平成23年10月 靖国神社社頭に掲示された遺書
福岡県京都郡出身 海軍一等機関兵 安藤 照太郎様 (24歳)
昭和13年10月16日 中華民国湖北省西塞山にて戦死 合掌
この度は 「涙して下さるな」 とご両親様に宛てた最後のお言葉をご紹介させていただきます。
暑さも盛りを過ぎて、心持ち涼味を感ずる頃ともなりました。
其の後、皆様には御機嫌麗はしく御過しの御事と存じます。
(中 略)
今迄不遇な運命にありましたる私も時機到来、或る方面に転勤する事になりました。
(中 略)
一度戦地へ臨む上は、軍人として愧(は)ぢざる行ひは心に銘じて居りますれば、御安心下され度。
終りに臨み特に御願ひ致し度は、不幸にして聖戦半にて斃(たお)るるとも、家に在りて必ず涙して下さるな。
此れが臨地に向ふ私の唯一の御願ひです。
笑って迎へて下されば、此に越した喜びは御座いません。
呉々も涙して下さらざる様御願ひ致します。
(中 略)
明年は出港の予定。御機嫌よう。
元気で行って参ります。 終
昭和13年8月19日
ご両親様
膝下
国の為に尊い命を捧げたお若い方が、ご両親様にお届けした最後のお言葉をご紹介させて頂きました。
「涙して下さるな」 と届いたお手紙にご両親様のお心はいかばかりでしたでしょうか。
愚かな戦争は絶対に繰り返すことの無きことを祈ります。合掌
戦争を知らない国民が多くなり、戦争も遠い過去の事になりつつありますが、事実は事実として悲しみが癒える事はありません。
私たち遺族は命ある限り鎮魂の歌を詠み続けて参ります。
お目を通して頂けましたら幸に存じます。
八月や戦禍に逝きし父偲び母の新盆無事終へにけり 宇和島市 遺児男性
還らざる兄と摘みしをしのばするそよぐ葉の間の朱き桑の実 横手市 遺族
父没すソロモン海を眺めては戦時をしのぶ朝な夕なに 富士吉田市 遺児男性
命日の近き父の墓清むればはつ秋の陽眩しくはじく 青森県 遺児女性
戦地より吾に届きし父のハガキペン字薄れて読みがたくなる 大阪市 遺児女性
父からのわづかにのこりしはがきには戦況のこと書きあらずなり 名古屋市 遺児女性
今の世の乱れし様を知らぬままルソンの海に眠れし父よ 長崎市 遺児女性
掘り出しし兵の頭蓋に白樺の血赤珊瑚のもみぢ葉の降る 出雲市 遺族
一兵として戦にゆきし我眼裏にある戦友の最期よ 篠山市 遺族
帰らざる兄の面影顕たせつつ我は戦時を若者に説く 京都市 遺族
子の為に子孫のために描いてやろ親父の想ひ今にして知る 米原市 遺児男性
「鳥海」の艦長の子息に出会ひたり船上に交はす熱き熱き握手 千葉市 私
23年度も今号で9首の掲載を頂きました。
今春、洋上慰霊祭に参加して父が乗艦しておりました「鳥海」の艦長様のご子息様にお会いできましたことは言葉に言い尽くせない感激を頂きました。
ご子息様も遠く長崎の地でこの遺族通信をご覧頂いておりますことと存じます。
その折りの出会いに感謝を申し上げました歌を掲載して頂きました事にとても嬉しく思います。