一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

復興かきオーナー制度

2011-05-27 | 東日本大震災

最近話題の東日本大震災で被災した三陸の牡蠣養殖業者の復興を支援する「復興かきオーナー制度」。  

仕組みは1口1万円を応募すると、出荷再開後に1口につき三陸産殻付牡蠣20個前後が送られてくるというもの。  
参加する側も義援金を送るだけでなく復興を味わえることになるので、アイデアとしては非常にいいと思います。


仕組みは牡蠣の通信販売
 

この制度は「復興した後に収穫できた牡蠣を売る」という通信販売の仕立てになっています。
特定商取引法に関する表記まできちんとなされています。これは、制度を運営している株式会社アイリンクが被災前に行なっていた牡蠣の通販の仕組みを流用しているからでしょうか。

そこには以下のような注意書きがあります  

  • 出荷できるようになってから当社よりご連絡差し上げ、お届け先、お届け希望日(時間帯)などを確認させていただきます。場合によっては、5年以上かかるかもしれません。通常時の三陸牡蠣養殖の場合でも、成育に2年~3年かかります。港湾の復旧、漁業操業許可を経て養殖の準備が再開されることから、現状では出荷再開の時期をお約束できかねます。
  • 売上金の利用目的 売上金の一部(70%)は、生産者の牡蠣養殖のための資材、設備支援、生産者への牡蠣仕入れ金に活用させていただきます。(残りの30%は、牡蠣をお届けする際の送料、通信費、取材費などの経費となります。)  
  • 商品お届け前 ご返金・オーナー契約の解除は承りません。
  • 特定商取引法上はクーリングオフが義務付けられていません  

通販として見ると購入者側にとても不利な条件です。 
特にいつ来るかわからない商品を一度注文したらキャンセルできない、というのは消費者契約法の「消費者の利益を一方的に害する」条項として無効だという主張とか、そもそも売買対象の牡蠣の数量が「約20個」と(重量や牡蠣のサイズも含めて)特定していないから売買契約は成立していないという主張もありえます。


実態は牡蠣養殖業への投資?  

一方で上の主張が非常にKYに聞こえるのは、代金は牡蠣養殖業の復興のための設備投資や仕入れの資金として使われるので、復興に予想以上に時間がかかるからといって金を引き上げるのでは復興支援にならないからです。

そうなると、これは牡蠣養殖業の出資に対する配当として牡蠣を受け取るというしくみとも考えられます。

しかしそうだとすると、これは「集団投資スキームに係る権利」(=出資又は拠出をした金銭を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利(金商法2条2項5号))として(要するに投資ファンド事業として)、金融商品取引法に抵触する可能性があります。 
法文上は、出資は金銭に限られるものの、配当は「財産の分配」とあるので、牡蠣が届くのも当たりそうです(間違っていたらごめんなさい。)  

また、金商法には適用除外として  

出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利(イに掲げる権利を除く。)  

という条項があるので、本件で言えば配当は生牡蠣20個1回で出資金(=1万円)の価値には満たない、ということで適用を免れられるようにも思います。
また、そのへんの疑義をなくすためには、法律的には「1口につき、三陸産殻付牡蠣20個前後をお届けします。ただし、当該牡蠣の時価は出資額を上回らないものとします」とでも書けばいいのかもしれません。 
ただ、殻つき牡蠣の通信販売を検索してみると、サイズによっては1万円で20個=1個500円というのはあながち高いとも言えなそうです。  

また、集団投資スキーム(ファンド事業)では、投資資金で設備投資をした場合その設備は投資家側の資産になってしまう(=ファンドが書き養殖業を営む)ので、こういうスキームにしてしまうと牡蠣養殖業者への支援にはならない(=牡蠣養殖設備の所有者として漁民に生産委託することのなってしまう-これは皮肉にも「オーナー制度」に近いことになります)というそもそもの難点もあります。


ではストレートに寄付とすればいいのでは?  

復興牡蠣オーナー制度の売上金の利用目的は次のようになっています。  

つまり、商品としての牡蠣代金に相当する部分は仕入れに経費と利益を乗せても多分売上げの半分くらいで、残りは牡蠣養殖業の設備投資代金を支援することになります。 
つまり、代金の半分くらいは寄付に当てられることになります。   

それならば、牡蠣の通販と寄付をセットにしながらスキームとしては分けて、寄付部分は税金の控除を受けられるようにした方がお金が集まりそうです。  

しかし寄付控除を受けるための要件は厳しいという問題があります。 
国税庁のサイト一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)によると寄付金控除が認められるのは限られています。

  • 日本赤十字、や公益財団法人・公益社団法人の主たる目的である業務に関連する寄附金→しかしこれを新たに設立していては間に合いません。
  • 「認定特定非営利法人(いわゆる認定NPO法人)に対する寄附金のうち、一定のもの」というカテゴリがありますが、認定NPO法人ってけっこうハードルが高いようだし、「一定のもの」の要件も厳しそうです。  

しかも、今回資金が生活資金の援助でなく設備投資にまわされる部分が多いので、NPOを作ってそこから資金提供をしたとしても、養殖業者側でまた課税の問題が発生しそうです。


「過剰コンプライアンス」か行動優先か  

このように法律を当てはめていくとうまく収まらない感じもするし、まずは行動が大事と考えると今の形でもいいのかもしれません。  

ところで、Twitterで知った話なのですが、運営会社の㈱アイリンクは以前グリーンシート登録銘柄だったものの、2008年に監査法人から適正意見をもらえなかったことを理由にグリーンシート指定の取り消しを受けています(参照) 
このこと自体はアイリンクも自分のサイトの会社沿革に正直に書いています(参照)ので隠すつもりはないようです(理由は書いてませんが)。  

ベンチャーが一度うまく行かなかったからといって二度と信用しないというのはもちろん狭量な姿勢だと思います。
しかし監査で適正意見を取れなかったというのは、倒産とか業績不振で指定取り消しになった場合よりも企業(経営者)に対する印象はよくないです。  

特に今回は  

10,000人のご賛同をいただければ、三陸牡蠣を出荷できる道筋が作れます。 
100,000人のご賛同をいただければ、三陸の一部の牡蠣産地を救えます。 
1,000,000人のご賛同をいただければ、三陸の牡蠣産地復興を実現できます。

と、数億円~数十億円の資金獲得を目指しているようです。 
そして売上げは牡蠣養殖業者に直接渡るのでなく、通販の主体のアイリンクに立つ=資金はアイリンクにプールされることになります。

それだけの金を前にすると、経営者自身はしっかりしていたとしても、さまざまな誘惑が寄って来そうです。  
なので

  • 売上金は設備投資などに回る前にはどこにプールされているんだろうか ・アイリンクが倒産した場合の代金の保全や、他の事業の債権者に差し押さえられたりしないような手当てはされているのだろうか。
  • 手元資金の運用はどうしているのか、その安全性はどのように担保されているのか(現時点でも剰余金は既に8千万円ほどあります。
  • 投資先の選定や投資金額の妥当性はどのようにして決めるのか(これは無駄な投資リスクだけでなく、配当のプレッシャーに負けて資金を必要な設備投資に回す代わりに、被災が比較的少ないところの種牡蠣購入にばかり回してしまうリスクも考慮する必要があります)  

などについて、特定の法律で義務付けられていなかったとしても、もっと少し詳細な説明が必要だと思います。  


震災復興には考えるよりも行動が大事なことが多いのもわかりますし、「過剰コンプライアンス」よりも拙速を旨とすべき場合も多いとは思います。

しかし、億単位の金を集めるなら相応の説明責任や規律は当然に求められると思います。  


「復興かきオーナー制度」で購入する消費者側としても、自分のお金が復興に回らないリスクや巨額の資金を特定の人に預けるということのリスクは承知しておく必要があると思います。
(まあ、義援金もまだ手元に届いていないらしいのでいずこもいい勝負かもしれませんけど)


また当然ながら、これが牡蠣養殖業者支援の唯一の方法ではないことにも注意が必要です。
たとえば「大地を守る会」ではOyster for Oysterという取り組みも(これはストレートに寄付をする、というもの)しています。


復興支援のスキームは今後ますます新しいもの出てくるでしょうから、その中での健全な競争と支援資金流入ルートの多様化が実現すればいいと思います。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする