トム・ハンクス「変わったタイプ」を購入する際に、新潮クレスト・ブックスのベスト・セラーとして挙げられていたのがベルンハルト・シュリンク著「朗読者」だった。ここから出版されて3年後の2003年に新潮文庫からも出版され、手軽・かつ廉価で入手できるようになったもの。文庫本の値段が高騰してきている中で550円というのは妥当だ。
何気なく読み始めたのだが、これほどの小説に巡り合ったのは本当に久しぶり。松永美穂の翻訳も素晴らしい。日本ではいまでも戦争責任や歴史の清算、といったことが話題になるが、この本を読むと日本におけるそれらの議論が如何に浅薄なものかがよく分る。そして、この本が日本でも多くの読者を惹きつけたということには一種の安心感を覚える。この本はこれからも読み継がれなければならないと思うが、今回購入した文庫は平成24年6月の21刷であり、もし6年間、増刷されていない(その前の9年間には20刷されている)とすれば、それはこの間の日本における活字文化の衰退を示しているのかもしれない。
こんな名著を読んでいなかったとは改めておのれの不明を恥じるばかりだ。言い訳になるがこの本がドイツで出版されたのが1995年、邦訳が出版されたのが2000年で、ちょうどロンドンー東京―ニューヨークと目まぐるしく転勤が続いていた時期で精神的にも時間的にも余裕がなかった。だから、今、この本を読むことは、
「それとも「遅すぎる」ということはなくて、単に「遅い」というだけであり、遅くてもやらないよりはまし、ということなのか?ぼくにはわからない。」(P213)