早朝、白髭神社の湖に立つ鳥居と朝日を拝み、旅を続ける。
おっさんに駅まで送ってもらい、サンダーバードという男の子が喜びそうな名前の特急で京都へ。
京都からは東海道線で草津まで、わりと混んでいる通勤電車で20分ほど。
草津から草津線に乗り換えて貴生川まで。
この辺りからだんだんローカル線っぽくなっていき、旅情も盛り上がる。いいぞいいぞ。
この時点で日本に着いてから2週間ほど経っていたのだが、それまでは自分が住んでいた場所であったり、友達を訪ねたり、ある程度知っていた場所を巡っていた。
だがこれから尋ねる日野という場所は縁もゆかりも無く、どこにあるかも知らない。
それにこれから会う人も西やんという友達のそのまた友達、そして読んだ本の筆者ももちろん面識がない、という具合に分からないことづくめだ。
だが分からない展開の中で妙に旅を楽しんでいる自分がいた。
貴生川という駅についてそこからは近江鉄道という私鉄に乗り換える。JRパスは使えない。
貴生川駅で信楽高原鉄道という看板を見た。
そうか信楽(しがらき)という場所はこの辺りなんだな。
僕が乗る近江鉄道は信楽鉄道とは反対側。
看板に沿ってホームへ向かうと長蛇の列である。
今日は日野のお祭りだからな、きっと観光客で混みあうんだろうか。
自動券売機などとしゃれたものはなく改札兼窓口で駅員がせっせと切符を売り、その場ではさみを入れている。
「こんなに並んでいたら出発時間に間に合わないじゃないか」
近くにいたおじさんがイライラしながらしゃべっているのが聞こえた。
確かに電車の出発時間は迫っているし、これを逃せば次の電車は1時間後だ。
都会で時間通りにキチキチと電車が出る感覚だとそうなんだろうが、ここは田舎で目の前に電車が停まっているのが見える。
別の誰かがおじさんに言った。
「大丈夫、全員乗るまで待ってくれますよ。」
そうだよな、そういうノリって大切だよな。
適度なユルさと言うのか、時間に縛られない余裕とでも言うのか、でもそれは過密な都会では通用しない。
出発の時間を多少越えて改札に人がいなくなり電車は駅を出た。
貴生川から日野までは30分ほどの行程だ。
電化されているが線路は単線、いかにもというローカル線でこういうのは大好きである。
かなり混んでいた車内も途中の駅で中学生の一団が降りると座るスペースも出てきた。
春の日差しが降り注ぐ中、電車は田畑の中をガタゴトと走る。
日野駅に着くと乗客のほとんど、と言っても30人ぐらいだがそこで降りてしまった。
僕も降りて今日会うはずの星子に電話をいれた。
大きな荷物があることを伝えると、彼らが投宿している旅館に荷物を置いてから綿向神社に来てくれと、旅館から神社までは歩いて20分ぐらいなのでそこで落ち合おうと。
ふむ、そうか、次のチェックポイントは旅館だな。
駅を出たとたんに町中祭り一色で、どこもかしこも観光客であふれている、そんなイメージが少なからずあったのだが駅前はガランとしてこの町で祭りをやっているという雰囲気ではない。
駅を出ると地元のボランティアガイドなんだろうな、はっぴを着たおじさんたちがさっき降りた乗客と話をしている。
どうやらさっき電車にのって来た人達の大半は祭りに行くのではなく、近くに山歩きに行くようだ。
ボランティアガイドの人に話を聞くと、街の地図を渡され祭りをやっている地区までバスで15分ぐらいかかると。
のんびりとバスを待ちながら、僕はこの奇妙な旅に想いをめぐらせていた。
さて今日はこれからどうなるんだろう。
何かは分からないが面白いことが始まりそうな予感がする。
先が見えなくて、とりあえず一つ一つの行動をワクワクしながらこなしていく愉しみ。
まるでドラクエなどのロールプレイングゲームを生身で実践しているようで実に愉快である。
バスで15分ほど揺られて教えられたバス停で降り歩き始めた。
♪知らない街を歩いてみたい、という唄があったがまさにそれ。
キョロキョロしながら旅館を探す。
バス停から先は車の乗り入れ禁止で、ここまで来ると祭りの雰囲気があちこちで感じられる。
旅館に着くとすでに話がついているようで、彼らが泊まっている部屋に通された。
会った事もない人の部屋を覗くようで少々気が引けたが、荷物を下ろし簡単に着替えを済ませ旅館を出た。
旅館から神社までの通りは昔の造りの家が多く、中には家を開放して内部を見せてくれる家もある。
9年ぶりに日本に帰ってきた僕には全てが物珍しく、それでいてどこか懐かしい、そんな想いが溢れる。
縁台に腰掛けてお茶をご馳走になりおばあさんの話を聞いてと、あーやっぱり久しぶりの日本はいいなあ。
いかんいかんそんな事をしていたら遅くなってしまう。先へ進まねば。
神社の近くまで来ると屋台が並び人も増え一気に祭りの雰囲気が盛り上がる。
そうそうこの感じ、ニュージーランドでの暮らしが長く、忘れかけていた日本のお祭りの感覚がよみがえる。
しみじみとそんなことを感じていたら、遅くなった僕を心配したのか星子から電話がかかってきて、その数分後に彼らと合流した。
続
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