同じ日経のサイトで、タミフルを巡る記事がふたつ出た。ひとつはタミフルを販売している中外製薬の永山社長へのインタビュー、もうひとつは立花御大の記事。
「タミフル、販売やめない」
批判浴びても強気を崩さぬ中外製薬社長
自分は医学薬学のバックグラウンドがないので、ビジネス的な観点でこのインタビューを読んだ。
確かに、医学的に因果関係は立証されていない。その段階で、どのように自分の会社の製品やビジネスを守るか。これはビジネススクールの教材にもできるぐらい典型的な、ビジネスポリシーのケースだ。
そして、医薬品の場合は、開発段階で臨床試験を経ることによって安全性と有効性を確認した上で製造販売が承認されるのだが、限られた臨床試験では予測できない副作用が販売後に出ることがある。だから、副作用事例を収集し、必要な場合には投与に注意するように医師に周知する市販後調査活動が義務付けられている。
今回の異常行動についてはまだ公式には因果関係が確認されてはいない。しかし、10代の青少年が異常行動によって死亡するというショッキングな事例も含まれており、死亡例が出ているという点で対応に緊急を要するケースだ。
一方、立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」。
タミフルに隠された真実 第二の薬害エイズに発展か
立花御大の記事は、販売する会社よりも厚生省の対応に疑問を呈している。
こうした事例を見るにつけ、ビジネススクールの教材としてもよく取り上げられる、市販薬「タイレノール」を巡るジョンソン&ジョンソンの対応は見事だったと思う。「タイレノール事件」(リンク先はタイレノール製品サイトの「タイレノール事件」のページ)では、何者かによる毒物混入という犯罪に接して、ジョンソン&ジョンソンの経営陣は製品をすべて回収し、異物混入を防ぐためのパッケージに切り替えたのだ。ビジネス的にいえば一時的な費用負担は相当なものだったが、この経営陣の姿勢(その決定を支えたのは同社の経営理念を表す「クレド(我が信条)」だったという)は高く評価され、結果的にタイレノールという製品もジョンソン&ジョンソン社もイメージを上げることができた。
果たして、中外は今後この強気の姿勢で事態を押し切れるだろうか。
「タミフル、販売やめない」
批判浴びても強気を崩さぬ中外製薬社長
今年2月、愛知県と仙台市でインフルエンザ治療薬「タミフル」を服用した中学生がマンションから転落死した。事件の後、厚生労働省と販売元である中外製薬が厳しい批判にさらされている。タミフルの服用について警告を出したものの、転落死を招いた異常行動とタミフルの因果関係は認めていないからだ。
因果関係について調べている厚労省の調査班のメンバーが中外から寄付金を受け取っていたことが問題視されるなど、両者に対する非難は強まるばかりだ。
(中略)
薬害問題に詳しい東洋大学社会学部社会福祉学科の片平洌彦(きよひこ)教授は、「薬害エイズなど過去の大型薬害は、いずれも国や企業が因果関係を不明としている間に被害が拡大した。疑わしきは罰す姿勢で安全性が確保できるまでは使用を中止すべきだ」と主張する。だが、永山社長にその考えは全くない。
タミフルで治療すべき患者さんがいますし、それで助かっている人がはるかに多い。ほかの重い病気の薬でも使用した直後に患者が亡くなることは残念ながらあります。だからといって、それでその薬の使用をやめてしまうということはない。タミフルは非常に大事な薬です。様々な新型インフルエンザのことを考えると、きちんと育てていかなければならない。タミフルがないと大変なパニックになる恐れがありますから。
永山社長は2001年にスイス大手製薬会社ロシュの傘下入りを決め、製薬業界に衝撃を与えた。傘下入り後の4年間に経常利益を2倍に増やし、辣腕経営者として業界では一目置かれている。2006年12月期の連結決算は減収減益となったが、ロシュ製の抗ガン剤など複数の新薬の発売を控えており、当面の業績は安泰と言える。
しかし、2件の転落死事件をきっかけにして、タミフルの安全性についての疑念が膨らむとともに、人の生命に深くかかわる製薬企業としての中外に対する信頼も大きく揺らいだ。タミフルの販売を継続しながら、いかに信頼を回復していくのか。今後の対応が、試される。
自分は医学薬学のバックグラウンドがないので、ビジネス的な観点でこのインタビューを読んだ。
確かに、医学的に因果関係は立証されていない。その段階で、どのように自分の会社の製品やビジネスを守るか。これはビジネススクールの教材にもできるぐらい典型的な、ビジネスポリシーのケースだ。
そして、医薬品の場合は、開発段階で臨床試験を経ることによって安全性と有効性を確認した上で製造販売が承認されるのだが、限られた臨床試験では予測できない副作用が販売後に出ることがある。だから、副作用事例を収集し、必要な場合には投与に注意するように医師に周知する市販後調査活動が義務付けられている。
今回の異常行動についてはまだ公式には因果関係が確認されてはいない。しかし、10代の青少年が異常行動によって死亡するというショッキングな事例も含まれており、死亡例が出ているという点で対応に緊急を要するケースだ。
一方、立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」。
タミフルに隠された真実 第二の薬害エイズに発展か
タミフル服用による異常行動死問題で、厚生労働省の対応が急展開した。
タミフルによる異常行動死の問題は、2年前の05年11月から学会では報告されていた。その頃から、一部の医療関係者からその因果関係を強く疑う意見が公にされていたのに、厚労省はその因果関係をずっと否定しつづけてきた。
(中略)
タミフル服用による異常行動死問題で、厚生労働省の対応が急展開した。
タミフルによる異常行動死の問題は、2年前の05年11月から学会では報告されていた。その頃から、一部の医療関係者からその因果関係を強く疑う意見が公にされていたのに、厚労省はその因果関係をずっと否定しつづけてきた。
一般の報道を追っていただけの人は知らなかったろうが、厚労省のこのような方針大転換の背景には、インターネットの大きな働きがあった。
(中略)
これはタミフル脳症被害者の会が主張するように、明らかに薬害問題である。
厚労省は、早く予防的アクションを起こさないと、エイズ問題と血液製剤の問題のときのように、問題がもっと大きくなってから、その責任を大々的に問われることになるだろう。
おそらくなぜタミフルに異常に早い認可を与えたのか、認可するにあたって十分な審査をしたのかという根本問題にまでさかのぼっての責任が問われることになる。
なにしろ、医療ビジランスセンターのページを見ればすぐわかるように、この問題に関しては、2年も前から、繰り返し繰り返し、警告・要望が出されているのだ。
これまでの薬害問題で、厚生省が繰り返し使った逃げ口上、「知りませんでした」は全く通用しないのである。
立花御大の記事は、販売する会社よりも厚生省の対応に疑問を呈している。
こうした事例を見るにつけ、ビジネススクールの教材としてもよく取り上げられる、市販薬「タイレノール」を巡るジョンソン&ジョンソンの対応は見事だったと思う。「タイレノール事件」(リンク先はタイレノール製品サイトの「タイレノール事件」のページ)では、何者かによる毒物混入という犯罪に接して、ジョンソン&ジョンソンの経営陣は製品をすべて回収し、異物混入を防ぐためのパッケージに切り替えたのだ。ビジネス的にいえば一時的な費用負担は相当なものだったが、この経営陣の姿勢(その決定を支えたのは同社の経営理念を表す「クレド(我が信条)」だったという)は高く評価され、結果的にタイレノールという製品もジョンソン&ジョンソン社もイメージを上げることができた。
果たして、中外は今後この強気の姿勢で事態を押し切れるだろうか。