あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

あるスノーボーダーの死

2009-08-06 | 
クィーンズタウンにあるコロネットピークのコース外で一人のスノーボーダーが雪崩に巻き込まれ死んだ。
アバランチトランシーバー、雪崩ビーコンも付けておらず、捜索に時間がかかり死んだという。
僕がコロネットで滑っていたのは10年以上も前だが、多分あの辺の斜面じゃないかという見当はつく。
今、これだけの情報があり、それでいてビーコンも付けずに山で雪崩に巻き込まれたのならしょうがない。
あきらめてもらうしかない。
「知らなかった」では済まない。
僕らから見れば自殺行為だ。

だが20年前はそうではなかった。
当時はスキーでパウダーなど滑る人はほとんど無く、ビーコンという物もあまり出回っていなかった。
エラソウに言う僕だって、真冬の磐梯山に装備もなく登って滑ったり、働いていたスキー場のコース外を滑ったりしていた。
よくあの時に死ななかったと思う。
無知とは怖い物だ。
ビーコンが普及し始め、パトロールで経験を積み、雪崩のことを知るようになると、簡単に山に入れなくなった。
同時に今までどれだけ自分が無謀な事をしてきたか、背筋の凍る思いを味わった。

スノーボードが出回り、スキーもパウダー用の幅広スキーが出て、バックカントリーというものに人々が関心を持ち始めたのが10年ぐらい前か。
事故も増え、僕はスキーパトロールをやっていて何回もイヤな経験をした。
山は人が死ぬ所だ。
先ずこれを徹底的に理解する必要がある。
体力、経験、知識、装備、全て揃っていてなおかつ山で事故は起きる。
これのうちどれかでも欠ければ事故の可能性は格段に高くなる。

今やバックカントリーの世界では、ビーコン、ゾンデ棒、スコップは当たり前の装備だ。
こんな物は使い方を知っていて、持ち歩いて、それでいて使わないというのが一番良い。
使わないだろうから持ち歩かないというのはダメだ。
たまたま今回はこの装備がなかった、というそのたまたまの時に事故は起きる。

だがスキーやボードを楽しむ上で誰もがそんな装備を持つわけではない。
ビーコンだって安い物ではない。
そういう時はどうすればいいか?
スキー場の中で滑れ。
その為にスキーパトロールはスキーカットをしたり、爆薬でアバランチコントロールをしたり、データを取ったり、間違ってコース外へ行かないよう看板を立てたりするのだ。
スキー場の中だってパウダーはある。
逆に言えば、スキー場の中のパウダーを、来る人により安全に滑って貰うためにパトロールは仕事をする。
少なくとも僕はそうだった。
できることなら、あの山だってあの沢だって全部滑って貰いたい。
自分が滑りたいから。
けれどパトロールの仕事量は限られているので、どこかで線を引かなければならない。
「その向こうは外海だよ。気をつけな」というアドバイスはできるが、人間の行動を止めることはできない。
人が入りそうな所に立ち番をするわけにもいかない。そんなの労力のムダだ。
ロープ1本、看板一つあれば充分。読まないヤツや何の経験、装備もなくロープをくぐるヤツが死ぬなら仕方ない。
僕はそう思うのだが、昔この立ち番を本当にやらせたスキー場があった。
僕はこれに大反対して、その結果そのスキー場をクビになったが、そのスキー場も数年でつぶれてしまった。
当時一緒に働いていた人達は口を揃えて「ひっぢはあの時にやめてよかったよ」と言ってくれるので良しとしよう。
話がそれた。

プールで泳ぎを覚えた人が、いきなり波が荒れまくる外海に泳ぎ出す。
無装備で裏山に入るとはそういうことだ。
自然は甘くない。
人間が気を付けなければ痛い目にあう。
だが僕にはこのスノーボーダーを責められない。
この死んだスノーボーダーは20年前の僕だ。
この死によって一人でも多くの人が装備の大切さに気付く事を祈る。
コメント (1)
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