、たったの三つです(ビッグスリーのことを意味する)」と言い放ったのだ。
つまり、バフェットの前に居並ぶ聴衆たちが経営する「ドットコム企業」のほとんどは「いずれ消えてなくなりますよ……」と言ったのと同じことである。
バフェットと、彼らやメディアのどちらが正しかったのかは、その後ドットコム(IT)バブルが崩壊して明らかになった。
当時のバフェットは、ドットコム企業に投資をしなかっただけではなく、ドットコムバブルに引きずられ(「本質的価値」〈後述〉に対して)割高になっていたその他の米国企業への投資も避けていた。
バフェットは2003年にペトロチャイナへの投資を始めるまで、米国以外の(「自分の範囲外」である)海外への「本格的投資」は行っていなかった。したがって、米国で投資先が見つからなければ身動きが取れなかったといえる。
しかし、「身動きが取れなかった」バフェットが、その後の市場暴落
の際に、「潤沢な現金」で大きなチャンスを掴んだことは言うまでもない。
バフェットの「スタンバイ」=「潤沢な現金準備」という判断は、大きな果実をもたらした。
もちろん、この「潤沢な現金準備」というのは「言うは易く、行うは難し」の典型である。
現金と言っても預金や短期国債などすぐに現金化できる「金融商品」で運用するわけだが、それでも(特にバフェットの場合)株式で運用する利益にかなり見劣りする。
だから、運用効率だけで言えば、100%株式で保有するのが(特にバフェットの場合)最も効率的であり、そうしたいはずだ。しかし、バフェットは「現金準備の重要性」を繰り返し説く。
彼は、繰り返し「自分は未来予測ができない」と述べる。そして、「もし、出来るという人がいたら、私の目の前に連れてきてほしい」と続ける。
バフェットの言葉の真意は、
1.(人間心理に左右される)市場がどうなるかはわからない
2.しかし、優秀な企業を見つけることは可能だ
3.「備える」ことは可能である
にまとめることができる。
1の「市場は予測ができない」という点については、「投資で成功したければ基本は嘘を見抜くこと、そして『はずれ屋』が『買うな』という時こそ買うべき時だ」「ミスター・マーケット」=「マーケット君」の例えが分かりやすいであろう。
市場(価格)はまるで躁うつ病のように気分(投資家心理)で乱高下するから、「合理的予想」は困難である。これがバフェットが「私は未来を予想できない」という意味の本質である。
予想できなくても「投資で成功」できる
2の「優秀な企業」については、「市場価格」に対して、「神様・バフェットの投資が『ほぼ確実に成功する』のはなぜか…その明確な理由」「何回も見送るから耐えられる」で述べた「本質的価値」が鍵だ。
市場は「ミスター・マーケット」が支配する予測不能な領域だが、「企業の良し悪し」は勉強や研究を重ねればかなりわかってくる。バフェットの「投資家の仕事は、売買を始める前にほとんどすべてが終わっている」という言葉も、「(企業の)『本質的価値』をきちんと算定すれば、投資は成功したのも同然」ということを意味するのだ。
「市場価格」から、「投資で成功したければ基本は嘘を見抜くこと、そして『はずれ屋』が『買うな』という時こそ買うべき時だ」「安全余裕率」 を考慮した価格が、「本質的価値」を下回ったときに買えば、かなりの確度で成功できる。
ただし、この「本質的価値」の算定は、『分散投資を有難がるとは気が違っているとしか思えない』バフェットの過激な盟友チャーリー・マンガ―と、バフェットの間でも意見がしばしば食い違ったほど難しい。
したがって、不測の事態は常に起こりえるから「備え」は重要だ。もちろん、「ミスター・マーケット」がうつ状態になって、「投げ売り」を始めるのもいつかわからないから、そのためにも「備える」必要はある。
「備え」の中心は「現金」
「バフェット流は段取りがすべて。最高の仕事は何もしていないように見える。ポイントは『裏切った』のかどうか」「最高の仕事」は「何もしないように見える」ものだ。
バフェット流が誤解されやすいのも、外から見ると「株式を購入して何もしないで長期間保有しているだけ」のように感じられるからである。ある意味、表面的に見ればそれは正しい。
だが、すでに述べたようにバフェットは、「株式の売買を始める前に、膨大な量の勉強・研究」を行っている。
また、市場がバブルで加熱しているときも、バフェットは「ただ現金を持って何もしていない」ように見える。
だが、例えば野球のバッターが次のピッチャーの投球を待って打席に立っているとき、ほんとに「何もしていない」であろうか?あるいはボール球を見送った時、「何もしていない」であろうか?バットを振っているときだけが野球ではないのである。
いつ、ど真ん中ストライクがやってくるかわからないのだから、しっかりと投球されるボールの行方(その前の投球を始めようとするピッチャーの動きなど)を見極め、時折やってくる絶好球を打ち返すための「バット」と「集中力」は残しておくべきということだ。
バフェットは、現金準備の「必要最低限度」として運用資産の10%にしばしば言及するが、現在のバフェットの現金準備は2022年3月3日公開「『投資の神様』バフェットが、いま『手元の現金』を増やしている理由」以来、(運用資産全体の増加もあって)増え続け、Bloomberg 5月5日「バークシャーの手元資金、過去最高を更新-保険事業好調で増益」との状況だ。
現在のバフェットの現金準備の状況から考えると、米国市場は1960年代後半や1990年代後半に近い状態であると考えるべきであろう。
さらには、3月18日公開「今、目の前にある1989年のデジャヴ~上り調子の市場で損をする人々の生態とは」で述べたように、(日本市場ではなく)米国市場はまさに「バブルのピーク」にあると思える。
米国株暴落と日本市場
これまで述べてきたように、米国株暴落はそれほど遠い将来ではないと考えられる。
それでは、日本市場はどうであろうか? もちろん、(米国市場の暴落によって)一時的影響を受けるであろうが、「大原浩氏の逆説チャンネル>日本のすごさを知らないのは日本人だけ?30年間で日経平均が50万円に到達する可能性もある中で、これから日本を牽引するのは『老舗企業』」のように、長期的には力強い成長を遂げるであろう。
だが、注意すべきは日本の財政を中心とする「公共セクター」である。2021年8月3日公開「金利が上がれば日本も米国も『財政』が破綻する、その先に何が?」から4月18日公開「いよいよ金利上昇、日本の財政は崩壊するのか、『マイナンバー銀行口座紐づけ』の真の目的は?」に至る多数の記事で述べてきたように、年金や健康保険を含む日本の「財政」は崩壊の瀬戸際にある。
したがって、例えば、医療や介護を始めとする「税金(強制的保険料)で支えられている」産業の将来は非常に厳しい。
逆に、エネルギー効率がよく「日本品質」を提供できる製造業は期待できる。
IT産業は、セキュリティ関連などを除けば冬の時代になるであろう。また、インフレによって、衣食住への支出の比重が高まるから、相対的に支出が絞られると考えられる娯楽、教育などの分野は厳しい。
逆に厳しい冬を迎える米国でも、バフェットが投資するような企業は堅実な成長を遂げるであろう。
全体的に見れば、米国には「冬」、日本には「春」がやってくるわけだが、その景色は一色でないことに注意すべきだ。
最後に、バフェット流の真髄は『安く買って高く売る』これがわから無い人がほとんどだ。くれぐれも投資は、自己責任で行って下さい。