俺なんかは茶番劇だと思っている第二次世界後の敗戦国である日本の当時の指導者達を裁いた東京裁判。あの裁判のおかげで我が国ニッポンは未だに戦後の自虐史観から抜け出せずにいるのが現状。敗戦国は日本だけでなくドイツもまた然り。ドイツにおける第二次世界大戦中において、戦争責任に問われたナチスドイツの指導者を裁く司法裁判の行方を描いた作品が今回紹介する映画ニュールンベルグ裁判。両裁判とも戦勝国側が一方的に敗戦国側を裁くという図式だが、果たしてそのようなことで公平な裁判が本当に行われたのかどうか?
現代の我々の多くは、ナチスドイツと聞くだけで悪魔の如く凶悪な集団のように思えてしまったりするし、その様に教えられたし、またそのような本や映画を読まされたし、観てきた。しかし、もう一度自分に問いかける。一体、アドルフ・ヒットラーという人類史上始まって以来の大悪党を産んでしまった原因は何なのか?ユダヤ人大虐殺は弁解の余地のない程の残酷な仕打ちだが、しかし彼が第二次世界大戦を引き起こした要因において、他国には責任はないのか?物事を一方通行で観てしまうと本質を見誤ることがある。その点を少々なりとも理解するのに本作は良い教科書だ。
ストーリーの紹介をする前に少しばかり説明を付け加えておこう。1933年にナチスがドイツの政権を担当することになる。それも選挙によってだ。どこぞの国は暴力革命で政府が誕生したりするが、ヒットラーを最高指導者とするナチスは民主主義による手続きを経て誕生したのだ。ナチス政権が誕生する前にはワイマール憲法というのが存在している。この憲法は我が国日本の旧憲法だけでなく、世界的に模範とされる憲法とされている。
しかしながら、ヒットラーを中心としたナチスは1935年に権力を逆手にとって自らの野望を剥き出しにした法律を改変する。その内の一つが断種法。アーリア人以外の民族の浄化を目的としていたヒットラーはユダヤ人を無理矢理に避妊手術を受けさせるような法律を作ってしまった。その犠牲者としてモンゴメリー・クリフトが出演している。
そして本作にはもう一つ重要な案件の裁判としてフェルデンシュタイン事件。これはナチス政権時代の出来事で、当時16歳のアーリア人の少女アイリーン=ホフマン(この役をジュディー・ガーランドが演じている)がユダヤ人であるフェルデンシュタインと肉体関係が有ったのか無かったのか?という裁判。ナチス政権下の裁判においては最初から有罪ありきの裁判であり、ロクな裁判も行われずにユダヤ人であるフェルデンシュタインは死刑、アリリーン=ホフマンは2年の懲役刑が言い渡される。
このナチス政権時代に行われた、この二つの案件に対して有罪判決を出した当時の4名の判事をアメリカ軍の検察が告訴し、それに対してドイツ人の弁護士が迎え撃とうとするのが本作の大きなメインテーマ。
長々とした前振りはこれぐらいにしておいてストーリーの紹介を。
1945年にアメリカを中心とする連合国が勝利して第二次世界大戦が終わる。1948年にドイツのニュールンベルグでナチスドイツの犯罪に関わった人物の裁判が行われていた。その内の一つである司法裁判において裁判長を務めるダン(スペンサー・トレイシー)がアメリカからやって来る。
被告席にはナチス政権時に「断種法裁判」と「フェルデンシュタイン事件」に関わった当時の4人の判事が居たのだが、その中にはワイマール憲法の起草にも携わった世界的法律家として名高く、ナチス政権下で法務大臣を務めていたヤニング(バート・ランカスター)も座っていた。
彼ら4人を訴えたのがアメリカ軍のやり手の検事であるローソン大佐(リチャード・ウィドマーク)、そして彼と激しくやり合うドイツの弁護士でありヤニングのことを前々から尊敬していた若き弁護士ロルフ(マクシミリアン・シェル)。裁判の行方は巧みな論法でロルフが有利で進んでいたのだが、ローソン大佐がナチスドイツの残虐行為の記録映像を法廷内で公開してから空気は一気にローソン大佐へと変わる。それでも祖国ドイツの誇りを守るために奮闘するロルフ弁護士だったのだが、裁判中にヤニングが自ら有罪を認める発言をしてしまい・・・
被告席に座っている4人のナチス政権下での判決振りがもの凄く酷い。ナチスの利に適わない人間を法廷に引っ張り出して、サッサと死刑判決。俺なんかはこれは酷いの一言でその先の言葉が出てこないのだが、ロルフの弁護が非常に巧みなだけでなく、色々と考えさせられた。異常な政治体制下において、どこまで人間は正しい判断ができるのか?。特に本作はドイツ人から祖国という言葉がよく出てくる。当時のヒットラーが出現するまではドイツ人は貧困を強いられていた。そんなドイツ人が絶望の中に希望を見出したのがアドルフ・ヒットラー。現在の感覚では考えられないが、彼の演説によって多くのドイツ国民は勇気づけられ、心酔した。実際にヒットラーは戦争で連戦連勝でヨーロッパの殆どの国を統治下に治め、ドイツ国民を貧しさから救った。そして、当時のドイツ人達はあのようなユダヤ人大虐殺が行われていたとは殆どが知らないわけだ。
そして実はずっと喋らないでいたヤニングだが、彼が証言台で語ったことが非常に考えさせられる。彼はヒットラーを嫌っていたのだが、絶望的な状況に陥っているドイツを立て直すにはヒットラーの力が必要だと。しかし、それは一過性のことであり、いずれはヒットラーも表舞台から消えるだろうと。しかしながらヤニングの予想は大きく外れてしまい、とんでもない記録映像を観てしまった。ヤニングだけでなく、他の被告人もヒットラーを支持することで祖国ドイツ復活を願っていたし、また政治状況からヒットラーを支持するしか仕方なかったのではないか?。自分の立場を守るか、それとも自らの立場を捨ててまでヒットラーに対して背信行為を行えるか、これは今だったら答えは簡単に出せるが、その当時の人にとってはどちらが正解かの答えを出させるのは非常に酷だと思える。
そして法廷内での裁判官が議論してくる中で出てくるが国際法か国家法のどちらが優先されるかの問題。よく考えたら当時のドイツの状況だったら国家法が優先されるよな~なんて思った俺はアホなのか?この被告席の4人は無罪じゃね~なんて思ったのだが・・・。このように考えさせられるから勝者の一方的な価値を押し付けて法廷で裁くことの難しさを痛感させられる。
他にも東西冷戦による政治的駆け引きが出てくるシーンがあったり、ヤニングが最後に見せる表情はどういうことだったの?なんて考えさせられたり、それ以外にも色々なテーマが含まれている作品。今まで書いた出演者以外にもマレーネ・ディードリッヒが非常に考えさせられるシーンに出てきたり、豪華出演陣の映画の割にそれぞれが素晴らしい演技を見せているために誰もが印象的。
そして、俺が最も心が震えたのが、まさかのマクシミリアン・シェル演じるロルフの最終弁論。ナチスに忠誠を誓っている被告を弁護する奴の言うことなんか出鱈目ばかりだろうと当初は思っていたのが、最後の最後にこんなに的を射た演説を聞かされるとは夢にも思わなかった。「この被告席の4人が有罪ならば戦争で金儲けをしたアメリカ人も有罪だ」。これをアメリカの裁判官にぶちまけるのだが、本当に気持ち良かった。アメリカの方が第二次世界大戦でもっと悪いことをしているだろう。
それにしても本作はハリウッドが製作したわけだが、本作のような内容の映画を撮ってしまうアメリカのリベラルの凄さをまざまざと見せつけられた気がする。いかに日本のリベラルが日本の役に立たないかが本作によって浮き彫りにされてしまったことが非常に皮肉に思えた。
3時間の長丁場だが、色々と考えさせられ勉強させられる映画。観ている最中は心が揺れ動きっ放しだったのだが、東京裁判を経験している日本も本作の内容は無関係では済まされない。色々と何気ない台詞の中にも含蓄があったりで、何回も観たくなる映画として今回はニュールンベルグ裁判をお勧め映画に挙げておこう
監督はスタンリー・クレイマー。社会派映画の傑作が本作以外にも多数。人種差別の愚かさを黒人と白人の逃避行という形で描いた手錠のままの脱獄、原爆の恐怖を意外性を持って描いた渚にてあたりがお勧めです
現代の我々の多くは、ナチスドイツと聞くだけで悪魔の如く凶悪な集団のように思えてしまったりするし、その様に教えられたし、またそのような本や映画を読まされたし、観てきた。しかし、もう一度自分に問いかける。一体、アドルフ・ヒットラーという人類史上始まって以来の大悪党を産んでしまった原因は何なのか?ユダヤ人大虐殺は弁解の余地のない程の残酷な仕打ちだが、しかし彼が第二次世界大戦を引き起こした要因において、他国には責任はないのか?物事を一方通行で観てしまうと本質を見誤ることがある。その点を少々なりとも理解するのに本作は良い教科書だ。
ストーリーの紹介をする前に少しばかり説明を付け加えておこう。1933年にナチスがドイツの政権を担当することになる。それも選挙によってだ。どこぞの国は暴力革命で政府が誕生したりするが、ヒットラーを最高指導者とするナチスは民主主義による手続きを経て誕生したのだ。ナチス政権が誕生する前にはワイマール憲法というのが存在している。この憲法は我が国日本の旧憲法だけでなく、世界的に模範とされる憲法とされている。
しかしながら、ヒットラーを中心としたナチスは1935年に権力を逆手にとって自らの野望を剥き出しにした法律を改変する。その内の一つが断種法。アーリア人以外の民族の浄化を目的としていたヒットラーはユダヤ人を無理矢理に避妊手術を受けさせるような法律を作ってしまった。その犠牲者としてモンゴメリー・クリフトが出演している。
そして本作にはもう一つ重要な案件の裁判としてフェルデンシュタイン事件。これはナチス政権時代の出来事で、当時16歳のアーリア人の少女アイリーン=ホフマン(この役をジュディー・ガーランドが演じている)がユダヤ人であるフェルデンシュタインと肉体関係が有ったのか無かったのか?という裁判。ナチス政権下の裁判においては最初から有罪ありきの裁判であり、ロクな裁判も行われずにユダヤ人であるフェルデンシュタインは死刑、アリリーン=ホフマンは2年の懲役刑が言い渡される。
このナチス政権時代に行われた、この二つの案件に対して有罪判決を出した当時の4名の判事をアメリカ軍の検察が告訴し、それに対してドイツ人の弁護士が迎え撃とうとするのが本作の大きなメインテーマ。
長々とした前振りはこれぐらいにしておいてストーリーの紹介を。
1945年にアメリカを中心とする連合国が勝利して第二次世界大戦が終わる。1948年にドイツのニュールンベルグでナチスドイツの犯罪に関わった人物の裁判が行われていた。その内の一つである司法裁判において裁判長を務めるダン(スペンサー・トレイシー)がアメリカからやって来る。
被告席にはナチス政権時に「断種法裁判」と「フェルデンシュタイン事件」に関わった当時の4人の判事が居たのだが、その中にはワイマール憲法の起草にも携わった世界的法律家として名高く、ナチス政権下で法務大臣を務めていたヤニング(バート・ランカスター)も座っていた。
彼ら4人を訴えたのがアメリカ軍のやり手の検事であるローソン大佐(リチャード・ウィドマーク)、そして彼と激しくやり合うドイツの弁護士でありヤニングのことを前々から尊敬していた若き弁護士ロルフ(マクシミリアン・シェル)。裁判の行方は巧みな論法でロルフが有利で進んでいたのだが、ローソン大佐がナチスドイツの残虐行為の記録映像を法廷内で公開してから空気は一気にローソン大佐へと変わる。それでも祖国ドイツの誇りを守るために奮闘するロルフ弁護士だったのだが、裁判中にヤニングが自ら有罪を認める発言をしてしまい・・・
被告席に座っている4人のナチス政権下での判決振りがもの凄く酷い。ナチスの利に適わない人間を法廷に引っ張り出して、サッサと死刑判決。俺なんかはこれは酷いの一言でその先の言葉が出てこないのだが、ロルフの弁護が非常に巧みなだけでなく、色々と考えさせられた。異常な政治体制下において、どこまで人間は正しい判断ができるのか?。特に本作はドイツ人から祖国という言葉がよく出てくる。当時のヒットラーが出現するまではドイツ人は貧困を強いられていた。そんなドイツ人が絶望の中に希望を見出したのがアドルフ・ヒットラー。現在の感覚では考えられないが、彼の演説によって多くのドイツ国民は勇気づけられ、心酔した。実際にヒットラーは戦争で連戦連勝でヨーロッパの殆どの国を統治下に治め、ドイツ国民を貧しさから救った。そして、当時のドイツ人達はあのようなユダヤ人大虐殺が行われていたとは殆どが知らないわけだ。
そして実はずっと喋らないでいたヤニングだが、彼が証言台で語ったことが非常に考えさせられる。彼はヒットラーを嫌っていたのだが、絶望的な状況に陥っているドイツを立て直すにはヒットラーの力が必要だと。しかし、それは一過性のことであり、いずれはヒットラーも表舞台から消えるだろうと。しかしながらヤニングの予想は大きく外れてしまい、とんでもない記録映像を観てしまった。ヤニングだけでなく、他の被告人もヒットラーを支持することで祖国ドイツ復活を願っていたし、また政治状況からヒットラーを支持するしか仕方なかったのではないか?。自分の立場を守るか、それとも自らの立場を捨ててまでヒットラーに対して背信行為を行えるか、これは今だったら答えは簡単に出せるが、その当時の人にとってはどちらが正解かの答えを出させるのは非常に酷だと思える。
そして法廷内での裁判官が議論してくる中で出てくるが国際法か国家法のどちらが優先されるかの問題。よく考えたら当時のドイツの状況だったら国家法が優先されるよな~なんて思った俺はアホなのか?この被告席の4人は無罪じゃね~なんて思ったのだが・・・。このように考えさせられるから勝者の一方的な価値を押し付けて法廷で裁くことの難しさを痛感させられる。
他にも東西冷戦による政治的駆け引きが出てくるシーンがあったり、ヤニングが最後に見せる表情はどういうことだったの?なんて考えさせられたり、それ以外にも色々なテーマが含まれている作品。今まで書いた出演者以外にもマレーネ・ディードリッヒが非常に考えさせられるシーンに出てきたり、豪華出演陣の映画の割にそれぞれが素晴らしい演技を見せているために誰もが印象的。
そして、俺が最も心が震えたのが、まさかのマクシミリアン・シェル演じるロルフの最終弁論。ナチスに忠誠を誓っている被告を弁護する奴の言うことなんか出鱈目ばかりだろうと当初は思っていたのが、最後の最後にこんなに的を射た演説を聞かされるとは夢にも思わなかった。「この被告席の4人が有罪ならば戦争で金儲けをしたアメリカ人も有罪だ」。これをアメリカの裁判官にぶちまけるのだが、本当に気持ち良かった。アメリカの方が第二次世界大戦でもっと悪いことをしているだろう。
それにしても本作はハリウッドが製作したわけだが、本作のような内容の映画を撮ってしまうアメリカのリベラルの凄さをまざまざと見せつけられた気がする。いかに日本のリベラルが日本の役に立たないかが本作によって浮き彫りにされてしまったことが非常に皮肉に思えた。
3時間の長丁場だが、色々と考えさせられ勉強させられる映画。観ている最中は心が揺れ動きっ放しだったのだが、東京裁判を経験している日本も本作の内容は無関係では済まされない。色々と何気ない台詞の中にも含蓄があったりで、何回も観たくなる映画として今回はニュールンベルグ裁判をお勧め映画に挙げておこう
監督はスタンリー・クレイマー。社会派映画の傑作が本作以外にも多数。人種差別の愚かさを黒人と白人の逃避行という形で描いた手錠のままの脱獄、原爆の恐怖を意外性を持って描いた渚にてあたりがお勧めです
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます