これは、今後起こりそうなことだ。
森永卓郎「構造改革をどう生きるか~成果主義・拝金思想を疑え!~」
第163回 人間の価値を金で測る
「クレジットスコア」導入に大反対する
小泉改革の多くが、この年次改革要望書に盛り込まれていたことに過ぎない、ということを知っている日本国民は、どれくらいいるのだろうか。
年次要望改革書で米国が「要望」したことは、何年かはかかるかも知れないが、日本政府は実現してきている。そういう力関係にある「同盟関係」なのだ。
サブプライム問題ですっかり暴落してしまったアメリカの金融サービス業が、これをてこ入れ施策のひとつにしてくるのは、確実だと思う。
後で読むために、リンクを貼っておこう。
在日米国大使館 経済・通商関連資料 規制改革
森永卓郎「構造改革をどう生きるか~成果主義・拝金思想を疑え!~」
第163回 人間の価値を金で測る
「クレジットスコア」導入に大反対する
「大型バイクの高速道路二人乗り解禁」「郵政民営化」「コンビニでの医薬品販売解禁」「時価会計制度の導入」「法科大学院設立」「製造業への派遣労働の解禁」 ―― どれも最近の自民党政府の下で導入されたものだが、これらすべてに共通することがある。それが何かお分かりだろうか。
それは、米国政府が日本政府に求めた「年次改革要望書」に記されていた内容であるということだ。
年次改革要望書は、正式には「日米規制改革および競争政策イニシャティブに基づく要望書」という。日米政府がお互いに、相手政府に対する制度改善を求めた文書で、1993年、宮沢内閣当時から始まったものである。
郵政民営化は小泉元総理の専売特許だと信じられているが、こうしたいきさつを見ていくと、じつはそうではなかったことが分かる。米国から、簡易保険と郵便貯金の完全民営化を求める要望が出されていて、小泉元総理はそのシナリオに従ったに過ぎないとも言えるのである。
1993年以来、毎年この要望書が交わされているが、日本政府の要求を米国側がそう簡単に受け入れるはずがない。結局は、米国政府の要求を日本側が一方的に受け入れることになるわけだ。
年次改革要望書には、非常に具体的で詳細な要望が書かれている。それはまさに、米国が日本に突き付ける「指令書」と言っても過言ではない。
そして、去る10月、今年の年次改革要望書がやってきた。例によって、その内容はさまざまな分野にわたっているが、そのなかに驚くような事項が記されていたのである。
小泉改革の多くが、この年次改革要望書に盛り込まれていたことに過ぎない、ということを知っている日本国民は、どれくらいいるのだろうか。
年次要望改革書で米国が「要望」したことは、何年かはかかるかも知れないが、日本政府は実現してきている。そういう力関係にある「同盟関係」なのだ。
クレジットスコアは米国の格差社会をつくっている一因
今年の年次改革要望書に書かれていた驚くべき事項とは何か。それは、日本でも「クレジットスコア」を導入しろというものだ。
クレジットスコアとは、いわば個人の信用評価点で、個人ごとに300点から850点の点数がつけられている。もともとは融資やクレジットカードの審査効率化のために導入されたもので、その点数によってどれだけお金を貸してもいいかを測る目安としているわけだ。
クレジットスコアを審査する機関はいくつかあるが、算定基準は公表されていない。ただ、基準の一つとして明らかなのは、クレジットカードの利用履歴である。カードの引き落としができなかったり、キャッシングの支払いが遅れたりするといった返済事故が起こると点数が落ちる。
確証はないが、借金の額が増えるとクレジットスコアは下落し、収入や資産が増えると上昇するといわれている。ただし、どの要素がどれだけウエイトを持つかという詳細は分からない。
クレジットスコアは、個人の格付けと考えると分かりやすいだろう。点数が高ければ優良顧客であり、低ければ信用力の劣った客である。だから、銀行で住宅ローンを借りたくても、クレジットスコアが一定以上ないと受け付けてもらえない。そうした信用力の低い客に対するローンがサブプライムローンだったわけだ。
そして、クレジットスコアの高低によって、ローンの金利が違ってくる。いま述べた住宅ローンだけではなく、自動車ローンでも、400点台の人と800点台の人とでは金利が倍ぐらい違ってくる。
厄介なのは、いったんクレジットスコアが落ちると、社会生活がスムーズにいかなくなっていくことだ。新たにクレジットカードがつくりにくくなったり、金利が高くなったりという悪循環を繰り返し、ますます暮らしにくくなってしまう。米国の格差社会をつくっている一因と言っても過言ではない。
そんな数字は気にしなければいいと言われるかもしれないが、そうはいかないのが米国の実情なのである。個人の信用を測る物差しとして、クレジットスコアほど明確な数字はないからだ。
クレジットスコア導入で外資が消費者金融に進出する
確かに、日本にも与信審査機関が存在するが、米国の制度のシビアさとは比べものにならない。米国のクレジットスコアの重要な点は、それが与信審査だけに使われているのではないということだ。
米国に住んでいる知人に聞いた話だが、携帯電話の購入はもちろん、レンタルビデオを借りるときもクレジットスコアを記入しろと言われるという。ちなみに、自分自身のクレジットスコアは照会できる仕組みになっている。
それだけではない。就職の際にもクレジットスコアが採用の参考にされているのが実情である。さらに、本当かどうか知らないが(おそらく本当だろうが)、好きな人にプロポーズしたところ、相手にクレジットスコアを尋ねられたという話まで伝わっている。
一部の大金持ちを除けば、大半の米国人は、日々このクレジットスコアに戦々恐々としながら生活しているのである。そして、今年の年次改革要望書では、このクレジットスコアを日本にも導入せよと要求しているのだ。
では、なぜ米国政府はそのような要求をしているのか。それは、外資系金融機関が、日本の膨大な個人資産を狙っていることと深い関係がある。つまり、クレジットスコアを導入することで、外資系金融機関に対して、日本の消費者金融市場へ参入しやすくするわけだ。なぜなら、そうした外資にとって、日本市場参入への最大の壁になっているのが、個人の信用情報を得にくいという点にあるからだ。
本当に金を貸してもいい相手なのか、それが分からなければ消費者金融などできない。しかし、それをクレジットスコアという数字で簡単に得られるようにすれば、外資でも簡単に金が貸せるというわけだ。
これまでは、時価会計制度の導入も郵政民営化も、米国の狙いは日本の企業が中心だった。だが、企業レベルではほぼ甘い蜜を吸いつくしてしまった。そこで、今度は日本の国民の資産を狙っているのだろう。わたしは、そう思えてならないのである。
これは、おそらく単なる思い過ごしではないだろう。それを裏づけるもう一つの証拠が、今回の年次改革要望書に記されているからだ。
確定拠出年金拡充とクレジットスコア導入は日本国民の資産が狙い
外資が日本国民の資産に狙いをつけているという考えは、今回の年次改革要望書にある別の要望からもうかがえる。
それは、確定拠出年金、いわゆる401kの拡充を求めている点である。この目的は、クレジットスコア以上に明確だ。現在の日本の公的年金は大部分が国債で運用されていて、一部が外資という割合だが、401kになれば根こそぎ外資系金融機関がさらっていくことも可能だからだ。
今後、日本の年金の給付水準が下がっていくことは、公式には誰も表明していないが、国民も政治家も誰もがそう思っている。政府が、「もう面倒を見切れないから、自分の年金は自分で積み立てろ」という日がやってくるのはそう遠くないと考えられる。おそらくそのときは、税制の充実や限度額拡大などの対策を込めて、私的年金への移行を促すことになるだろう。
そうなると、個人が運用先を選べるようになるから、外資参入のチャンスが増えるわけだ。もちろん、公的年金と違って、確定拠出年金は給付が確定しているわけではないので、運用の成果が老後を左右することはいうまでもない。つまり、老後の生活も「自己責任」になるわけだ。
いずれにしても、確定拠出年金の拡充によって、外資系金融機関が日本の膨大な個人資産に狙いを定めているのは間違いない。そして、それと同じ目的を持っているのがクレジットスコアの導入要求なのである。
しかし、いくらなんでもこれを許すわけにはいかない。「金で点数をつけるな」と、わたしは声を大にして言いたいのだ。クレジットスコアとは人間の価値を金で決めることにほかならない。まさに、金融資本主義の思想の凝縮のようなものではないか。
想像してほしい。クレジットスコアが導入されたら、どれほど嫌な世の中になるだろう。毎日、点数が下がるのではないかとビクビクして暮らさなければならなくなる。日本人の感性からしても受け入れがたいものだ。
もちろん、政府がどういう反応をするかは分からない。米国から要求されたからといって、国内政治の壁があるから、要望をすぐに実現できるわけではない。しかし、冒頭で書いたように、これまで年次改革要望書に書かれてきたことが、片っ端から実現されてきたことも事実である。麻生内閣があと1、2年も続くようであれば、おそらく実現してしまうのではないかと、わたしは心配でならないのである。
サブプライム問題ですっかり暴落してしまったアメリカの金融サービス業が、これをてこ入れ施策のひとつにしてくるのは、確実だと思う。
後で読むために、リンクを貼っておこう。
在日米国大使館 経済・通商関連資料 規制改革