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こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

ウォーキング日和り

2015年03月29日 02時11分23秒 | 日記
 28日。小野アルプス縦断ハイクがあった。朝、ハッと飛び起きて時計を見ると、なんと9時前ではないですか。もう間に合わない。初参加に胸を膨らませていたのに、また来年までお預けとは……!トホホトホホ。
いやいや、気を取り直して、どこか近くを歩こうと向かったのは善防公民館。大きな駐車場があって周囲には大きな溜め池とグラウンドがある。周囲には遊歩道もあったと思う。道を挟んだ向こう側には笠形山と善防山がそびえている。この辺りでは石を切りだす。岩山の絶景が広がっている。
遊歩道を歩いて溜め池と岩山が織りなす風景を楽しむ。こりゃ小野まで行かなくても、自然の中を満喫闊歩するウォーキングが出来るではないか。近くの山は目に入らないと言うことが、確かだと実感しました。
結局、善防から足を伸ばして北条鉄道の長駅まで歩け歩け!いやー、気分最高でした。
今日は12000歩。まあまあの成果だな。
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小説・ぼくらの挑戦ーそれは(その6)

2015年03月29日 00時11分54秒 | 文芸
誠悟が尋ねると、佐竹は顔をしかめた。
「なにがあったんや?遠慮せんと言うてくれや」
「…親がな…」
 佐竹は重い口をやっとこさ開いた。
 差別問題をまともに取り上げた芝居つくりに佐竹が参加すると聞かされた彼の父親は急に不機嫌になったと言う。
「ええか、マサル。よう聞け。あんなもんは、見ザル言わザル聞かザルを決め込んどくんが一番問題がのうて、ええんや。ワザワザほじくり返して何になる。藪蛇にでもなったらえらいコトやがな。ええか、そんな真似やりくさったら、この家、抛り出すさかいな!マサル、今すぐ断って来い。もう、最近の青年団は何よけいなことしくさっとるんや。他にもっとやらなあかん有意義なことが何ぼでもあるやろが」
 父親の思わぬ反応と剣幕に、佐竹は驚き狼狽えた。普段は息子に甘い父親には、の問題だけは触れたらダメなタブーなのだ。
「どないしても、そんな芝居をせなあかん言われるんやったら、もう青年団なんど、止めちまえ!」
 父親に一括されて、佐竹の取る道はひとつしかなくなった。
「どないしようもないねん」
 佐竹は万策尽きたといったため息をついた。
「江藤。俺、親父に逆らえへんわ」
「…そやったんか。マサルも大変やったなあ。分かった。お前は無理せんでええ。そやけど、目立たんように、内緒で裏方を手伝うぐらいは出来るやろ?」
「ああ。そのくらいやったら、大丈夫、俺に任してくれ。俺やって青年団の幹部や。責任あるし、それに真治と有ちゃんのためや。表立って出来んでも、他のことはやるで」
 佐竹はやっと明るい表情を取り戻して帰った。
 誠悟はひとまず安堵したものの、気分は暗く沈んだ。佐竹の父親の頑なな態度に、この地域の大人の考えが集約されている。そう考えると、胃が痛くなった。
 誠悟は家族揃って5年前に神戸から加古川に引っ越した。だからなのか、誠悟の両親に佐竹の父親みたいなへの偏見はない。むしろ差別問題をないがしろにしてはおけないタイプだろう。それに共働きの両親には、子どもにかまけている時間の余裕はなかった。たぶん自分の息子が青年団の団長を務めていることすら知らないかも知れない。
「お兄ちゃん」
 妹の奈津実が玄関先に、心配そうな顔を覗かせた。
「佐竹さん。ダメなん?」
「うん。まあ仕方あらへん。ここらの人は、問題にものごっつう敏感なんや。それだけ差別の歴史が長かったゆうこっちゃ。そやさかい問題はタブーなんや。当たらず触らずが、一番の対処法になってしもとる。
「みんな意識して無関心を装うている。矛盾してるやん。差別する側でいる方が楽や空言うて、自分も人も誤魔化すのは、卑怯やわ、みんな」
「そうやな。そんな社会やから、僕らが今度やろうとしている芝居作りには大きな意味があるんや。うん。絶対やらなあかんのや」
「へー…」
「何だよ?奈津実」
「お兄ちゃん、なんか変わったみたい」
 奈津実は勘がいい。有子の決然たる姿を目の前に、単純に感激してしまった誠悟は、差別問題を自分のものと捉えて、中川先生と『
壁よ!』の舞台に賭ける気になったのだ。今でのノンポリ的な誠悟でいられるはずがない。その変化を奈津実は見逃さなかった。
「まあな」
 誠悟は面映ゆい思いで奈津実に頬笑んで見せた。やけにぎごちないものになった。
「お兄ちゃん」
「うん、何や?」
「高校生でもええん?」
「お前…!」
「参加したい、うち。うちだけやあらへんで、クラブのみんなもや。お兄ちゃんに、三か出来るように頼んどいてって、言われてる。なあ、おにいちゃん。うちら高校生の参加、前向きに考えてほしい。ええか、たんだからね」
 それだけ言うと、もう用はないとばかりにアッサリト家の奥へ引き下がった。
 誠悟は妹の申し出が実に嬉しかった。
 ダメになるやつがいれば、また力になろうとするやつが出て来る。これこれ、これがあるから、世の中もそう見捨てたもんじゃない。
 誠悟はゆっくりと夜空を見上げた。まだこの辺りの空は汚れもさほどひどくなさそうだ。夏の星座がくっきりと広がり、キラキラと賑やかしく光っている。
(つづく)
(平成6年度のじぎく文芸賞受賞作品)




 
 
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詩・雨

2015年03月28日 18時26分31秒 | 文芸


ザアーザアー
雨が降っている

こりゃあないよ
予定は中止だ

ザアーザアー
空を見上げて
ふーっと
ため息をつく

また
皮肉を言われるぞ
「雨男」
そんなつもりはないのに

ザアーザアー
雨が降っている
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絵手紙を出すぞ!宣言

2015年03月28日 10時08分59秒 | 日記
春を迎えて気持ちがはやる。寒さで縮んでいた冬よさよ~ならだ。この春はいっぱい絵手紙を描いて、友人に送りつけるぞ。花とか果物、野菜ぐらいしか描けないけど、懐かしさいっぱいの言葉を添えてポストイン!俺は、こんなに元気にやってるぞ!幸せだぞ!これが、その証拠だー!て、この一方的な絵手紙、あいつの心に届くかなあ?
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そのひと言に得したわが人生

2015年03月28日 09時56分54秒 | 文芸
あの一言で得したわが人生

「一人で大変そうやから、アルバイトしたる」
 35年前、初めて自分の喫茶店をオープンし、てんてこ舞いしているのを見かねて、そう申し出たのは高校生の彼女。当時わたしが運営していたアマチュア劇団のメンバーだ。
 30歳になっても独身を貫き(?)まあうだつの上がらない男を気遣った言葉だった。内心ありがた過ぎる申し出を喜んで受けた。授業を終えた足で駆け付けてくれる彼女は強力な助っ人になった。
 おかげでオープンしたての忙しさを切り抜けられたのは間違いない。彼女は短大入学を機に、アルバイトを辞めた。それでも常連客のひとりとして、ちょくちょく来店した。カウンター越しに他愛ない談笑をしているうちに、思い出したように言い出した。
「ひとりもんの男の人って、なんか可哀想で見てられへんやん。よっしゃ、嫁さん候補に友達連れて来たるわな」
 店の経営も落ち着いた3年後、短大卒業を前にした彼女は、そう一方的に宣言!そして数人の同級生を伴って順番に来店、次々と紹介してくれたが、初対面の相手が大の苦手のわたし、それが若い女性だと尚更ダメ。会話は続かない。そんな調子でうまくまとまる道理がなかった。
「もう!だらしないんだから。しゃーないなあ。うちが嫁さんになったるわ!」
 しびれを切らした彼女は、なんと自ら名乗りをあげた。予想もしていなかった私。驚いた瞬間、(彼女とならうまくいく!)と気づいたのである。
 あれから40年近く、子ども4人を授かり、幸せな家庭を築いている。
 さて得したのはどっちになるかな?う~ん、どう考えても、やっぱりわたしなんだろうな。
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小説・ぼくらの挑戦ーそれは(その5)

2015年03月28日 00時09分28秒 | 文芸
「脚本は読んだ?」
「あれはうちらがモデルなんや。前もって先生に話を訊かれたから」
「やっぱり、そやったんやなあ」
「中川先生が上手にまとめてくれはったわ。うちらが言いたい事もちゃんと主張して貰ってる」
「そうや。そうやろ。やっぱりそうやったんや」
「先生に、君らのことを芝居にして舞台でみんなに観て貰わへんか。と薦められた最初は、絶対イヤヤと思うたわ。真治さんのことは触れてほしくなかったの。でも、先生の話を聞いているうちに、それが間違いやと気付いた。真ちゃんに叱り飛ばされる。うちは、うちは、ただ逃げてるだけやって…卑怯者やって、気付いたの。そんなの…真ちゃんに顔向け出来ひんと思うたら、もう居ても立ってもおれんようになってしもた。だから決めたんだ。もう一度、真ちゃんと生きてみようって……!」
 有子は、もう二年前のあの泣き虫だった女の子ではなかった。随分逞しくなっていた。誠悟は言葉を失って、優子を見つめた。
「『君らが苦しみ抜いた姿を、みんなに知って貰わなあかん!差別がどんなもんなんか見せたるんや。その差別による悲しい現実をどないしたらええのんか?それをみんなに考えて貰うんや。君らの体験がその土台になりよる。君の夫として生きた大村くんの無念極まる死を、全く無意味にさせんために点々!』って、先生は懸命に言ってくれはった。それでやっと分かった。うちらは晒しもんになるん違う。差別を克服させるためのだ一歩や。その歩みのために、うちらの体験を生かさなあかんのやと。先生の言う通りやもん。差別、差別って最近さかんに言われてるけど、そんなん上っ面だけ。一体どんだけの人が、それを意識してはるか。そんな人おらへん。あえて知ろうとせんことが、意識せんことが、自分が差別していない証しみたいに思うてるんや、みんな。そんなん間違うてる。絶対許されへん。差別は…みんなの問題なんやから」
 有子は興奮する気配も見せず、ただ淡々と話した。しかし、彼女が心に何か期しているのは、誠悟にもひしひしと伝わった。
差別の拷問に懊悩しながら、ようやく手に入れたささやかな幸せの日々が、結局差別と言う得体の知れぬ化け物の犠牲になった。そんな過酷な試練にあった有子の胸のうちを、いまの誠悟に理解は無理だったが、それでも感じることは可能だった。
「ショウちゃん。うち、もう絶対逃げへんで。みんなに、たくさんの人たちに、差別はみんなの身近にあるんだよって伝えたいの。…だから、この芝居作りに参加する」
「ああ。それでこそ、有ちゃんや」
 誠悟は優子に見詰められて少し狼狽えたが、すぐに立ち直って、有子に頷き返した。
 演出を担当する中川先生は飾りのない言葉でみんなに訴えた。
「このお芝居は、みんなの若さ、純粋無垢な青年の正義感が必要不可欠なんや。悪いことは悪い。いいものはいい。と真っ正直に言い切れる若い力をぶつけてほしい。君らの純粋な正義感と歓声を出し惜しみせんと、観てくれる人たちの心に語りかけるんや。いいかい。ボクは事実をありのままになぞって、この脚本を書き上げた。ここに描いた若い夫婦が遭遇する、差別に起因する悲喜劇は、決して余所事やない。君らが住んでいる、この町で現実に起こったことなんや。」
 中川先生の言葉は、青年たちの心を打った。
「それにしても、君らを見とったら、うん、そらええ舞台が実現すると確信する。みんな一緒に頑張ろうや、なあ」
 中川先生はそう締めくくった。会議室に熱を帯びた歓声と拍手が湧き上がった。
 その熱気が順調に芝居作りへつながるとの安易な楽観は、翌日早くも修正せざるを得なくなった。
 青年団の副団長佐竹は、深刻な顔で誠悟の家を訪れた。夜も遅く、十時を回っていた。
「こない襲うにどないしたんや?佐竹」
 玄関先で佐竹と向き合った誠悟は、妙に不安を覚えた。
 誠悟の次に連合青年団団長と目されている佐竹は、申し訳ないといった表情を隠せないでいる。
「実はな、団長。俺、今度の芝居…参加できんようになってしもうた」
「佐竹…そんな、お前…昨日の今日やで」
「済まん。申し訳ない…この通りや」
 佐竹は唇を震わせて、ただ頭を下げるばかりだった。
(つづく)
(平成6年度のじぎく文芸賞優秀賞受賞作品

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詩・年のせい

2015年03月27日 15時26分06秒 | 文芸
年のせい?

目覚めると
腰が痛い
背中が痺れてる

年を経ると
骨がもろくなる
そして
身体中のあちこちに
現れる
痛みに、痺れ……

な~んだ
年のせいか?

起きて
しばらくすると
痛くない
痺れがない

まだ
私の中に
若さは
残っているようだ
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病院もうで

2015年03月27日 13時08分00秒 | 日記
12時23分。いつもの病院から帰宅。もう三か月近く続く通院です。交通事故に遭遇して頸椎捻挫で、リハビリで首つりの日々です。待合室もリハビリ室も高齢者ばかり。腰、腕、足……電気や物理治療で顔をゆがめています。考えてみれば、その痛みやしびれは、生きている証しなんですね。10分ほどの頸椎牽引中、療法士の先生が時々話しかけてくれるのに、ちょっと閉口です。なにしろ顎から頬を経て固定したのをひっぱりあげているのだから、まともに喋れるはずがない。答える間に感じる情けなさといったら。まあ、それはともかく、治療後は不思議に気分がよくなる。もしかしたら中毒になってしまったのかも。気分よくなっておひるごはん。これが私の最近のライフプログラム。早く普通に戻りたいけれど、もう年だもんね。まあ慌てず騒がず。さあ、おひるは何を作るかな?
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別れの予兆

2015年03月27日 08時13分23秒 | 文芸
それは突然に訪れた。
 一つ違いの兄。それも二人きりの兄弟との別れだった。当時の私は厄年、兄は後厄。総ての厄を兄が引き受けてくれたとしか思えない出来事が起きた。
 その日、いつも朝早く仕事に出かけて顔を合わせる機会のない兄が珍しく顔を覗かせた。
「おはよう。いまから仕事に行ってくるわ」
 それが兄の声を耳にした最後だった。にこやかに挨拶をする兄の顔を今でも思い出す。
 兄が仕事に出かけた四時間後。入った電話は兄の死を知らせるものだった。仕事の現場は増築中の工場。5メートル近い足場から足を踏み外したのだ。脳挫傷で即死だった。
 当時、他のことは考えられない日々が続いたが、落ち着いたころに、ふと考えた。あの朝久し振りに顔を見せたのは、なにか兄自身に別れの予兆があったのだろうか?
 災厄を引き受けてくれた兄のおかげで、人生六十六年、無事今日に至っている。
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小説・ぼくらの挑戦ーそれは(その4)

2015年03月27日 00時30分45秒 | 文芸
 いつしか誠悟は脚本にのめり込んでいた。ページを繰るのももどかしく、彼の目はひたすら行を追った。描かれた場面の情景が何とも鮮やかに誠悟の脳裡を駆け巡る。
 誠悟はハッとした。そうだ、知っている!このストーリーは、ただの創作ではない。真実に基づいている。確信があった。誠悟の記憶にまざまざと刻まれた、ごく身近に起きた事件が、脚本に展開している。
(有ちゃんと真治のことじゃねえか!)
 誠悟は脚本を読めという真剣な中川先生の顔が目の前に浮かぶ。先生は真剣に彼を説得して来る。誠悟の目を見つめたまま、逸らす気配は微塵もない。
「この脚本は、君らこの地域に生きる若い人やないと、ほんまに理解できひん。舞台で表現するんは無理や、君らでないと。この芝居だけは、嘘ごとで舞台に上げとうないんや」
 中川先生の真意が、いまようやく理解出来た。先生は心底から誠悟ら連合青年団の仲間に、是が非でも舞台を作ってほしいのだ。そう、差別に翻弄される若い夫婦を支えた友達にしか、表現出来ない、いや表現してほしくないと、中川先生は無言の中で訴えている。
 誠悟は慣れない脚本をなんとか読み終わって、軽い疲れを生じる目を閉じた。真っ暗な闇に閉ざされた眸の裏側に、精悍で正義感と優しさを備えた大村真治が蘇った。あまりにも誠実な気性だったゆえに、自らを精神的に追い詰めて自ら死を選んでしまった友人である。
 真治は誠悟の前に加・印地区の連合青年団の団長を務めた若者だった。周囲の信頼は厚かった。リーダーの資質は、その信頼に充分応えた。副団長として、彼の傍にいたのは、末松有子だった。
 若者たちの先頭に立って積極的な活動を実現させた真治が、いきなり自らの命を絶ったのは、そう二年前の夏だった。忘れる筈はない。ただ悲しく救いのない空しさを帯びた記憶だけに、心の奥深くにズーッと仕舞い込んでいた。その記憶を、中川先生はいとも見事に引っ張り出した。
 真治が自殺に至った、その背景と動機らしきものを、的確に描いた脚本は、中川先生だから書き上げられた。真治と有子の結婚式で仲人を務めた中川先生だから、若い二人の現実を前に無念な敗北をちゃんと理解出来る。先生自身が二人の家を行き来して、双方の親を説得したのである。
 誠悟はグッと目を見開いた。脚本『壁よ!』に込められた真実を決して見逃すまい。彼は脚本の最初のページに戻った。まだまだ時間は充分ある。友達の胸を共有するための…!

 加・印地区連合青年団の定期総会で、誠悟はいの一番に提案した。中川真人作『壁よ!』は正式に舞台上演の企画が決まった。それも、一年後に控えた全国青年大会参加を目標に据えた一大企画となった。
「同じやるんやったら、全国大会に兵庫県代表として、日生会館の大舞台に上がろう。全国に、僕らの訴えを叫び伝えるんや。自殺しか救いを見出せなくなるまで追い詰められた、われらが大村前団長の無念を、ついに克服し得なかった差別の現実を、真実を、真治が心から叫びたかった真実の闘いを、いま生きている僕らが代弁せなあかんねん。そやろ。それは若い僕らにしか出来ひんことちゃうやろか」
 とうとうと熱弁を奮った誠悟に迷いはなかった。その姿が、あまり乗り気でなかった団員たちを揺り動かした。まだ純粋さを持つ彼らの決意は、もう変わらない。
『壁よ!』の舞台作りは具体的に走り出した。誠悟を代表の実行委員会を立ち上げた。演出に中川先生が全員一致で決まった。先生が代表を務めるアマチュア劇団『絆』の全面協力も依頼した。若い力は走り出すと、もう止まらない。だから想像を超えた結果を生み出したりする。
 公募で選んだ顔ぶれが揃った初稽古の日。顔合わせした参加者の中に、脚本に描かれた若い恋人のひとりである末松有子の顔があった。彼女を発見した誠悟は驚きを隠せなかった。青年団を卒業した有子は、アマ劇団『絆』のメンバーとしての参加だった。
 有子のほかにも被差別の青年たちが数人参加している。青年団、『絆』それぞれからの参加だった。誠悟の知っている顔ぶれもかなり揃っている。心強さを覚えた。
 顔合わせが終わると、誠悟は急いで有子の籍に寄った。優子は会釈で応じた。向かい合わせの籍に座った。
「久し振り。元気か?」
「うん」
「有ちゃんも参加するんやな?」
 有子は誠悟の顔に目を据えて答えた。
「そうするんが一番やと思うたんや」
 有子のキッパリとした口調に迷いは見られなかった。
(つづく)
(平成6年度のじぎく文芸賞優秀賞受賞作品

 
 
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