僕は物持ちが良い。
気に入った物があると、いつまでも使い続ける。
スキーの板も同じで、一つと言うかスキーは二つで一つなのだが、同じ板を10年以上使った。
僕のスキーはキングスウッドという板でメイドイン・クライストチャーチである。
友達のアレックスというヤツが作っている。
その作り手があきれるぐらいに同じスキー板を使い続けた。
スキー板の寿命というものがあるかどうか知らない。
たぶんあるのだろう。
板のしなりとか、跳ね返りの強さとか、そういうのがいろいろあるのだと思う。
恥ずかしい話だが、そういうもろもろのことが僕には分からない。
一応スキー関係で飯を食っているのだからプロの端くれなのだが、ことスキーの性能に関しては分からない。
何故ならこの十年、自分の板以外のスキーを使ったことがないからだ。
十年前にこの板を使って「これだ!」と思って以来、それを使い続けた。
試乗会もあちこちでやっているが、他の板に乗ったことがない。
スキーの板について、うんちくを述べる人がいるが、そういう人の話を聞いてもちんぷんかんぷんである。
長いか短いか、太いか細いか、柔らかいか硬いか、ぐらいの違いは分かるが、それまで。
ワインの味のうんちくと同じレベルの話で、ワインを飲んで旨いか不味いかだけで済ます、その程度だ。
本当はそれではいけないのだろうが、まあスキー屋さんの店員ではないし、一秒を争うレーサーでもない。
自分が良いと思ったらそれでいいのだろうと思って、開き直ってしまっている。
あるスキー場で働いていた時の話である。
仲間の一人のスキーブーツがとても大きいのに誰かが気が付いた。
「そのスキーブーツ大きいなあ、足のサイズいくつ?」
「26ぐらい」
「ん?そのブーツは?」
「27.5かな?」
「えええ!なんでそんな大きいの履いてるの!?」
スキーをしない人のために訳をつけると、スキーブーツというものは脛まで足全体をガチガチに固めるものである。
人によっては足型を取って、自分専用のインナーブーツなどを作る。
バックルでガチガチに固めるので、滑る時だけバックルを締めそれ以外のリフトに乗っている時などバックルを緩める人もいる。
スキーというのは変なスポーツだな。
なので自分のサイズ以上の物を使うなど、『考えられない』ことなのだ。
「スキーパトロールって1日中ブーツを脱げないって聞いたから、それなら大きい方が楽かなって思ってさ」
「じゃあ、そのブカブカのブーツで今までずーっと滑ってたの?」
「そうだよ。なにか変?」
「よくそんなので滑れるね」
「俺、元々スノーボードだし、こんなものかなって思ってたよ」
この話が出たのもシーズン中盤を過ぎたあたりか。
それまで彼は普通に僕達と一緒に仕事をして、パウダーとかコブもガンガン滑っていた。
それをそんな大きなブーツを履いて・・・。
本人がいいと思っちゃえば、それでいいのだろう・・・たぶん。
クラブフィールドでもたまに古い懐かしいスキー板を使っている人がいる。
本人が良いと言えばいいのだが、ある程度新しい板の方が楽に滑れると思う。
とにもかくにも僕はこのスキーを使い続けた。
これは作る時にアレックスに頼んでラスタ・カラーを入れてもらった。
僕の車に積んでいるスキーボックスがラスタ・カラーなのである。
ちなみにラスタ・カラーとは緑と黄色と赤の組み合わせで、レゲエの色と認識している人もいる。
このスキーボックスも20年近く前に新品で購入し、それに相方のJCが色を塗った。
こんな派手なスキーボックスを載せている車はない。
これで走っているとすぐに僕だと分かってしまうので、この車で走る時には無理な割り込みをしないよう心がけている。
このスキーボックスも未だ現役である。
そんなラスタ・カラーが入ったスキーは僕だけのオリジナル・デザインで、これと同じデザインの兄弟スキーが日本のどこかにもう一組み存在する。
世界で二つだけのスキーだ。
そのスキー板の使い方たるや凄まじく、愛用などという生易しいものではなく酷使である。
ちゃんと数えたことはないが300日以上は使ったと思う。
時には草の上を滑ったり、岩場もなるべく傷つけないように歩いたりもする。
そしてパウダーを滑っていればその下の岩にスキーを引っ掛けるなんてことは当たり前にある。
できるだけそうしないように心がけてはいるものの、こればっかりは仕方ない。
哀れ、僕のスキーの底は岩でこすれ、エッジはギザギザになってしまうのだが、それを直してくれる腕のいい職人もいる。
ハンピーというスイス人である。
彼はアレックスがやっているスキーチューンのお店で働いていて、夏は僕と同じようにガイドをしている。
彼との付き合いも短くはなく、歳も同じ頃なので色々な事が分かり合える良き友なのである。
このハンピーの腕前が良い。
以前、ある場所で僕のスキーが致命傷を負った。
隠れていた岩に引っ掛かり、エッジとサイドウォールが吹っ飛んで中が見えるような状態になった。
人間でいえば、片足切断、腹が半分えぐれたようなものである。
そんなスキーをヤツが見事に直してくれた。
エッジをつなぎ合わせ、色違いのサイドウォールを貼り付け、手塚治虫のブラックジャックのように継ぎはぎになりながらも僕のスキーは復活した。
僕にはハンピーが優秀な外科医に見えた。
それからも毎年毎年、ヤツに頼むのだが、チューンアップのし過ぎでエッジは細くなり滑走面は薄くなっていった。
僕は絶対的に彼を信頼していたので、彼が「もうダメだよ」と言った時がこの板の寿命だと思っていた。
そしてその時はやってきた。
やはり岩でこすれて以前直したエッジがはがれた。
ハンピーは渋い顔をしながら応急処置で直してくれたのだが「もう長くはもたないぞ」と言った。
「今のうちに会いたい人に会わせてあげなさい」とは言わなかったが、そんなようなものだ。
もういいだろう、ここまで使われればこの板も思い残すことなく成仏してくれるだろう。
そんな想いで僕は次の板を注文した。
デザインもオーダーメイドで出した注文はできるだけシンプルに、そしてラスタ・カラーを入れること。
いくつか案が出てちょっとしたやりとりで僕の板が出来上がったのが5月。
ハンピーにビンディングをつけてもらい、新品の板が来た。
板を取りに行くついでに、自慢のビールをハンピーにおすそ分け。
今度のは兄弟もなく、世界で一本だけの僕の板である。
乗ってみた感想は・・・最高!
この一言だけである。
パウダーの中でズバーっと潜り、グリっと回り、フワっと浮いてくる。
長島茂雄のような描写だが仕方がない。
感覚で生きている者には言葉が追いつかない。
さてこの板は一体これから何年僕と一緒に生きてくれるのだろうか。
楽しみである。
気に入った物があると、いつまでも使い続ける。
スキーの板も同じで、一つと言うかスキーは二つで一つなのだが、同じ板を10年以上使った。
僕のスキーはキングスウッドという板でメイドイン・クライストチャーチである。
友達のアレックスというヤツが作っている。
その作り手があきれるぐらいに同じスキー板を使い続けた。
スキー板の寿命というものがあるかどうか知らない。
たぶんあるのだろう。
板のしなりとか、跳ね返りの強さとか、そういうのがいろいろあるのだと思う。
恥ずかしい話だが、そういうもろもろのことが僕には分からない。
一応スキー関係で飯を食っているのだからプロの端くれなのだが、ことスキーの性能に関しては分からない。
何故ならこの十年、自分の板以外のスキーを使ったことがないからだ。
十年前にこの板を使って「これだ!」と思って以来、それを使い続けた。
試乗会もあちこちでやっているが、他の板に乗ったことがない。
スキーの板について、うんちくを述べる人がいるが、そういう人の話を聞いてもちんぷんかんぷんである。
長いか短いか、太いか細いか、柔らかいか硬いか、ぐらいの違いは分かるが、それまで。
ワインの味のうんちくと同じレベルの話で、ワインを飲んで旨いか不味いかだけで済ます、その程度だ。
本当はそれではいけないのだろうが、まあスキー屋さんの店員ではないし、一秒を争うレーサーでもない。
自分が良いと思ったらそれでいいのだろうと思って、開き直ってしまっている。
あるスキー場で働いていた時の話である。
仲間の一人のスキーブーツがとても大きいのに誰かが気が付いた。
「そのスキーブーツ大きいなあ、足のサイズいくつ?」
「26ぐらい」
「ん?そのブーツは?」
「27.5かな?」
「えええ!なんでそんな大きいの履いてるの!?」
スキーをしない人のために訳をつけると、スキーブーツというものは脛まで足全体をガチガチに固めるものである。
人によっては足型を取って、自分専用のインナーブーツなどを作る。
バックルでガチガチに固めるので、滑る時だけバックルを締めそれ以外のリフトに乗っている時などバックルを緩める人もいる。
スキーというのは変なスポーツだな。
なので自分のサイズ以上の物を使うなど、『考えられない』ことなのだ。
「スキーパトロールって1日中ブーツを脱げないって聞いたから、それなら大きい方が楽かなって思ってさ」
「じゃあ、そのブカブカのブーツで今までずーっと滑ってたの?」
「そうだよ。なにか変?」
「よくそんなので滑れるね」
「俺、元々スノーボードだし、こんなものかなって思ってたよ」
この話が出たのもシーズン中盤を過ぎたあたりか。
それまで彼は普通に僕達と一緒に仕事をして、パウダーとかコブもガンガン滑っていた。
それをそんな大きなブーツを履いて・・・。
本人がいいと思っちゃえば、それでいいのだろう・・・たぶん。
クラブフィールドでもたまに古い懐かしいスキー板を使っている人がいる。
本人が良いと言えばいいのだが、ある程度新しい板の方が楽に滑れると思う。
とにもかくにも僕はこのスキーを使い続けた。
これは作る時にアレックスに頼んでラスタ・カラーを入れてもらった。
僕の車に積んでいるスキーボックスがラスタ・カラーなのである。
ちなみにラスタ・カラーとは緑と黄色と赤の組み合わせで、レゲエの色と認識している人もいる。
このスキーボックスも20年近く前に新品で購入し、それに相方のJCが色を塗った。
こんな派手なスキーボックスを載せている車はない。
これで走っているとすぐに僕だと分かってしまうので、この車で走る時には無理な割り込みをしないよう心がけている。
このスキーボックスも未だ現役である。
そんなラスタ・カラーが入ったスキーは僕だけのオリジナル・デザインで、これと同じデザインの兄弟スキーが日本のどこかにもう一組み存在する。
世界で二つだけのスキーだ。
そのスキー板の使い方たるや凄まじく、愛用などという生易しいものではなく酷使である。
ちゃんと数えたことはないが300日以上は使ったと思う。
時には草の上を滑ったり、岩場もなるべく傷つけないように歩いたりもする。
そしてパウダーを滑っていればその下の岩にスキーを引っ掛けるなんてことは当たり前にある。
できるだけそうしないように心がけてはいるものの、こればっかりは仕方ない。
哀れ、僕のスキーの底は岩でこすれ、エッジはギザギザになってしまうのだが、それを直してくれる腕のいい職人もいる。
ハンピーというスイス人である。
彼はアレックスがやっているスキーチューンのお店で働いていて、夏は僕と同じようにガイドをしている。
彼との付き合いも短くはなく、歳も同じ頃なので色々な事が分かり合える良き友なのである。
このハンピーの腕前が良い。
以前、ある場所で僕のスキーが致命傷を負った。
隠れていた岩に引っ掛かり、エッジとサイドウォールが吹っ飛んで中が見えるような状態になった。
人間でいえば、片足切断、腹が半分えぐれたようなものである。
そんなスキーをヤツが見事に直してくれた。
エッジをつなぎ合わせ、色違いのサイドウォールを貼り付け、手塚治虫のブラックジャックのように継ぎはぎになりながらも僕のスキーは復活した。
僕にはハンピーが優秀な外科医に見えた。
それからも毎年毎年、ヤツに頼むのだが、チューンアップのし過ぎでエッジは細くなり滑走面は薄くなっていった。
僕は絶対的に彼を信頼していたので、彼が「もうダメだよ」と言った時がこの板の寿命だと思っていた。
そしてその時はやってきた。
やはり岩でこすれて以前直したエッジがはがれた。
ハンピーは渋い顔をしながら応急処置で直してくれたのだが「もう長くはもたないぞ」と言った。
「今のうちに会いたい人に会わせてあげなさい」とは言わなかったが、そんなようなものだ。
もういいだろう、ここまで使われればこの板も思い残すことなく成仏してくれるだろう。
そんな想いで僕は次の板を注文した。
デザインもオーダーメイドで出した注文はできるだけシンプルに、そしてラスタ・カラーを入れること。
いくつか案が出てちょっとしたやりとりで僕の板が出来上がったのが5月。
ハンピーにビンディングをつけてもらい、新品の板が来た。
板を取りに行くついでに、自慢のビールをハンピーにおすそ分け。
今度のは兄弟もなく、世界で一本だけの僕の板である。
乗ってみた感想は・・・最高!
この一言だけである。
パウダーの中でズバーっと潜り、グリっと回り、フワっと浮いてくる。
長島茂雄のような描写だが仕方がない。
感覚で生きている者には言葉が追いつかない。
さてこの板は一体これから何年僕と一緒に生きてくれるのだろうか。
楽しみである。