タイトル「小泉構造改革をどう生きるか」から「小泉」の二文字がなくなっている……と指摘するのは、重箱の隅ですね^^;。サイトのページのプロパティには「小泉」の二文字が残ってるんですが……って、ますます重箱の隅(爆)。
構造改革をどう生きるか
~成果主義・拝金主義を疑え!~ 森永卓郎
第55回
安倍「再チャレンジ」施策の真の狙い
安倍総理は、所信表明演説で次のように語っている。「新たな日本が目指すべきは、努力した人が報われ、勝ち組と負け組が固定化せず、働き方、学び方、暮らし方が多様で複線化している社会、すなわちチャンスにあふれ、誰でも再チャレンジが可能な社会です」。
これを正確に読み取れば、安倍総理の意図は理解できるだろう。安倍総理は、「負け組」を減らそうとは言っていない。はっきりと言っているのは「負け組」を固定しない世の中にするということだ。つまり、これからも「負け組」が出ることを前提として、「負け組」の人が「再チャレンジ」できる世の中にしようというわけである。
(中略)
再チャレンジ施策も同じことである。負け組がこれからも増え続けることを見込んでいるからこそ、安倍総理は再チャレンジを訴えているのである。もし、本当に負け組を減らして格差を縮小したいと思っていれば、企業が安易なリストラに走らないような政策をとるのが先決である。例えば、必要な規制を強化したり、雇用維持に補助金を出すといったことだ。
しかし、安倍総理がそうした政策を採用する気配はない。むしろ、規制緩和、弱肉強食の競争を促進させ、一部の企業だけが栄えるように仕向けている。労働者は次々にリストラされ、企業もどんどんと淘汰されるだろう。それによって転落する者が増えるから、再チャレンジの施策が必要となるのだ。
しかし、たとえ再チャレンジが何回できたとしても、それによって救われるのはほんのわずかの人たちだけだろう。社会自体が弱肉強食のままなのだから、弱者は何度チャレンジしても浮かばれることはない。
だから、再チャレンジという言葉を耳にするたびに、わたしには芥川龍之介の小説「蜘蛛の糸」の一場面がどうしても頭に浮かんでしまうのだ。底辺に落ちて苦しんでいる人たちの上に、かろうじて垂らされた、一本のか細い「蜘蛛の糸」。「再チャレンジ」施策とは、まさにそのような存在ではないのだろうか。
そして、もうひとつ指摘されている外国人労働の利用について。
安倍総理が負け組を減らそうとは思っていない証拠が、もう一つある。それは、外国人労働者の移入政策である。
政権公約のなかで、安倍総理は「自由と規律でオープンな経済社会」という項目のなかに「良いヒト・モノ・カネを世界から集積」と書いているのだ。
もちろん、高度な技術や知識を持つ外国人労働者を招くのならば、問題はない。しかし、そうした高度な人材に対する入管規制について、日本は既にオープンな国になっている。となると、受け入れ規制を今後も緩和するとなれば、一般労働力を対象にするしかない。
ここにきて厚生労働省は、フィリピンとの間で既に結ばれているEPA(経済連携協定)に基づき、2年間に1000人の看護師・介護福祉士を受け入れることを発表した。このことが、経済学的に何を意味するかは明らかだろう。看護師・介護福祉士の賃金が低下するのである。
(中略)
好景気の時代には問題はなかったのだが、景気が悪くなると真っ先に解雇されるのは彼らである。景気変動のクッションの役割を果たしてきた彼らとその子どもたちは、今になって行き場所がなくなってしまった。
そうしたことが社会不安を招く背景の一つとなっていることは否めない事実である。昨年から今年にかけて、フランスの移民二世・三世を中心とした若者たちが起こした暴動などは、その典型的な例だろう。
もちろん、西欧で起きたことが、そのまま日本に当てはまるとは限らない。ただ、外国人労働者の受け入れには、徹底した議論が必要だと思うのだ。
ところが、外国人労働者受け入れに対する雇用方針は、残念ながら、なしくずしに進んでしまっている。技能実習生の制度一つとってみても、それは本来の技術移転ではなく、低賃金労働の利用という別目的で使われるようになっている。
日経ビジネス2006年9月11月号の特集「こんな国では働けない 外国人労働者『使い果て』の果て」をすぐに思い出した。製造業やサービス業において、すでに外国人労働者は非正規雇用の安価な労働力として組み込まれているのだ。たとえば、深夜のコンビニや弁当工場、製造現場では、彼らの存在なくして成り立たなくなってしまった。しかし、一方では、研修生として受け容れた彼らを労働力として使うなど、合法・違法の微妙なボーダーライン上で運用されており、しばしば違法な処遇がなされている。
低賃金といえば、パート・アルバイト・派遣や請負労働など非正規雇用の業員の賃金が最低賃金を下回っても違法ではないこと、結果的に生活保護の支給対象となり得る月収を下回ることもある得ること、これも「負け組」の生活を苦しくさせることにつながっていると思う。
外国人労働者の雇用と非正規雇用の賃金体系、これに手をつけない限りは「下流社会」への格差は広がっていくばかりだと思う。そして、安倍内閣はこれにはまったく興味を示さないだろう。